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第75話 :「閉ざした心を解き放ち、女神に捧げた仲間への誓い」

 俺は《悪魔》に弾き飛ばされ、美月の足元まで転がり込んだ。力が入らず、地面を転がるだけの情けない姿――そんな俺のすぐそばで、美月はさっきまで浮かべていた哀しげな表情を一瞬で切り替え、迷いなく駆け寄ってきた。


「瑛太さん!! ……だめだ、そんな致命傷、私が絶対に治す!(完全回復)!」


 貫かれ、穴の空いた俺の心臓と胸部が、まるで映像を巻き戻すように塞がっていく。


 ああ、思い出した――これは美月のスキル《私たちの揺るぎない不滅の絆》。互いの絆が繋がっている限り、一日に一度だけ致命傷を無効化できる能力だ。今まで、こんな瀬戸際の場面なんてなかったから、正直、存在すら忘れかけていた。


 ……けど、このスキル、双方向だったはずだよな? 俺は美月を傷つけた。それでも彼女は俺を信じてくれるのか……まだ、こんな強い想いを抱いてくれるのか?


「瑛太さん、前にも言ったでしょ。私のスキルは、私たちの絆の値を反映するって。ずっと一緒に冒険してきて、私は前よりも近づけたって思ってた。でも……数値は全然上がらなかった」


 美月は痛みを押し殺しながら、しかし揺るがぬ瞳で俺を見つめてくる。その目は、俺の心を見透かしていた。


「日本にいた頃から、あなたはいつも私と距離を取ってた。だから、私を甘く見ないでね。あなたがまだ本当には私を受け入れてないこと……とっくに気づいてた。ただ、それをはっきり言われて、しかも冒険を重ねても変わらないって知って、少しショックを受けただけ。……だから、今は私のことより梓を」


 そう言い残すと、美月は悪魔へと走り出した。俺に時間を稼ぐつもりらしい……やっぱり、美月は変わったな。前なら絶対に食い下がってきただろうし、こんなすぐに俺から身を引くなんてあり得なかった。美月が、俺が他の女性を慰めるのを許すはずがない。ま、今は置いておくよ。


 俺は彼女の想いを受け取り、梓のもとへ向かう。


「瑛太……やっぱり、あたしのこと、どこにでもいるような、騙されやすい女だって思ってるんでしょ? だから、ちょっと言葉をかければ悩みなんて消えるって……」


 初めて見た。狐が泣きそうな顔をする瞬間を。


「違う、梓。俺は軽い気持ちでお前を慰めたんじゃない。あれは、俺の心からの言葉だ」


「じゃあ、なんでさっき……あの言葉を認めたのよ!」


「確かに、あいつの言ったことの大半は本当だ。だが、歪められた部分がある。俺の本心をねじ曲げたんだ。あれだけは絶対に違う。……だから信じてくれ、梓。今は凜を助けてくれ。その後は全部、必ず説明する!」


「……約束できる?」


「ああ、女神(ルナリア)様に誓う。俺は絶対に全部話す。何ひとつ隠さない」


「うん……そ、そう。なら、信じてあげる……今はね」


「助かる。凜のこと、頼んだ」


 渋々ではあったが、梓は立ち上がり、凜のもとへ走っていった。彼女が女神を信仰していないのは知っている。それでも――女神(ルナリア)に誓うというのは、俺にとっては()()だ。もし破れば、俺は二度と聖属性魔法を使えなくなる。それほど一方的で、報酬すらない契約だ。これは女神(ルナリア)様への誓いの重さだ。


 ……まあいい。今は美月のもとへ戻り、《悪魔》と戦う。


 《チッ……お前ら、感情の立て直しが早ぇな。普通ならとっくに俺の手で死んでるはずだぜ》


「そんな安い挑発、瑛太さんへの私の想いは揺らがない! 喰らえ!(アイスクロウ)!」


 美月は軽やかに悪魔の攻撃を避け、氷の爪で鋭く反撃する。その一撃は見事に命中した。


「美月、前線は俺だ!(セイクレッドエンチャント)!」


 刀身に聖なる光を纏わせ、一気に斬り込む。今度は悪魔の爪が聖光で焼かれ、煙を上げた。


 《クソッ……何でそんなすぐ立ち直れるんだよ!》


「フッ……俺をそう簡単に倒せると思うな! お前の弱点は聖属性だろ! 美月の夢の中で戦った時に気づいてたんだよ!」


 もうこれ以上、こいつと無駄口を叩くつもりはなかった。だから俺はひたすら刀を振るい続け、ヤツに反撃する暇すら与えなかった。


 さっきまで押されていた状況も、神聖魔法のおかげで一気に優勢を取り戻す。……やっぱり、この魔法は桁外れに強い。


 《くっ……! あの忌々しい女神が余計な真似をして作り出した魔法さえなければ、こんな屑ごときに押されるわけが……!》


「神聖魔法に文句か? 便利すぎるのは認めるがな! ――なら、この一撃はどうだ、悪魔!!(神聖打撃)!」


 輝く光球がヤツめがけて飛び、直撃した瞬間、強烈な衝撃が爆ぜた。


 《ぐあああああああ!! 貴様……! もう絶対に許さん!!》


 光に焼かれたヤツの身体から、黒い煙が立ち上り、肉体が溶けるように崩れ始める。


 ――嫌な予感がした。まさか、こいつ……。


 《ククク……ハハハハハ! この姿を使えば、誰もオレを止められはしない! 幻影ども、我が身へ戻れ!》


 まだ凜と戦っていた幻影たちが一斉にヤツの体内へ吸い込まれていく。そして、黒い装甲のような肉体が形成され、三メートル近い巨躯が現れた。金属のような光沢を放ち、威圧感が桁違いだ。


「……ふざけんなよ。第二形態かよ……。この世界、やたら二段変身好きすぎだろ……!」


 《クク……名乗ってやろう。今の俺は“夢幻の悪魔”ではない! 《傲慢》の魔将――アロガントだ!!》


「瑛太君、どうする?」


 凜の落ち着いた声が聞こえた。さすがは凜、こんな状況でも冷静に分析できるのは、正直俺より上だ。俺も平静を保つつもりだが……この圧はヤバい。


「わからん……。今の能力は完全に未知数だ。とにかく防御を固めて、攻撃パターンを見極めるぞ」


「了解! じゃあ今回は精神防御も追加する。(守護の盾!(精神の盾)!」


 凜の魔法が俺たちを包み込む。


 守護の盾は物理・魔法防御を短時間上げるスキル、精神の盾は精神ダメージやデバフへの耐性を高める。……さっき、こいつが精神攻撃を使わないと思ってたのは完全に油断だったな。


 《――覚悟はできたか? 雑魚ども。これからは、どちらかが完全に死ぬまでの戦いだ!!(我が意志こそ絶対の法則)!》


 ヤツの身体から黒い半球状の結界が広がり、俺たちを包囲した。同時に、途轍もない圧力が全身にのしかかり――


「ぐっ……!」


 俺は地面に膝をついた。動けない……!美月も、凜も、梓も同じように跪かされている。


 《ハーハハハハ! この領域内では、俺の許可なく立ち上がることはできん! 数倍の重力に押し潰されながら、這いつくばって死ね!!》


 黒い巨影が、信じられない速度で俺たちに迫る。


 くそっ……! このままじゃ全員やられる……! 俺は……俺はどうすれば……!皆を守るために、どうすればいい!


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