第39話 :「《勇者編》朽ちぬ意志が、導きし解答(消えない信念)」
私は、息を切らしながら、必死に立ち上がろうとしていた。
この体じゃ、もう次の魔法か剣撃を受けたら終わりだってわかってます。
あと一撃……それで私は倒れて、敗北が宣告されるんです。
——それでも、私は……まだ、倒れるわけにはいかない。
たとえこの戦いに勝てないとしても。
せめて、皆に見せたかったんです。
「望月澪」という少女が——屈しない存在であることを。
踏みにじられず、
奪われず、
決して諦めない存在だということを。
血まみれになってもいい、
倒れるとしても、
私は立ったまま終わりたい!
「私は……望月……澪です……!!絶対に……簡単には……諦めませんっ!!」
ウィリアムの表情が、ほんの少しだけ変わった。軽蔑の中に、わずかな警戒。そして、戸惑い。
私の構えなんて、もうボロボロです。剣を構える手も震えてる。でも、視線だけは、誰にも負けない強さを宿していました。
——これは、勝ち負けの問題じゃない。
私は今、初めて「何のために、この世界に立つのか」を全力で証明しようとしているんです。
「ちっ……調子に乗るなよ!」
ウィリアム伯爵は、容赦なく攻撃を続けてきました。炎、氷、衝撃……魔力を纏った木剣が私に襲いかかる。
だけど……なんとなく、わかってきたんです。
彼の剣筋が……焦っていることが。
自信満々だった動きが、どこか乱れている気がして。
もちろん、私の体はもう限界で……反撃なんてほとんどできない。それでも、何度目かの斬撃に、私は辛うじて反応しました。
「《アイスブレード》!」
冷気が走り、腕に切創。袖が赤く染まり、次の木剣が私の腹部を叩きつけ、私はまた地面に打ち倒されました。
顔面が石にぶつかり、鉄の味が口いっぱいに広がる。
「立てよ、勇者様。」
彼がゆっくり近づいてきて、私をただの虫のように見下ろしていました。
「『勇者』なんて肩書きでいい気になってるだけじゃないか? この世界の戦いは、名前じゃ通じねぇんだよ。」
……その通りです。
私の魔法は、彼の防御を崩せなかった。
私の剣なんて、子供の真似事。
私は……もう、負けている。
——なのに、なぜでしょう。
どうして、私はまだ立ち上がれるんですか?私は剣にすがって、ぐらつく足で立ち上がります。
視界はぼやけてるけど……心の中だけは、今までで一番澄んでいました。
——なんで、私だけが戦ってるの?
——なんで、女性が物のように扱われて、貴族の道具みたいにされてるの?
——エミリアは、あんなに優しくて、あんなに頑張ってるのに……
なんでこんな地獄に巻き込まれなきゃいけないの……こんなために、私たちは召喚されたんですか?
いや、違う。
私は、足元をふらつかせながら、前に一歩踏み出しました。
視界の端に、泣いているエミリアの姿が見えました。
その表情が、焼き付いて離れなかった。
——私はもう、守られるだけの存在じゃない。
私は……「勇者」です。
守るために、ここに立ってるんです。
私は、強いから戦うんじゃない。
「戦う必要があるから、強くならなきゃいけない」んです。
「……まだ立てるのかよ?」
ウィリアムは笑っていました。だけど、どこかその笑顔が引きつっていて、口元がピクリと震えてました。
焦ってるの?
恐れてるの?
私みたいな女に負けるのが?
彼は、苛立つように火の魔法を唱えました。
「《ファイアウェーブ》!」
炎の波が押し寄せてきて、私は避ける暇もなく炎に包まれました。
肌が焼けるように痛くて、衣服の一部が焦げて、
私はまた地面に膝をつきました。
体中が「もうやめて」と叫んでる。
——でも、心は叫んでる。
「まだ終われない」と。
ここで倒れたら、もう一生、立ち直れない。
私は、この世界を変えたい。
力はなくても、声を上げたい。
誰かがやらなきゃいけないなら——
私はその「誰か」になりたい。
瑛太みたいな人になりたい。
「……まだ足りない……」
私は、低くつぶやきながら、剣を支えにまた立ち上がりました。
「……は?」
「まだ……アンタの攻撃じゃ……私は諦めない。」
顔は埃と血でぐちゃぐちゃで、体中が傷だらけで。
でも、私はもう恐れていなかった。
心は、熱く、強く、確かに燃えていた。
「私は……アンタなんかに、負けない。」
その瞬間、ウィリアムの目が微かに揺れた。
私の中で、何かが目を覚ました気がした。
——それは魔法じゃない、力でもない。
——それは、「信念」。
彼が木剣を振り上げ、空気中の魔力が揺れる。炎のような魔法が剣に宿り、振り下ろされようとしていた。
私はもう動けなかった。視界は暗く、鼓動の音だけが耳に響いている。
だけど、それでも私は剣を握っていた。
この一撃で終わるとしても、私は諦めないと決めた。
その刹那——
《ドンッ》
世界が一瞬、止まった気がした。
そして、心の奥から、どこか機械的な、無感情な声が響いた。
《勇者の不屈なる精神が芽生えました——スキル覚醒:(消えない信念)》
それは、人の声じゃなかった。でも、私の心に確かに届いた。
——私は、まだ立てる。
ここからが、本当の私の戦いの始まりだ——!