第47話 :「かつては強敵、されど今は凡庸な敵」
「……瑛太さん、今の、聞こえましたか?」
突然、美月が耳をぴんと立てて、しゃがみ込んだ。
「……左側、通路の角。何かが……息をしてる音がします。」
俺はすぐに立ち止まり、そっと手を床に当てる。確かに、魔力の流れが微妙に変化している。空間に“呼吸感”のようなものが混ざってきた。
「今回……先に行かせてください。」
美月が小声で言った。俺よりもずっと真剣な眼差しで。
……いや、普通は俺が囮になる番じゃないか?とツッコミかけたけど——
彼女の身体に淡くまとった氷の気配を見て、何も言わないことにした。ゆっくりと、通路の角へと近づいていく。視界が石柱の先を捉えた瞬間——
「——っ!」
ドンッ!!
割れた石板が勢いよくこちらに飛んできた。俺はとっさに腕で受け止めたけど、その衝撃の重さに思わず一歩引いた。
「チッ……なんて奴だ……!」
影の中から現れたのは、まるで錆びた金属をまとったような巨大な怪物だった。
第一層で出会った岩のグレムよりも遥かにデカい。灰緑色の筋肉、鉄錆のような腕、そして溶けたような兜の面構え——
「……ゴーレムだな。」
俺が即座に判断すると、美月が低くつぶやく。
「第二層の雑魚が……このレベルって……」
彼女の言葉の意味は、すぐに理解できた。目の前の敵のステータスが、それを物語っていた。
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《鋼鉄のグレム》
【種族】:Dランク・ゴーレム種
【スキルリスト】:
◆Cランク:(鋼鉄の肉体)── すべての物理攻撃の効果を半減。
◆Dランク:(魔力吸収)── 魔法攻撃のダメージを25%軽減し、軽減された魔力を吸収。
◆Dランク:(魔力解放)── 吸収した魔力を放出して、一時的に強化または回復。
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第一層では、こんなランクの敵はボスしかいなかった。それが、第二層では通路の雑魚として出てくるなんて……悪い予感しかしない。
グレムが咆哮したと同時に、地面が震え、石屑が舞った。
「……やるしかないか。」
そう呟いて、俺は駆け出した。俺は武士刀を装備する。物理攻撃が効きにくいなら、せめて距離で優位に立つ。
刀を構え、金属のような腕に思い切り斬りつける。火花が散るが、手応えは重く、何度斬っても傷ひとつつかない。
「チッ……!」
その間に、美月が後方から魔法で援護に入った。
「(アイスフロア)!」
絶妙な位置取りで、俺の動線を邪魔せず、地面を一面凍らせる。この連携、もう何日も訓練してきたおかげで、今ではお互いの動きを言葉なしで理解できるようになった。
滑りやすくなった床で、グレムのバランスが崩れ——
「今だ!」
俺たちは一斉に攻撃を仕掛けた。この敵、魔力を吸収するが——
精神力を使う(神聖魔法)には無力だぜ!
「(セイクレッドエンチャント)!」
神聖属性を刀に付与し、斬撃に聖なる力を重ねる。これで単なる物理ダメージだけじゃなく、追加で神聖ダメージも与えられる。
今まで、神聖属性に弱い魔物なんて見たことないけど、不思議なことに、一般的な魔物であるゾンビやスケルトンといった不死者の弱点は、神聖属性ではなく「正属性」なのだ。そして、この正属性が何なのかは、今のところ不明である。
——それでも!
俺はそのまま一気に突っ込むと、刀の切っ先をグレムの胸へと突き刺した。刀身が肉を貫き、内部の魔石に触れた瞬間——
「パキッ……!」
小さくも確かな破裂音がして、グレムの身体が震え、魔力が暴走。そのまま、ゴーレム体内魔力のバランスを崩し——ドォン、と倒れた。
石柱が崩れ始めたのを見て、俺はとっさに美月を抱き寄せた。崩れ落ちた破片が頭上をかすめる中、俺たちはぎりぎりで回避に成功する。
「……大丈夫か?」
「……うん。ありがとう、瑛太さん。」
彼女がそっと俺の胸元に顔を埋め、ふわりと尾を俺の腰に巻きつける。
……やばい、今の美月、反則的に可愛い。
俺、ガチで猫派になりそう。いやもう、なったかもしれない。猫最高!!
その後、倒れたグレムの遺体を見下ろしながら、俺はふと思う。
「……なんというかさ。第二層って、思ったより……大したことないかも?」
その言葉を聞いた美月が、じっと俺を見上げ——
「……油断しないでください、バカ瑛太さん。」
ごつん。
思いっきり俺の頭を拳で叩いてきた。
「第二層は、始まったばかりなんです。敵が弱いんじゃなくて……私たちが強くなったんですよ。」
「……はは。そりゃ、そうか。」
俺は少し苦笑いを浮かべる。そう、ここはまだ“始まり”に過ぎない。そして美月の言う通り——
俺たちには、敵の本当の強さを測る基準がない。唯一の目安は、魔力量と精神力の伸びだけ。
けれど今や、最初の頃と比べて、それらは倍以上に膨れ上がっている。
——だからこそ、油断は禁物。
気を引き締めて、俺たちは再び歩き出した。
この第二層の深奥に、いったい何が待ち受けているのかを探るために。
皆さま、こんにちは。またお会いできましたね。
ここからは、再び本編──瑛太の物語へと戻ってまいります。
そして、明日は土曜日。ようやく原稿を進める時間が取れそうです!
明日の更新予定は以下の通りです:
朝8時:迷宮探索で隠し扉を発見するエピソード
正午12時〜午後3時:新たなヒロインである凛と梓の登場シーン
夜8時〜深夜0時:瑛太と凛たちが初めて共闘する戦闘篇
盛りだくさんの一日となりますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければ嬉しいです!




