第73話 :「悪魔との死闘、その最中に急襲するさらなる危機」
梓の夢から目を覚ました時、予想通り──今度はあの妙な空間じゃなく、現実世界に戻っていた。目を開けた俺の視界に、美少女たちの姿はもうなかった。
代わりにいたのは──真っ白な猫の姿をした美月、顔だけは美少女のトカゲ人間の凛、そして黄金色の毛並みを持つ狐の梓。
……そうだ、これが現実だ。なんとも酷く、そして醜い現実。俺自身だって相変わらず腐ったゾンビのまま。けどな、俺はあの美妙で役立たずな夢の世界に甘んじる気はねぇ。ましてや、美月たちが苦しむ悪夢に浸かるなんて絶対に嫌だ。
美月たちもゆっくりと目を覚まし始めた──その時、やつが姿を現した。《幻夢の悪魔》……俺たちの敵だ。
《クソッたれがァ!! テメェ、何度も何度もオレの邪魔をしやがって……その上、オレの《夢幻の呪石》まで盗みやがったな!! あれはオレが数百年かけて蓄えたエネルギーの結晶だぞッ!!》
「へぇ……そりゃどうも。中身には、お前が殺した犠牲者の力や、俺たちの魔力や精神力も混ざってんだろ? 要するに、お前が吸い上げた余剰エネルギーの貯蔵庫ってわけだな。それなら──精神的損害への補償として、ありがたく貰っとくぜ」
《精神的損害!? 誰がそんなモン気にするかァ!! あれはオレの血と汗の結晶なんだよ! それがあれば、オレはもっと高位の悪魔へ進化できる! そうすりゃ《あのお方》の配下になれるんだ! テメェらみたいな低ランクのゴミは、オレの糧になって当然だろうがァ!!》
「あーはいはい。つまりとっても悪そうな奴の手下になりたいわけだな? ……悪いが諦めろ。俺と仲間に手を出した時点で、お前の寿命はそこで終わりだ」
これ以上、くだらねぇ口喧嘩に付き合う気はない。俺は刀を抜き、戦闘態勢に入った。その瞬間、美月たちも完全に目を覚ます。
「美月、凛、梓──戦闘準備だ。これから復讐戦を始める!」
「あ~、おはよ、瑛太さん」
「美月、挨拶は後だ! 敵がすぐそこまで来てる!」
全員が起き上がったのを確認し、俺は再び精神リンクを繋いだ。リンクが成立すれば、加速した思考状態で戦術指揮ができる。意識が澄み渡った俺たちは──現実の戦場へと立ち戻った。
《よくぞ来たな、ゴミ共……本当は夢の中で安らかに殺してやるつもりだったが、そのチャンスを蹴ったんだ。じゃあ、今ここで死ね! 来い、オレの奴隷ども!!》
悪魔が吠えると同時に、全身から禍々しい瘴気が噴き出す。そして……周囲の空間に、半透明の魔物たちが現れた。ゴブリン、オーク、狼──それだけじゃない。人間やエルフの姿まで混ざってやがる……!?
なんだ、この能力……!? こいつのスキルに、こんなのはなかったはずだ!
《ククク……テメェ、鑑定系のスキルを持ってるだろ? だがなぁ、スキルなんぞに頼るバカはこうなるんだよ! この力は鑑定にもシステムにも載らねぇ。根源の力を使わなきゃ理解すらできねぇんだ! ハーハハハハッ!!》
根源の力……!?この世界が複雑な構造を持ってるのは薄々分かってたが……魔力と精神力以外にも力があるってのか!?
なんで女神様は、こんなややこしい世界を創ったんだよ……!
《この偉大な力で粉々に砕け散れ! そして新たな奴隷となれ! ……行けッ!!》
一斉に襲いかかってくる幻影たち──数は百を超えている。
こんなの、一瞬で全ては防ぎきれねぇ……!
俺は即座に、凛へと指示を飛ばした。
「……あぁ、分かったよ、瑛太君。(守護の盾)」
凛の放った護りの盾が、俺たち四人を包み込み、被害を最小限に抑える。俺もすかさず《従者召喚》を発動し、一体のオークを呼び出した。
……もっとも、こいつはただのオークじゃない。
「召喚――ハイオーク!」
俺の召喚獣は、これまで俺が倒して吸収してきた敵の力によって進化する。
つまり――十分な数のオークの魔石を吸収させれば、普通のオークは《ハイオーク》へと進化するのだ。
Dランクの魔物――腕力と耐久力に特化した、真正面から殴り合える化け物。
今回、俺がこいつを選んだ理由は……
「スキル《挑発》を使え!」
「ガァァァ――!」
ハイオークが咆哮と共にスキルを放ち、周囲の敵のヘイトを一気に引き寄せる。たちまち、五十体近くがそっちへ向かっていった。
これで二手に分かれて戦える。俺と美月が《悪魔》を、凛と梓がその他の幻影を引き受ける。長引かせるわけにはいかない。
もし俺の召喚獣がやられれば、あっという間に数の暴力で押し潰されるだろう。
「美月――行くぞ!!」
「はいっ、瑛太!! 《氷の吐息》!」
美月が翼を広げ、氷のブレスを吐き出す。今回は溜めを作らず放ったが、相手は幻影――これで十分だ!氷に捕らわれ動きの鈍った敵を置き去りにし、俺たちはそのまま《悪魔》へ突き進む。
「凛、梓――あとは頼んだ!」
「ええ、背中は僕が守るわ!」と凛に任せた。
「任せとけ、瑛太! 一歩たりとも近づけさせない――《ファイアースピア》!」梓が放った炎の槍が幻影の一体を貫き、霧散させた。
作戦は単純だ。後方でハイオークと凛、梓が幻影を押さえ、前線で俺と美月が《悪魔》を叩く。
《ほぅ……なかなか悪くない作戦だな。だが、それが通じるのは、オレを倒せる場合だけだ。テメェ、オレをどれだけ舐めてる? オレはCランクの悪魔だぞ! Eランクの下っ端二匹でどうこうできると思ってるのか?》
「ランクが上だって? だから何だよ。さっきお前の魔法の制御権を奪った時に確信した。――この世界で本当にモノを言うのは、ランクじゃない。実力だけだ!」
《フン……頭が悪いにもほどがあるな。ランクは差を示す指標だ! オレがCランクに辿り着くのに何百年かかったと思ってる? 生まれてまだ一ヶ月も経ってないヒヨッコが調子に乗るな! 喰らえ、《恐怖》!》
――やべぇ、精神攻撃か!?だって俺の種族特性……精神系は弱点だってのに!
心臓が鷲掴みにされたような感覚と同時に、全身を恐怖が支配する。足が震えて動けない……くそっ……!
《ハハッ、やはりただのクズだな。こんな初歩の特殊攻撃すら防げんとは……やっぱりスキル頼みのゴミだ! 死ね!》
奴の腕が変形し、五本の鋭い爪が伸びる。風を裂く音と共に、一瞬で俺との距離を詰めてきた!頭部めがけて振り下ろされる爪――避けられねぇ!!
これは死ぬぞ!
皆さま、こんにちは。ついに決戦の時を迎えましたね!
次回は、皆さまと美月さんたちに、瑛太の抱える“最も深い恐怖”を正式に明かすことになります。果たして瑛太と美月さんたちは、この難関をどのように乗り越えていくのでしょうか。
どうぞご期待くださいませ。
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本当にありがとうございます!
明日も同じく21時にお会いしましょう!!