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第37話 :「《勇者編》決闘の幕開け、そして絶望への序曲」

 私たちは、戦闘に適した服装へと着替えました。


 私は動きやすいシャツとロングパンツ……いえ、最近の女騎士たちに人気らしい“パンツスカート”を選びました。ロングパンツの上にプリーツスカートが重なったデザインで、活動性を保ちながらも華やかさを演出できる一着です。


 その後、メイドさんたちに手伝ってもらいながら防具を装備し、直感で自分に合いそうな剣を選び、私たちは戦闘用の広間へと案内されました。


 でも……そのとき初めて、「勇者」という言葉が、とても空虚に思えてしまいました。


 ――だって私は、戦闘経験なんてまったくない普通の学生で、今日が人生初の“本気の戦い”なんです。しかも相手は、熟練の《魔導剣士》。そして私は……剣の握り方すら、まだぎこちない初心者です。


「勇者澪、貴様は異邦から召喚された“勇者”だろ? 女神様の力で強化されてるはずだが、そんな程度の気迫しか出せないのか。やはり女は女、並の力しかないな。」


 そう言って私を嘲るのは、深紅の貴族服を纏った長身の金髪の男。


 ウィリアム・フェルム――王国の名門貴族の嫡男であり、伯爵家の後継者だそうです。剣術の天才と名高く、王立魔法学院で客員講師まで務めているという話も聞きました。


 彼の手にある木剣は、空気を切るように優雅に弧を描き、まるで開戦前から勝敗が決しているかのように、私を小馬鹿にしているようにさえ見えました。


「こんな田舎娘が、その程度の剣で、“理念”なんて口にするなよ。弱者のお前が、いったい何を守れるっていうんだ? ここで私に叩き潰されて、おとなしく消えろ。あの娘は私の嫁になる運命なんだ。必ず手に入れてやる。」


 ……私は、黙って歯を食いしばりながら、彼の視線から逃げずに睨み返しました。


 エミリアは、私の背後にいます。涙で濡れた目で、震えながら私を見つめている。


 ……彼女が負けたら、連れ去られてしまう。十人目の、妻として。


 それだけは……絶対に許せません。


 私は、彼女の“自由”を守るために、そして――自分自身の信念のために、立ち上がったのです。


 エレノア王女殿下は、公平な第三者の立会人として、私たちが準備を整えたことを確認なさると、決闘の開始を宣言されました。


「決闘――始め!」


 その声が響いた瞬間、ウィリアムの姿がまるで消えたかのように目の前に現れ、次の瞬間には木剣が振り下ろされていました。


 ――速いっ!


 慌てて剣で受け止めようとしたものの……全然、追いつけません。


 木剣は斜めに振り下ろされ、まるで鉄槌のような重さで、私は剣ごと弾かれて五歩以上も後退しました。


「くっ……!」


 ……嘘、木の剣って、こんなに重いの……!?


 彼の剣は、信じられないほど早く、重く、正確でした。私の鉄剣はまともに受け止めるたびにきしみ、手のひらがしびれて、落としそうになるほどでした。


 再び打ち込まれた一撃――


 でも私は、後方へと跳ねるように飛び、少しだけ距離を取ることに成功しました。


「水の精霊さん……私の願いを聞いて……。水の力よ、この手に集まりて、敵を撃ち抜いてください!」


 片手を掲げ、小声で呪文を唱えます。


「《ウォーターショット》!」


 集まった水の魔力を槍のように放ち、ウィリアムの胸元を狙って放ちました――が、彼は軽く体を傾けただけで、水弾は彼の肩をかすめて空を切りました。


「ふん、下級の水魔法か。……なるほど、異邦人のお前が魔法を使えるとは意外だな。練習時間もなかったはずなのに、少しは驚いたぞ。だが――」


 彼は冷笑しながら、右手を上げて構えます。


「こんなビシャビシャの小細工じゃ、私は倒せんよ!」


 次の瞬間――彼の手から放たれたのは、中級火魔法ファイアースピア。約三メートルの炎の槍が、雷のような速さで私に向かって突き刺さってきました!


「……っ!」


 私は必死に魔力を高め、次の魔法の詠唱に入りました。魔法はまだまだ慣れていないけれど、だからこそ、私は咏唱に頼るしかありません。


「水の精霊さん、どうか……私を包み込んで……敵の攻撃から守ってください……!」


 この数日、私は自分の使える魔法の詠唱をすべて暗記しておきました。だからこそ、すぐに使えたのです。


「《アクアシールド》!」


 ――ドォンッ!


 張り巡らされた水の盾が一瞬で蒸発し、爆発の衝撃で私は後方に吹き飛ばされました。スカートの端が焦げ、肌には熱が走るような焼ける痛み。


「……っ……く……!」


 でも……私は、倒れてなんかいられない。


 エミリアを、守るって決めたんですから。


 私が……勇者として、ここに立つと決めたんですから!


 私は彼女の友人として、決してその窮地を見過ごしたりはいたしません。必ず彼女を助け、救い出してみせます!


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