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第55話 :「剥がされた仮面の下、初な告白と梓の解錠」

 俺は梓の叫びを、ただ黙って聞いていた。

 口を挟むことなく、まるで愚鈍な観客のように。

 彼女が心の奥底に封じ込めていた闇を一気に吐き出す、その姿を目の前で受け止めていた。


 美月は唇を噛み締めながら、頬に涙をこぼし続け、

 凛もまた拳を強く握りしめ、言葉を失っていた。

 でも——俺には分かっていた。


 今、彼女がいちばん求めているのは、誰かの慰めじゃない。

 俺の、言葉だった。

 だから俺は口を開いた。


「……梓。」


 その声は小さかった。けれど、重く張り詰めた空気を切り裂いた。


「……無理してるの、分かってるよ。」


 梓が小さく息を呑み、涙で濡れた顔を俺に向けた。


「ずっと気づいてないと思ってた? 笑うとき、口元がほんの少し震えてた。

 クラス発表のとき、周りの反応を必死で確認してた。

 俺にノートを渡すときだって、わざと『ついでだから』って言ってたよな。」


 俺は少し笑った。


「でも、俺は知ってた。『ついで』なんかじゃない。君は、必死に——誰かに、受け止めてもらいたかっただけなんだよ。」


 梓はうつむいた。でも俺は一歩近づいた。


「……実は、俺も似たようなもんなんだ。」


 右手を差し出すと、その手が微かに震えているのが見えた。


「俺さ、自分の身長、ずっと気にしてたんだ。

 凛と並ぶと、まるで脇役みたいでさ。

 顔もさ、新田みたいに目立つわけじゃないし、正直、自信なんかないよ。

 うちのクラスって、才能に溢れてたり、家が裕福だったりする奴ばっかりじゃん。」


 俺の見た目なんて、客観的に言っても平均よりちょっと上くらい。

 運動神経も並以下で、絵を描いてるってこともクラスには黙ってたし。

 それでも、美月は何度も話しかけてくる。あんなに完璧な彼女が。


 ……正直、陰謀でもあるんじゃないかって、思ったくらいだよ。思わず、自嘲気味に笑みがこぼれた。


「だからさ、君が『私なんか、みんなの友達になれる資格なんかない』って言ったとき、

 俺の胸にもチクリと刺さったんだ。

 だって、俺もずっと思ってたから。

 《もし、いつか気づかれたらどうしよう。》

 《俺なんか、みんなと一緒にいられる価値なんてないんじゃないか。》って。」


 そして、ふと視線を遠くに向けた。


「特に美月には、そう思ってたよ。

 君と同じで、《俺なんかが彼女に好かれるわけない》ってさ。

 自信なんか、そんなにあるわけないよ。」


 彼女が俺を見てる理由なんて、今でも本気で分かってないくらいだし。でも、美月がすぐ隣にいましたので、その言葉は口に出せませんでした。


 少し間を置いてから、俺はそっと右手を差し出した。


「でもね、梓。」


 俺は優しく笑った。


「俺が君と話すのが好きなのは、本当に居心地がいいからだよ。君と話してると、自然体でいられる。好きなゲームの話も、小説の話も、素直にできるんだ。……本当に、ありがとう。」


「……嘘だ。藤原は、あたしのことなんて何も知らないくせに!ただ慰めてるだけでしょ!」


 梓はまだ俺の言葉を信じようとしなかった。でも、俺はそう簡単に引き下がるタイプじゃない。俺は静かに、だけど確かに言葉を紡いだ。


「違うよ。俺はちゃんと分かってる、梓。今の君は——人間じゃない。今の姿は、幻影で作った“人間の形をした”キツネ、だろ?」


「な、なんで……どうして、分かったのよ……!」


 梓は動揺し、苦しげな表情を浮かべた。


 ……当然だ。見た目は人間なのに、俺の鑑定では完全に異なる結果が出ていた。つまりこの姿は、彼女のスキルによる仮の姿だ。


 でも今、それを説明する必要はない。今はただ、彼女の心に触れることが大事だった。だから、俺は過去を振り返るように語った。


「覚えてる? 俺たちが初めて学校以外で会った日。

 偶然映画館で出会って、たまたま隣の席になって……

 観たのはアニメの恋愛映画だったよな。」


 俺は彼女の目をまっすぐ見つめた。


「君の心のどこかには、ちゃんとアニメや漫画を好きな気持ちがあるはずだ。だから、そんな自分まで否定しないでほしい。……興味があるものがある人生って、それだけで尊いんだよ。人ってさ、社会に役立つから存在していいんじゃない。生きてるだけで、価値はあるんだよ。」


