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第68話 :「鷹山凛:恐怖の先へ、そして過去を抱きしめた僕の物語」

 疲れ切った身体を引きずるようにして、僕は瑛太君のもとへと向かった。


「凛、待ってたよ!とにかく、まずは回復だ(ハイヒール)!」


 温かい純白の光が僕の身体を包み込んだ。さっきまでの疲労が嘘みたいに消えていく。打撲していた箇所も、すっかり癒えていた。


「ありがとう、瑛太君。でも……どうやって向き合えばいいんだろう、父さんに。」


 僕はもう一度、父さんと正面から向き合いたいと思ってる。けど、あの人の視線はずっと瑛太君に向けられていて、僕のことなんてまるで見ていなかった。


「凛、あいつのリズムはなんとなく分かった。あと十秒で強力な一撃が来る。そこで僕が吹き飛ばされるから……その隙に、君が代わりに戦って。」


「……うん、分かった。」


 正直、不安だった。あの人の剣の速さは異常だ。僕に、本当に対抗できるんだろうか?

 ――そして数秒後、その瞬間は訪れた。


(斬心・一字斬)――!


 全身の力を一点に集め、前方への勢いを乗せて繰り出される居合術。目にも止まらぬ速さだ。瑛太君はその一撃をなんとか受け止めた。だが、わざとらしく大きく吹き飛ばされて倒れ込む。


 父さん――いや、あの人は勝利を確信したのか、ゆっくりと僕の方へ歩いてきた。


「ふん、邪魔者はようやく消えたか。凛、立ち上がれるなら剣を取れ。我らの鍛錬を続けようじゃないか!」


 鍛錬だって?――いいだろう、やってやるよ。僕は木剣を握りしめ、迷いなく構えた。振り下ろしたのは、正面からの真っ直ぐな斬撃。けれどそれは、あっさりといなされた。


 だけど、構わない。――だって、もうこの人が本物の父さんじゃないって分かってるから。


 相手は僕の剣を左に流し、僕の腕は低い位置に落ちた。その瞬間、僕は右前に一歩踏み込み、左手で剣を反手に持ち替え、右肘でやつの顔面を狙った。


 そう、僕の家では剣術だけじゃなく、もっと実戦的な格闘術も教え込まれていたんだ。あらゆる戦闘スタイルを取り入れ、剣術と組み合わせる。それこそが父さんの“最強の戦い方”。


 ……でも、僕は普段こんな技、絶対に使わない。だって、それは父さんを思い出してしまうから。だけど、今は違う。相手は父さんじゃない。そして、全力を尽くさなきゃ、恐怖と向き合ったことにはならない――!


「はあっ!」


「ほほー、やるじゃないか、凛。やっぱり男がいると気合が入るんだな!」


「そんなんじゃないし!馴れ馴れしく呼ぶなっての!」


 僕の肘打ちは、片手で防がれてしまった。……くそ、やっぱり気持ち悪い。男に馴れ馴れしくされるのって、本当に嫌悪感が走る。


 それが父さんじゃないと分かってからは、さらに強くなった。その口を閉じさせるために、僕は左手で持った木剣の柄で、やつの脇腹を横から叩きつけた。


「ぐっ……てめぇ、容赦ねぇな!」


 今度は見事に決まった。距離が近かったから、防御が間に合わなかったんだ。やつは数歩後退したけど、まだ僕の攻撃範囲内だった。


 僕は身体を回転させながら、反動を利用して回し蹴りを放つ。やつは両手でガードし、僕の足を押してバランスを崩させようとしてきた。


 だけど、その瞬間――瑛太君が支援に入ってくれた!


「こいつっ!」


 瑛太君の斬撃に対応するため、やつはそっちに意識を向けた。


 ……今だ!


 僕は体勢を整え、特技のひとつ――(一心・螺旋突)を繰り出す!木剣や棒状の武器ならではの技。単点への突きを、回転の力でさらに威力を増す必殺技だ!


 相手は今、身体を瑛太の方へ向けている。だから側面には大きな隙がある――!


「はああああっ!」


 僕の突きが、見事に脇腹へと命中した!その顔には明らかに動揺と苦痛が浮かんでいた。


 ――やった、本当に効いてる!

 僕は心の底から安心した。

 ……だって、これが僕にとって、初めて本気で男に頼った戦いだったから。


 瑛太君が絶対に援護してくれるって信じてたからこそ、あんなに隙のある動きができたんだ。


「ハハハ、いいぞ。困難な時ほど挑戦しがいがあるってもんだ!!凛、そしてそこのお前!二人がかりでかかってくるなら、俺も容赦はしねえからな!野郎ども!!出てきて、あいつを排除しろ!!」


 そう叫んだ瞬間、僕たちの周囲に道着姿の男たちが次々と現れた。その顔ぶれをよく見れば……まさか、この夢の同じクラスの男子ばかりじゃないか!


「数こそ力ってやつだ!お前ら、全員で一気にかかれ!」


「凛!俺のことは心配しないで。君はあいつとの決着に集中して。あとは俺がなんとかする!」


 瑛太君がそう言って、敵の集団に飛び込んでいった。だけど……僕の中で燃え上がる怒りは、今や限界を超えていた!!


