第7話 :「初陣の相手は、まさかの定番ゴブリン!」
そんなことを考えながら前進していると——
次の瞬間、見た目には何の変哲もない床に足を乗せた。
カチッ——
「あ、またかよ!」
矢が飛んできた。咄嗟に身をよじって回避……した、つもりだったが——
ズドン!
「ぐっ……!」
肩骨に矢が突き刺さる。
《命中確認。(刺突耐性)によりダメージ軽減。毒素を検出──(異常状態無効)により無効化。》
「……ふぅ、助かった。スケルトン族様様だな」
刺突ってのは、筋肉とか内臓があるからこそ致命傷になる。骨だけの俺には、あまり効果がない……が、逆に衝撃や打撃には要注意か。
車に跳ねられた時みたいに、骨そのものが砕けたら意味ねぇしな。毒も……肉体がなければ回らねぇ。
なるほど、こういう情報も戦闘中に表示されるのか。画面端に、新たにスケルトン族の耐性や特性が、アイコンとして追加表示されていた。
「へぇ……今まで出てなかったってことは、実際に体験しないと表示されないってことか。親切設計ってやつだな。視覚的に確認できるようになるのは助かるぜ」
そんなことを考えていた、その時だった。
ドンッ!!
「っ!?」
頭上から轟音が響き、見ると、錆びた鉄槍がこちらに向かって一直線!
「また罠かよぉぉぉぉぉ!!」
反射的に頭を傾け、槍が顔骨すれすれで通過。床に突き刺さり、火花を散らして止まる。
「っぶねぇ……マジで、ギリギリだった……!」
「(森羅万象)!!お前、また反応なしだったじゃねぇか!?情報収集スキルなら、なんか教えてくれてもいいだろがっ!!」
《本罠は“視認不可能構造”に分類。初回遭遇により記録・識別・マーク付けが可能。》
「つまり、お前は俺が一度喰らって、やっと罠の存在を把握するってわけかよ!?……命を代償に情報を集めるシステムかよ、冗談じゃねぇ……!」
ガクガクと震える顎骨から、乾いた音が響いた。
だが、その響きが消える頃には、俺の心は既に冷静さを取り戻していた。
「……まぁ、そりゃそうか。(森羅万象)の本質は“情報の解析”であって、“予知”じゃねぇもんな。素材、つまり“情報”がなきゃ、何も出せねぇ……罠ってのは、その『無知』への最大の罰ってわけだ」
——この階層、まさに“罠職人の楽園”ってところだな。
さすがはルナリア様の“罰”ってだけある。……えらく効いてるよ、感謝してます、本当に。だからね、罰はもいい、もう反省しますから、許してください。
さらに少し進むと、明らかに不自然な地面が目に入った。
どう見ても罠だ。凝視して確認していると——その床が、まるでゲームのように赤い光に包まれた。
「おおっ……!やっと役に立ったな、(森羅万象)!」
ようやく“それっぽい”ヒントが出たことで、俺は罠を迂回して前に進もうとした——その瞬間!ズルッと、角の先からぬっと現れた影——敵だ!?
「って、ゴブリンかよ!!」
やっぱ異世界っていったら、最初の敵はこいつだよな……。
角を曲がった先に潜んでたみたいだ。俺が罠を迂回して進んだタイミングで奇襲を狙ってきやがったか。
「イィ……ヤ……ヤアアアーー!」
得体の知れない叫び声とともに、片手にボロい棍棒を持ったゴブリンが飛び出してくる。
姿勢を低く構えて、どうやら攻撃態勢だ。
「はああああああああっ!!」
吠えるような叫びとともに、まっすぐ突っ込んでくる。でも、そのとき気づいたんだ。
かつての俺、地球にいたときは暴力沙汰なんて皆無だったはずなのに——
今の俺は、異様なほど冷静だった。
敵の動き、踏み込みのタイミング、武器の振り方。全部、スローで見えてるみたいだ。
俺は思いっきり跳び上がる。
ゴブリンは速度がつきすぎて止まれず、俺が跳ねたのを見て、棍棒を振るったが——
無駄だ、その一撃は俺のいない空間を横に薙いだだけ。
空中で姿勢を整えた俺は、ゴブリンの頭に蹴りを食らわせ、そのまま後方に飛び退いた。
「っと、よし……!」
そしてゴブリンは——バランスを崩して前に倒れ込む。そう、まさにさっき俺が通り抜けた、あの罠の場所へ。
地面がカシャン!と音を立てて右にズレると、そこには落とし穴型の罠。
ゴブリンの顔面から一直線に転落!
「うわっ……!」
その底には石製のスパイクがびっしりと並んでいて、ゴブリンの体は抵抗もなく、何本もの槍で串刺しになった。
「……えぐっ。マジか。さっきと同じタイプの落とし穴かよ。こえぇよこのダンジョン……」
どうすっかな……と呆然と見下ろしていたら——
ズガンッ!
突如、スパイクが地面を突き破って上に飛び出し、
その勢いのままゴブリンの死体を地表まで弾き返してきた。
バンッと音を立てて、罠は再び“リセット”されるように元通りに。
「うわ……そういう再利用の仕方すんのか……よくできてんな、このダンジョン……」
俺はゴブリンを見ながら、両手を合わせて二度軽く叩き、「南無」と心の中で唱えた。
「ありがとう、ゴブリンさん。あんたがいなかったら、罠の恐ろしさが本当に分からなかっただろうな。」
皆さま、こんにちは。
瑛太はスケルトンなので、さまざまな耐性があって、普通の人間にとっての脅威があまり伝わらなかったかもしれません。
というわけで、今回はゴブリンたちに身をもってこのトラップの悪意を体験してもらいました!
ここまでの展開、皆さまは楽しんでいただけておりますでしょうか?
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