表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/160

第40話 :「《勇者編》暴走する力、そして初勝利」- 1

 心臓の鼓動が、耳の奥でどんどんと鳴り響いていました。


 周囲の音、風の流れ、熱、そして体内を巡る魔力の動きまで——すべてが異様なほど鮮明に感じられたのです。


 意識はまだ自分の中にある。けれど、体が……勝手に動いていました。


 ——これは……スキルの副作用、なのでしょうか?


 体が、自分の「信念」に従って、自動的に戦っているような感覚。


(消えない信念)……このスキルは、まるで私という存在を信念そのものの延長にしてくれているようで。


 私はゆっくりと顔を上げました。


 熱を帯びた視線が、ウィリアムを真っ直ぐに貫いた。


 そして、次の瞬間——体が勝手に動いた。


「——はあああああああッ!!」


 私は咆哮しながら、一気に距離を詰め、剣を振り下ろしました!


 カンッ!


 ウィリアムの剣が迎撃してきましたが、その一撃を私は弾き返したのです。


 しかも、彼の剣に纏っていた火の魔力さえ、まるで存在しなかったかのように無効化されていました。


 私は止まらず、さらに剣を振り下ろしました。


 ——早い!


 その一撃は、自分でも驚くほどの速度と正確さ。


 ウィリアムは完全に不意を突かれたようで、慌てて剣で受けましたが、私の一撃に押し込まれ、五歩も後退。地面に深く削れた線が刻まれました。


 彼の手がしびれているのが目に見えてわかります。その顔から、今までの余裕が消えていた。代わりに現れたのは……驚愕。


「貴様……!さっきまで魔力もまともに扱えなかったのに、今の剣……魔力を纏っているだと!?」


 ……もう、彼の言葉は耳に入ってきません。今の私の中には、ただ一つの想いだけが燃えていました。

 ——絶対に負けるわけにはいかない。


 全身が燃えているような感覚。


 私の存在そのものが、怒りと信念の結晶になったみたいに。次の斬撃は、人間の可動域の限界すれすれを滑るような鋭さ。


 水の魔法を無詠唱で圧縮し、剣に乗せて放つ。


「《トリプルウォーターエッジ》!!」


 三重の水刃と共に、私の剣がウィリアムの腰を斬り裂こうと走った!


「……中級魔法を三重!?それは(魔導師)でも難しい多重詠唱だぞ!?」


 ウィリアムは焦りながら飛び退きました。かろうじて急所は避けたものの、マントが裂け、血が腰から流れ落ちて地を赤く染めました。


 ——やった。


 ……私の反撃が、ついに届いたんです!


 本当に……やっと、届いた……!


 でも——まだ、喜ぶ時間なんてありませんでした。体が……止まらない。私は少しだけ息を整えたかっただけなのに、足が、剣が……勝手に前へ進んでいく。


「……もう……もういいのに……!」


 そう言いたかった。でも、声が出ない。私の体は、勝手にウィリアムの胸を狙い、斬りかかろうとしていた。


 ……壊すまで止まらない。砕き、叩き潰すまで止まらない。


 ——これが、「信念」の力なの……?


 でも、敵は私の戸惑いなどお構いなし。もはや余裕を捨てたウィリアムは、本気の気配を纏っていた。


「勇者よ、逆境から進化するとはさすがだな。だが——ここからは容赦しない!」


 彼の周囲に、尋常ではない魔力の渦が巻き起こる。空気が灼熱に染まり、皮膚が焦げそうなほど。


 私には理解できなかった。でも……なぜか分かった。


 ——これは、火と風の複合魔法。剣技と融合した魔導剣。私は……私も、やらなきゃ。


「アクアソード……」


 口が勝手に呟きました。


 ——未習得の中級魔法。それが、自然と私の剣に纏われる。剣の先を低く構え、突きの姿勢に入る。


 なぜこの構えを?わかりません。ただ、私の「信念」がそうさせているような気がして。そして、ウィリアムが詠唱を完成させた——


「これで終わりだ!!《フレイムトルネード》!!」


 灼熱の炎と暴風が渦を巻き、私に襲いかかってくる。


 ……でも、私の足は、止まらなかった。


 それどころか——その炎の渦の中へと、真っ直ぐに突撃した。

 ——行くしかない。

 今、ここで退いたら、信じたものすべてを裏切ることになるから!

 私は、突き進む。


 ……たとえ、その先に、何が待っていようとも——!!