「てめぇ……人を使っての集団リンチだと!? お前、僕の父さんを模した幻影なんだろ? だったら、もっと本物に忠実になれよ!! 父さんはな、そんな卑怯なやり方で人を従わせるような奴じゃねぇ!!」


「フン、勝てばいいんだよ。卑怯でもなんでも、勝利に繋がるならそれが正解ってもんさ。お前は俺の本質を見抜けていないだけだ。俺はこういう人間なんだよ。俺の剣の前に跪け! 黙って、俺の言うことを一生聞いてりゃいいんだよ!!」


 そう言い放つと同時に、父さん――いや、この偽物は僕に斬りかかってきた。横薙ぎ、斜め、突き、連続する多彩な剣技。それらを僕は、必死で受け止めるしかなかった。


 ……剣の重さは変わらない。技の鋭さも、スピードも、本物と瓜二つ。だからこそ僕は――

 ――怒りで、心が燃え上がっていった。

 だって、僕が知っている「父さん」は、こんな男じゃなかったから。


 確かに、僕は父さんが怖かった。いつもその隣では、細心の注意を払って行動していた。

 でも、一つだけわかることがある。

 父さんは、暴力で他人を支配するような男じゃなかった。


 試合で勝つたび、父さんはこう言ってた。


「凛、まだまだだな。優勝したからって浮かれるな。ルールが決められた世界での勝利に意味なんてない。現実は、一歩間違えれば命を落とす世界なんだ。勝ったくらいで満足するな。」


 鍛錬が終わるたび、父さんはこうも言ってた。


「凛、厳しくして悪いな。でも、お前はまだまだ未熟だ。未熟な者は、強者に人生を決められる。それが現実だ。だからこそ、体を鍛えるんだ。肉体の痛みを乗り越えてこそ、心が鍛えられる。心と体、どちらも強くなって初めて、お前自身の人生を手に入れられるんだ。さあ、立て! 鍛錬はまだ終わってない!!」


 当時の僕は、口ばかりだとしか思っていなかった。でも、今ならわかる。目の前の偽物と違って、父さんは自分の技術で弟子を取り、学費を稼ぎ、僕たちを養ってきたんだ。


 偽物の剣が、僕の体を切り裂いた。鮮血が流れた。でも……今回は違った。

 僕の中の信念は、確かに燃え続けていた。

 偽物の剣技が、僕の記憶の中の父さんの剣技と一致していたからこそ――


 僕は、次に来る攻撃が分かった。狙うのは――頭部の斬撃!!


 ――ガキィン!!


「なにっ!? その一撃を防いだだと!? バカな!」


「お前にはバカに見えるかもしれない。でもね……それは、僕が父さんの剣から目を背けていたからだよ。」


 そうだ。ただ、父さんの剣を見ればいい。見極めれば、次がどこに来るか分かる。次は腹部への突き。

 右足を一歩下げてかわし、そのまま頭部に斬撃!!

 命中した。その衝撃で、偽物は一歩、また一歩と下がった。


「な、なぜ……なぜ急に俺の攻撃が当たるようになったんだ!?」


「簡単なことだよ。僕がようやく父さんと向き合う覚悟を決めたからだ。昔の僕は、父さんに鍛えられて、何度も何度も打たれて……怖くなって、もう父さんを直視することができなかった。」


 木刀を振る。三回目で、必ず命中する。

 ガン! ガン! ガンッ!!

 偽物は焦り、恐怖に満ちた目で僕を見つめていた。


「どうしてだ!? なぜお前ごときが、僕を倒せるようになったあああ!!」


「決まってるだろ! てめぇみたいなヘンテコな偽物の小細工に、僕の怒りが限界を超えたからだよ!! もう父さんの姿なんて怖くねぇ。ちゃんと見つめられるようになったんだ。そうなれば……お前の剣なんかじゃ、僕を傷つけられないんだよ! だって、父さんの剣は、僕が幼いころからずっと一緒に歩いてきた剣だったんだから!!」


 僕は木刀を腰に収め、静かに抜刀の構えをとった。

 これは、父さんが最も得意とし、僕が最も学んだ、父さんと僕の修練の結晶とも言える技――

 一歩、前に踏み出し、抜刀――


(斬心・一字斬)


 その一撃が命中した瞬間、父さんの姿が――

 まるでガラスのように砕け散っていった。

 ――バァン!!


 父さんの幻影も、道場も、すべてが……静かに、消えていった。


皆さま、こんにちは。凛の章は、ひとまず今回で一区切りとなります。お楽しみいただけましたでしょうか?


もしお気に召しましたら、ぜひ評価を残していただけますと嬉しいです。皆さまも、凛のことを好きになっていただけましたでしょうか?


僕自身、凛のようなキャラクターがとても好きです。たとえ心に深い傷を負っていても、過去と向き合い、それを受け止め、自らの意志で前に進もうとする彼女の姿に強く心を打たれました。


次回からは、梓の章が始まります。ぜひ楽しみにお待ちいただければ幸いです!

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