 あの日、偶然の出会いのあとに話し始めた——

 映画を観た帰り道、俺たちはずっと作品の感想を語り合っていた。

 それが俺にとって、初めて「女の子との会話って、楽しいんだ」って思えた瞬間だった。


 だからこそ、今の梓に伝えたい。もう、社会の視線に縛られないでほしいって。


「べ、別にあの映画はさ……たまたま暇だったから観に行っただけで、アニメとか漫画が好きとか、そういうんじゃないし!あたし、あんたと喋ったのも好きだからじゃないからね!」


 ……なんだか、そのツンとした返しに、逆に少し安心してしまった。梓はちゃんと俺の言葉を受け取ってくれてる。だったら、もう少しだけ踏み込んでみよう。


「俺はね、あの時から、きっと梓と友達になれるって思ってた。今ではもう、大切な友達の一人だよ。」


 そう、俺ははっきり言う。


「俺が梓と話すのが好きなのは、梓が優秀だからじゃない。ノートを借りたいとか、何か得したいからでもない。ただ、話してると落ち着くし、自然体でいられるからさ。楽しいんだ。」


 一歩、前へ出る。伸ばした右手は、まだそのまま。


「だから今回だけは……手を握らせてくれないかな?俺のこと、信じてみてくれない?

 それとも、俺のことも他の連中と同じように疑ってる?

 何か裏があるって、そう思ってる?」


 梓の体がピクリと震えた。その場に固まったように、彼女の瞳は揺れていた。

 俺の言葉が、彼女の胸の奥を揺さぶっている。

 葛藤と迷いの波が、今まさに彼女を呑み込もうとしていた。


「……あ、あたし……」


 かすかに動いたその手は、恐る恐る、けれど確かに——


 俺の手を、ぎゅっと握った。

 その瞬間、彼女の手のひらから、ほんのりとした熱が伝わってきた。

 ああ、感じる。彼女の《信じよう》という想いが、俺に届いている。


 ——《リンク:感情共有》、発動。


 俺のSランクスキルは、たとえスキルを明言して発動しなくても、

 お互いの《心》が許した瞬間、自然に作用することがある。

 そして今、彼女の閉ざされた心の扉が、わずかに開いた。


 そこに、俺の想い、言葉、感情を、そっと流し込む。

 それは、ただの情報ではなく、感情の波そのもの。

 温もり、共感、敬意、そして——友情。


 初めて他人の真っ直ぐな感情に触れた梓は、その温かさに包まれながら、ゆっくりと——泣き出した。


「うぅ……っ、ううぅ……ふじ…はら…瑛太……瑛太!!!」


 その泣き声は、もう絶望に染まったものではなかった。むしろ、心の底から湧き上がる、長い長い悲しみの解放。


 梓は俺に飛びつき、まるで失いたくないものを抱きしめるかのように、強く強く、俺を抱きしめてきた。


「ごめん……ごめんなさい……あたし、怖かったの……本当に、どうすればよかったのか、分からなかった……皆に、どう向き合えばいいのか、全然分からなくて……!」


 泣きじゃくる声が、俺の胸元で震えている。涙が、俺の服をじんわりと濡らしていく。


「……いいんだよ。」


 俺はただ、静かに背中を撫でる。かつて、彼女が何度も俺にノートを差し出してくれた時のように、自然な動作で。


 この瞬間、俺たちは初めて——

 本当の意味で、心をつなげた。

 幻影が残るこの空間で、梓の心はゆっくりと現実へと帰ってきていた。


 彼女が自分の闇を超えようとしていることに、俺は胸がいっぱいになった。


 ——梓、君は、もう大丈夫だ。


 ——【条件達成:皆は我のために、我は皆のために】——

 《精神リンク確立: 森本 梓》

 《リンク安定化 心の共鳴度:S》


皆さま、こんにちは。


今回の凛と梓の同時更新、楽しんでいただけましたでしょうか?


お二人の物語につきましては、今後さらに丁寧に描いてまいりますので、ご安心ください。


この二人のキャラクターを、皆さまにも好きになっていただけたら幸いです。


もし第一章が「紹介編」だったとするならば、今回の章は瑛太たちの過去、そして彼らの未来への思いを深く掘り下げる「理解編」として描いていく予定です。


登場人物たちに対して何か感じられたことがありましたら、ぜひお気軽にコメントでお聞かせください。


皆さまの声が、何よりの励みになります!

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