第7話 :「拾ったのは聖剣じゃない。滅びの記憶だった」
はぁ……はぁ……はぁ……
まじで……死ぬかと思った……!
ていうかさ、なんで……なんで俺だけ、こんな命がけの迷宮にひとりきりなんだよっ!?
こんなの……あまりにも不公平すぎるだろっ!!
女神様は、他のやつらを異世界に転生させたくせに、なんで俺だけこの地獄みたいなダンジョンなんだよ……!
……いや、ダメだ。落ち着け、俺。
女神様は言ってた。「迷宮の奥へ進めば、後悔しない」って。
ってことは……俺だけじゃない。俺以外にも、この場所に転生させられた人間がいる可能性が高い。そして、その後悔しない状況ってことは……
――星野さんたちも、この迷宮に転生してきてるってことなんじゃないか……?
……嘘だろ。それって、やばくないか?
俺はいい。子供の頃から孤立やいじめとか、理不尽な暴力にはある程度慣れてる。でも……星野さん、鷹山さん、そして森本さん。彼女たちはただ普通の女子高生なんだよ。そんな彼女たちが、この理不尽すぎる迷宮を、無事に乗り越えられるとは……とても思えない。
この女神様、一体何考えてんだよ!なんで皆をこんな危ない場所に巻き込むんだ!
……いえ。今は文句言ってる暇はねぇ。
とにかく一秒でも早く、先へ進むしかない。合流する、それが今の最優先だ。
そんなことを考えながら、倒れた魔物たちにトドメを刺す。動かなくなったのを確認して、体内から魔石を取り出す。
遺体はそのまま残ってるみたいだ。じゃあ一応、《インベントリ》に保管しておこう。
後で何かの素材に使えるかもしれないしな。
さて、そろそろこの部屋から出よう――と思った、そのとき。
「……っ!?」
入口の床に、突如として魔法陣が浮かび上がる。ゆっくりと、その中心から……宝箱が、現れた。
な、なんだよ、これ……また罠か!?
――いや、信じてるよ、女神様。
俺はビクビクしながらも、宝箱に手をかける。慎重に、蓋を――開けた。中に入っていたのは、一本の……錆びついてボロボロになった、古い剣。
「な、んだよ……これだけかよ……」
ガッカリしながらも、その剣に手を伸ばした。
その瞬間――
「う……っ!?」
猛烈な“想い”が、俺の脳を突き抜けた。まるで、強烈な感情の奔流が、頭の奥に直接叩き込まれたような感覚。そして……俺の意識の中に、映像が流れ始める。
これは……?この剣の持ち主が、男と――対峙している……!
————
――燃え上がる炎の海。
焼け落ちた高層ビル、ひび割れたアスファルト、絶望に覆われた大都市。ここは、世界の命運を左右する最終戦場――
漆黒の空の下、一人の男が高らかに笑い声を上げる。その瞳には狂気と陶酔が浮かんでいた。
「ハハハハハッ!! ハハッハハ!!この力さえあれば、本大爺こそが最強の存在だ!!貴様らはすべて我に跪け!! そうすれば、特別に命は奪わず、《OO様》の忠実なる眷属として転化してやろう。永遠に我に仕えよ!!」
その狂気に満ちた声に対し、少女は毅然と剣を構える。手にした剣は、まるで命を宿しているかのように柔らかな光を放ち、
その光は彼女の信念と同調し、凛とした意志を伝えてくる。
「……ふざけないで!あなたは信仰も持たず、制御不能な力に溺れ、世界を好き勝手に踏みにじるだけの愚か者!私は、女神に仕える最も忠誠深き巫女――聖女としての信念にかけて、あなたの暴走、そしてこの世界の破滅を絶対に止めてみせる!!」
少女の瞳に迷いはなかった。その身体を包むのは、数え切れぬ祈りの光。
聖剣に込められた意志が、静かに、しかし力強く共鳴する。
だが――
「ハハハ……何を勘違いしている? 本大爺が世界を滅ぼすだと?笑わせるな……世界は本来、我が所有物なのだ。我が物を、どうして自ら滅ぼす必要がある!? ハッハッハッハッ!!」
次の瞬間、男の全身から――火山のような黒き衝動が噴き上がった。世界の理さえも押し潰すほどの、純然たる闇のオーラ。
しかし、少女は一歩も引かない。彼の妄言を、強く、明確に否定する。
「それこそが滑稽よ。この世界は、あなたの所有物じゃない。ここには――数え切れない命が生きている。あなたはただ、自分の弱さに溺れ、人々の悪意を吸収し、力を得たつもりになっているだけの存在……《OO》の化身――すなわち、《傲慢の化身》に過ぎない!」
その言葉と共に、視界に映るのは、焼け野原と化した都市。崩れた街並み、燃え続ける大地。この戦場がいかに破滅的な状況にあるかを物語っていた。
だが、男は嘲るように肩をすくめ、再び口を開いた。
「邪悪? フッ、違うな、それはお前が人間の本質を理解していないだけだ。《知恵》こそが病だ。知恵を持つ限り、人は疑い、妬み、憎しみ合う……そして《傲慢》は、知恵ある生命が本能的に抱く感情だ。法則を理解し、知識を学び、次代に継承することができる。だからこそ、自分たちこそが生命の頂点だと錯覚する!――《OO様》の祝福のおかげで、俺はその知恵の根源を自在に操れる!俺が最強でなくて、なんだというのだ!!」
だが――少女は微動だにしなかった。その瞳には、何万の光が宿るような、揺るぎない決意がある。
「……違う。あなたは、ただ力に酔いしれた――滑稽な《クラウン》よ。くだらない詭弁はもう終わり。《OOの傲慢》よ。私が証明してみせる。人は、正しきものを信じる心――信仰と正義を貫こうとする意志によって、本当の強さを手に入れるということを!この大陸に生きる人々よ……どうか、その想いを、私に託して――私が、この命にかけて……この世界を、あなたから守り抜く!!」
その瞬間、少女の全身から放たれたオーラは、対峙する男と対等に拮抗するほどの力を放った。
それは――幾万、幾十万の祈りが集い、闇を切り裂くほどに輝く、希望の力。そして、少女は――その剣を振り抜いた。
————
……映像は、そこで終わった。嘘だろ…?世界を滅ぼすって?この世界って、そんなに危険なところなのか?




