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第58話 :「賑やかな日常と、目を見張る絶品《料理??》」

 部屋でしばらく落ち着いたあと、俺たちは自然と日常的な雑談に移っていった。


「そうだな……美月って後衛っぽいかと思いきや、梓のスキル構成は完全に魔導系だよな?」


 俺が言うと、梓は眉をちょっと上げて、腰に手をあて額を指先で軽くタッチして「ついに誰か聞いてくれたか」という顔をした。


「ということは……外見は人間、中身はふわふわの狐、ってこと?」


 美月が目を細め、梓の“本体”を見抜こうとしているが、まるで見えないらしい。


「そうだけど……見た目は完全に人間でしょ?」


 美月、興味津々だ。


「私は妖狐族だけど、普段は人間の外見を維持してるの。幻術を使えるからね。今はまだ初級だけど、戦闘でももう少し慣れたら使えるようになるかも」


「その幻術が解除されたら……どうなるんだ?」


 俺が興味本位で訊くと、


「狐耳にふわふわの尻尾、金色の毛と狐顔――まあ、それはそれで、けっこう優雅な感じになるよ?」


 梓が自信たっぷりに少し笑った。瞳にほのかな危険な光が輝いている。


「なるほど……スキル見る限り、幻術を長時間維持しても大丈夫そうだね?魔力関連に強そうだし。たぶん俺たち三人の合計より多いんじゃないか?」


 俺がそう言うと、


「そうだけど……なんでそんなに詳しいの?」


 梓は首をかしげてかわいく返す。


「情報系スキルがあってさ、お前の種族も見破れたしね」


 俺は誇らしげに明かした。


「なるほど、情報系……?」


 梓はちょっと困惑しながら頷いた。


「要するに、今俺たちのパーティは、“死人”、 “猫”、 “人間の顔のトカゲ人間”、そして “人間に化けた狐”って感じだね」


 俺がユーモアで締めると、


「なんか雑魚モンスター軍団っぽいな……物語だったらすぐ討伐されそうだぞ」


 凛が軽く嫌がりながら言った。


「あはは、どうなるかね、とにかく私たちは……」


 美月が喋り始めた瞬間、


 ――「ぐぅっ」


 お腹の音で会話が中断された。みんなの視線が梓に集中し、多分一分後、梓は顔を真っ赤にして照れながら白状した。


「もう、見ないでよ! だってお腹すいたんだもん! 飯のほう、今すんごく鳴ってるの! いいでしょ!」


 梓は顔を真っ赤にして答えた。


 彼女は確かに初級幻術しか使わないと言っていたが、表情のバリエーションが実に豊かで、まるで日本にいた頃の“氷の女王”だった梓が、今は完全に“ツンデレ美少女”に変化していた。


