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第64話 :「救い出された心と、俺は新たな夢へと歩き出す」

 俺は、ついに美月を助け出した──!


 彼女が自分の恐怖と正面から向き合ったその瞬間から、俺はこの《恐怖の夢》に干渉できるようになったんだ。この《新・魔法》のおかげで、ようやく──!


 《貴様ァァァ!! またしても邪魔をしおって……せっかくあの娘の感情をすべて削ぎ落としたというのにッ!!》


「ははっ、冗談はやめろよ。美月はそんなヤワな子じゃねえんだ。なあ、美月!!」


 俺は隣にいる美月へと顔を向けた。感覚的にはほんの数日しか経っていないはずなのに、異世界でのあの怒涛の日々のせいか、彼女の姿を久しぶりに見た気がした。


 やっぱり、よく見れば見るほど可愛いな、美月は。


「うん、そうだよ! 私、そんな簡単に負けたりなんかしないからっ。でも、瑛太さん……今ここってどこなの? もし私の夢の中じゃないなら、どうして私は人間の姿のままで、瑛太さんはまだゾンビなの?」


 そう言って笑う彼女だったが、その表情には少し困惑の色が混じっていた。


「ここはな、《夢の試練》っていう、現実と夢の狭間にある空間だ。あの《悪魔》が、君たち三人を夢の中に閉じ込めて、魔法で君たちの魔力を吸収しながら、《絶望の夢》っていう精神攻撃用の領域を作っていたんだ。」


 《ふざけるなッ!! 何のんびり解説してるッ!? 今すぐ貴様を強制的に眠らせてやろうかッ!? 夢に入れば、そこは俺の支配する世界だッ!!》


「馬鹿かお前。俺はアンデッドだぞ? 眠るなんてできるわけねぇだろ。それに今のてめぇは、もう他人の夢を自由に操れる状態じゃねえ。」


「瑛太さん……その、お願いだからその魔物とこれ以上話さないでくれる? 今、何が起きてるのか全然わからなくて……私、なんで急に目覚めたの? ここ、本当に現実なの?」


「いや、違うな。ここもまだ現実じゃねえ。説明すると長くなるんだけどよ……」


 俺が初めて美月の夢に入った時、すぐに分かった。あの夢は、完全に何らかの魔法に支配されていたってことを。


 だから俺は美月の精神の座標を探すと同時に、この魔法の発動源を突き止める必要があった。


 そして夢に入ってから五分後──ようやく見つけたんだ。美月を傷つけていた、俺の姿をした偽物の野郎を。


 ちなみに、これがそいつのステータス欄だ。


 ________________________________________


 《幻夢の悪魔》

【種族】:Cランク・悪魔型魔物

【スキルリスト】:

 ◆Cランク:(夢の主宰)──夢の中のあらゆる内容を制御可能。夢の中のキャラに擬態することができる。ただし、夢の登場人物に直接触れることは不可。

(絶望の夢)──対象を永遠に覚めない夢へと誘導する。夢のテーマを絶望、恐怖、死などに設定可能。

 ◆Dランク:(代償転移)──魔法に必要な魔力を、夢の中の対象から代用可能。

 ________________________________________


 それを見て俺は一気にブチ切れた。もしこいつが美月に直接触れられる能力を持ってたら、間違いなくその場で殺してたと思う。


「じゃあ……私の最初の夢のテーマって、“絶望”だったの?」


 美月が少しだけ不安そうに問いかける。


「ああ、そうだった。だから俺も、すぐには君を連れ出すことができなかった。絶望に深く傷つけられてたからこそ、俺は次の手を打つ必要があったんだ。」


 そう──美月だけじゃない。凛や梓も最初は《絶望の夢》に囚われていた。


 でも、美月の魔力が一番早く消耗していた理由。それは、美月が一番激しく抗っていたからだと、俺は思ってる。


 そして──美月が再び俺に心を開いてくれた時、俺は彼女に、もう一度この場に残ってもらうよう頼んだ。


 予想通り、悪魔は俺の介入で夢の内容が崩れたことに焦り、夢を再起動する選択を取った。


 その瞬間を待ってたんだ。俺はすでに魔法陣と式の構造を見ていたから──そのタイミングで魔法に直接干渉した。


 テーマを《恐怖》に切り替えただけじゃない。魔法の構造自体をいじって、術者自身も巻き込まれる仕組みに改造してやった。


 《おかしいッ!! この空間は完全に俺の制御下だったはず……なぜ、貴様に上書きされるッ!?》


「えっ、え? 瑛太さん、それっておかしくない? さっきの説明だと、夢の中じゃあなたは何もできないって言ってたよね? じゃあ、どうしてテーマを変えられたり、あの人に攻撃できたりしたの?」


「それはな……お前らが休んでる間、俺はある魔導書を読んでたんだ。そこには、魔法とスキルのランクの関係性について詳しく書かれててな──」


 あの魔導書の内容、正直めちゃくちゃ面白かったんだ。


 例えば、そこにはこう書いてあった。スキルのランクってのは、人間が使える魔法の“到達可能な上限”を決める要素だって。


 つまり、元素魔法を使えるかどうかってのは、二つの才能によって決まる。ひとつは魔法の“タイプ”──たとえば美月は火、水、風、土、全ての元素魔法を扱えるオールタイプだ。