 ……私、今……何をしているんですか?そう自分に問いかけた瞬間でした。


 全身が、魔力の奔流に包まれたのです——!


「《スパイラルウェイブストライク》……!」


 私の身体の周囲に、螺旋状の水流が現れました。


 灼熱の暴風の中、まるで盾のように私を守りながら、前へ進むための道を切り拓いていく。


 その水流に背中を押されるように、私は——灼熱の風の中を突き進みました!


 そのとき、ウィリアムの怒声が、炎を割って耳に届いた。


「こ、こんなバカな!!異世界に来たばかりの小娘が……女ごときが……無詠唱で上級魔法を使うなど、あるわけがないだろうッ!!」


 ……そんなの、私だって分かっています!

 信じられないのは私も同じです!

 でも——!


「だからこそ、今この力があるなら……私は戦わなきゃいけないんです!!」


 ウィリアムの怒りに反応するかのように、彼の炎の暴風はさらに勢いを増してきた。でも、私の中にも……もう一つの熱が燃え上がっていました。


 私の想い。

 この世界で、無視されてきたものたちの叫び。

 誰にも踏み躙られたくないという怒りと、

 それでも誰かを守りたいという祈り。


 水の螺旋がさらに厚く重なり、私の身体はさらに加速しました。彼までの距離、あと五メートル——!


 私は全身の力を込めて、剣を突き出しました。


 ——その瞬間、何かが発動しました。


 足が止まったはずなのに、私の身体は《滑るように》前へ進み続ける。それは、スキル? それとも「信念」が導いた動きだったのでしょうか。


 剣が風と炎を斬り裂き、ウィリアムの魔力と私の水の奔流が、空中で炸裂してぶつかり合い、音もなく霧散しました——


 その衝撃の中、私は突き抜けていた。そして、そのまま剣を、彼の——心臓をめがけて——


「……ダメ……やめてっ、やめてえええ!!」


 私は叫びました。その叫びが、私の意識の奥から突き上げるように溢れて、理性がようやく、燃え狂う信念を制御したのです。


 剣先はわずかに逸れ、代わりに彼の胸甲を貫きました。


 ——ドン!!


 金属を打つ重い音と共に、ウィリアムは宙を舞い、遠くの石畳へと叩きつけられました。砂塵が舞い上がり、視界を一瞬、白く染めた。


 私はその場で膝をつき、荒く息を吐き、汗と涙が混ざったまま、地面に手をついて震えていました。


 ……震えていたのは、恐怖ではありません。

 それは、抑え込んでいた怒りと悲しみと絶望、

 そして——


 やっと解き放たれた、私自身の「力」。


 ……私、今……彼を殺しかけたんです。


 そんなつもりじゃなかった。私は、誰かを傷つけたくて剣を取ったんじゃありません。憎しみをぶつけるために戦っているんじゃありません。


 ——私は。

 守りたいから。

 この世界の理不尽に抗いたいから。

 自分を……自分として、認めるために。


「はっ……はあっ、はあ……っ」


 私は、手の中にある剣を見つめました。


 白くなった指先、喉が渇いて声も出ない。でも……目だけは、閉じませんでした。

【(消えない信念)——スキルが覚醒しました。】


 ……こわいスキルです。


 でも、私は——

 今、確かにこの世界に……「自分の足跡」を刻みました。

 初めて、この世界に、私の存在が……確かに届いた気がしました。


 ——私は、もうただの「女子高生」なんかじゃない。

 私は、望月澪。

 ここにいる、一人の——勇者です。


皆さま、本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。


もし作品を気に入っていただけましたら、ぜひご評価やブックマークをしていただけますと嬉しいです!


今回の戦闘パート、楽しんでいただけましたでしょうか?


今回は特に、「この世界に来たばかりで何も分からない澪が、苦しい戦いを経て、初めて“勇者らしい行動”を取る」という点に焦点を当てて描いてみました。


最近では「お笑い系の勇者(笑)」がトレンドのようで、誰がそのタイプなのかは、もう皆さまお察しのことと思います。


一方で澪は、人間側の物語の中で“正統派の勇者”として描いております。


今後とも、澪の活躍にご注目いただけますと幸いです!


ちなみに──今回で戦闘は一旦の決着を見せましたが、実はもう少しだけ続きがあります。


やっぱり、ボス戦に「第二形態」は付きものですよね?


明日の朝7時更新予定の「戦闘完結編」では、戦いの本当の終わりと、その後の決闘の後始末が描かれます。


どうぞお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