「恥ずかしがらなくてもいいんだよ、梓。生きてる限り、食べるのは当たり前なんだから。…俺なんか食う権利すら失われたくらいなのに」


 俺は軽く軽口を叩く。


「う、うん……えと、ご、ごめんね、瑛太」


 梓は照れくさそうに俯いた。


「謝る事は必要ないよ、それでさ、何食べたい?普段から、君たちは何を食べたの?」


 俺は話題を切り替える。


「実はね、インベントリには1か月分くらいのジャーキーとパンがあるんだ。それは女神(ルナリア)様からのお土産てさ。」


 凛がそう言いながら、バックパックからビーフジャーキーとパンを取り出した。見た感じ……地球の食べ物ではなさそうだけど、匂いは悪くないけど。


 美月がそれを嗅いで一言。


「……ん? なんか普通すぎない?」


 鼻をしかめるように言う。


「美月、それ言うなよ。味も食感もギリギリ合格点というか……この世界の食事だからな。まあ、空腹を満たすくらいにはなるんだろうな」


 凛は少し苦笑しながら説明する。


「食べ物ってさ、人は失って初めてありがたく思うもんだなあ……異世界来て数日だけど、おにぎりと味噌汁が超恋しい」


 梓がしみじみと語り始めた。その一言で、俺は心の奥で静かに笑った。


 梓の閉じ込められていた心が少しだけ開いたことを、改めて感じさせられた瞬間だった。


「それじゃあさ、せっかくだから……ちょっと“いいモノ”でも食べてみない?」


 俺はわざと少し意味深な笑みを浮かべながら、三人に提案した。


「いいモノ……?」


 凛が眉をぴくりと上げて、小さく首を傾げる。


 その視線には、微かに期待が混じっていた。……たぶん、女神(ルナリア)様から俺にだけ配給された特別な食材でもあるんじゃないかと予想してるんだろうな。


「瑛太さん、その“いいモノ”って……まさか……」


 美月が警戒したように、爪先をぴくりと動かしながら俺を睨んだ。


「うん。美月が毎日食べてる《アレ》のことだよ」


 俺はにっこりと即答した。まるで何の問題もないかのように。


「……瑛太さん……わたし、もう……あの……《アレ》、ほんと無理なんだけど……」


 美月が、耳をぺたんと伏せて、困り顔でにじり寄ってくる。


「せっかく凛たちがジャーキー持ってきてくれたんだし、今日はそれでいいじゃない?……ね?お・ね・が・い……?」


 尻尾をくるくると絡めながら、しおらしく懇願する美月。……が。


「ダメだよ、美月。もう何日も経ったし、そろそろ慣れた頃でしょ?」


 俺は肩をすくめて、少し諭すように言った。


「匂いだって普通の豚肉とそんなに変わらないんだし……それに、美月、自分の体を強くするには食べなきゃダメだよ。成長にも関わってくるって、わかってるよね? 進化が遅れてるのも、最初に食事拒否してたのが原因かもしれないんだよ? ……俺、頑張ってあれ、美味しく仕上げてるんだからさ」


「……お二人とも、さっきから何の話してるの?」


 凛が眉間に皺を寄せて問いかけてきた。


「その《食べ物》ってそんなに……変なモノなの? 瑛太君、まさかとは思うけど、美月に変なもの無理やり食べさせてないでしょうね?」


「いやいや、凛、そんな大げさな話じゃないって」


 俺は両手を軽く上げて、誤解を解こうとする。


「ただの――《オーク》だよ」


 その一言を口にした瞬間。


「……え?」

「うっ……」


 凛と梓の顔が、同時にピクッと引きつった。凛の目元が明らかに引きつり、梓に至っては顔色が若干緑色に変わっている。


 ……しまった。もうちょっと言い方考えた方がよかったか?


「ちょ、ちょっと待って瑛太君……」


 凛が震える声で呟いた。


「《オーク》って……え? あの、ゴブリンに近い亜人の? いやいや、いくらなんでも……!」


「ち、違うよね?まさか……ほんとに、食べたの……?」


 梓も口元を手で覆って、おそるおそる聞いてくる。


「うん。最初は俺も抵抗あったけどさ。意外とね、焼いて香草で味付けすれば、普通のミートローフみたいな味するんだよ?ま、俺はゾンビだから普通に食べないだけど。」


 俺が笑顔で答えると、二人とも明らかに一歩ずつ俺から距離を取った。


「……もう、わたし……当分ご飯食べたくないかも……」


 美月が小さく呟きながら、ぐるぐるとその場に丸まっていった。


「な、なんでみんなそんなに引くのさ!? 食糧事情の悪いこの世界で、食べられる肉を活用するのって当然じゃないか!?」


 俺は心から正論を言ったつもりだった。……でも、なぜだろう。

 視線が冷たい。めちゃくちゃ冷たい。

 ……なんで俺が悪者扱いされてるんだよ……!


皆さま、こんにちは。


今回の日常回、楽しんでいただけましたでしょうか?


明日も引き続き更新を予定しております。


次回は、瑛太が三人にオークの肉をご馳走するシーン、そして第二章の重要な展開へと繋がる前奏的な内容となっております。


更新は明日の21時を予定しておりますので、ぜひご期待ください!

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