 で、もうひとつの才能が“ランク”。このランクが高ければ高いほど、使用者の魔法的な才能も高くなるってわけだ。


 ランクが高ければ、熟練度次第で詠唱も魔法陣も必要なくなるし、複数の魔法を同時に使ったり、スキル以外の応用魔法だって使えるようになるらしい。


「それが……今と何の関係があるの?」


「めちゃくちゃあるんだよ、美月。俺のスキル(具現描写)はBランク。そしてありがたいことに、このスキルの熟練度はかなり上がっててさ。だからこそ応用できるんだよ、魔法陣の“上書き”がな。」


「上書き……?」


「そう。魔法陣の一部を俺のスキルで塗り替えることで、魔法の性質を改変して、制御権そのものを奪うことができる。今、この夢を作ってる魔法──その制御権は、俺が持ってる。」


「えっ、それって……じゃあ、さっきの私の夢の内容も知ってるの?」


 美月の頬がほんのりと赤く染まり、視線がふわふわと泳ぎ出した。おそらく、俺が彼女の“恐怖”の中身を見たかどうかを気にしてるんだろう。


「いや、見てねぇよ。俺が持ってるのはあくまで“魔法の制御権”であって、夢の中身を覗けるわけじゃない。夢の内容を操作できるのはあの悪魔だけだった。でも今は、そいつは魔法の制御を完全に失ってるから、中の内容にも干渉できねぇ。」


「な、なるほど……じゃあ、さっき“すぐには連れ出せない”って言ってたの、あれって……」


「嘘……ってわけじゃないけど、正確には“連れ出せたけど、しなかった”って感じだな。ごめんね、美月。」


 俺は静かに息を吐いてから、美月の方に視線を戻した。


「もし、あのまま君を連れ出してたら……きっと君はもう一度、俺たちに心を開けなくなってた。だから、あの悪魔の干渉を完全に排除した状態で、もう一度“恐怖”と向き合ってもらった。そうすれば、君の心に巣食ってた絶望も、少しずつ変えていけると思ったからさ。君ただ、誰かの手によって見せられた悪夢。それを伝えることで、君に心を落ち着かせ、元に戻る猶予を与えたかった。」


「……そっか。うん……ありがとう、瑛太さん。ほんと、いつも私のこと考えてくれてるんだね。」


「当たり前だろ? 異世界に来てから、俺たちにはお互いしかいねぇんだから。ちゃんと守り合っていくのは、当然のことだろ?」


 そう言った瞬間、美月はふいっと顔をそむけた。彼女の頬はさっきよりもさらに真っ赤で、まるで熟れたリンゴみたいだった。手で髪の毛をくるくるといじって、どこか落ち着かない様子。


 ……え、俺、今なんか照れるようなこと言ったか?


 《てめぇらッッ!! 俺の目の前でいちゃついてんじゃねぇええええッ!! 早く俺を解放しろッッ!! 俺様をどう始末する気だァ!?》


「馬鹿言え、誰がそんなことするか。今のところ、梓の精神状態は一番安定してる。魔力も精神力も十分に残ってる。だから──次は凛を助けに行く。その間、お前はそこに大人しくしてろ。この空間は現実じゃねぇ。お前が俺たちに触れることはできねぇだろ? 自分のスキルの制約、ちゃんと理解してるよな?」


 《くそっ……! 今まで俺様はこのスキルで好き勝手やってきたのに……! “夢の中の人間に触れられない”っていうデメリットが、こんな形で裏目に出るとは……ッ!!》


「……そっか。やっぱりお互いにって、私だけじゃなかったんだね。ねえ、瑛太さん……このあと凛の夢に入るんでしょ? 私はどうすればいいの?」


「美月、君はここで少し休め。リンクは完了した。これで魔法の制御権は俺と君の共有になった。君もあいつの動きを監視して、余計なことをさせないようにしてくれ。」


「うん、わかった。あの人の言葉には耳を貸さないようにする。だって、ただの魔物なんだもんね……。凛と梓を助けたら、瑛太さん……あの人、ちゃんと倒してね?」


「ああ、当然だ。ただ、今そいつを殺したら──夢の中にいる凛たちの精神に大きなダメージがいくかもしれない。悪影響が出る可能性があるんだ。だから、まずはふたりを助けてから……そのあとで仕留める。」


「そっか……うん、凛のこと、よろしくね。夢のテーマが“恐怖”なんでしょ? だから、瑛太さん……いつもよりも、もっと優しくしてあげて。だって──」


 そこで、美月は言葉を切った。何かを言おうとして、躊躇ったように見えた。


「……大丈夫。凛が男を怖がってるってこと、俺はちゃんと知ってる。だから、無理には近づかねぇよ。」


「そっか……よかった。……もう、ほんと、瑛太さんって女の子の気持ちには気づけるのに……なんで恋愛方面だけはこんなに鈍感なのよ……」


「……ん? 今なんか言ったか?」


「な、なんでもないよっ! はやく凛のところに行って! こっちは私がちゃんと見張っておくからっ!」


「お、おう。すぐ戻る。」


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