第3話:「衝突の果てに、異世界の扉が開く」
――次の瞬間、甲高いクラクションの音が空気を裂いた。
「右っ、トラックがっ――!!」星野さんの悲鳴が響いた。
俺が思わず振り向くと、白い大型トラックが、まるで暴走した獣のように反対車線から突っ込んできていた。
エンジンの轟音を響かせ、こちらに一直線。運転席を見ると――運転手は、寝ていた。完全に制御不能の状態で、俺たちのバスに向かって猛スピードで――!
「ブ、ブレーキが効かない――!!」
運転手が必死にハンドルを切るが、バス全体から金属がきしむような音が響き渡る。まるで、命乞いをする獣の悲鳴だった。
「掴まってろ――!!」
咄嗟に、俺は両腕を大きく広げて、隣にいた星野さん、鷹山さん、森本さんを一気に抱き寄せ、自分の体で庇った。
「「えっ、藤原さん(君)!?」」
彼女たちが驚きの声を上げる間もなく――
ドォォォン!!!
激しい衝撃が全身を襲い、世界がぐるぐると回り始めた。
バスの車体が横転し、ガラスも、座席も、金属の支柱までもが一斉に砕け散る。
まるで空っぽの缶のように、俺たちのバスはトラックに弾き飛ばされ、ガードレールに叩きつけられた――!
「――ああああああああっ!!」
「――きゃあっ!!」
「――危ないっ!!」
「死にたくない――!」
「助けてええええっ!!」
クラスメイトたちの絶叫が重なり、バス内は混沌の極みだった。
金属の軋む音、壊れたガードレールの破裂音――そのままバスは支えを失い、山道から宙に投げ出された。
車体は空中で回転し、俺たちは完全に浮かび上がる。耳元を裂く風圧、途切れない悲鳴、そして経験したことのない重力の消失感。
俺にできる唯一のことは、彼女たちを抱きしめることだった。せめて少しでも、衝撃を和らげられるように。
恐怖のせいだろうか、彼女たちも俺に強くしがみついていた。まるで、絶対に離れたくないと言わんばかりに。
そして――
ドン!ドドンッ!!――ドガァァァンッ!!!
バスは回転を続けながら山肌を転げ落ち、車内に岩が降り注ぎ始めた。ガラスを砕くような轟音。
屋根と底が交互に地面に叩きつけられ、俺の身体は方向感覚すら失った。
ただ、俺はそれでも……彼女たちを、守らなきゃいけなかった。
「くっ……うああああ……!」
ガシャァァンッ!!
一つの大岩が窓を突き破り、破片と共に金属の棒が俺たちの方へ飛んできた。
俺はとっさに頭を下げて星野さんを抱きかかえ、そのまま自分の身体を盾にするようにして、岩の方向へと向けた。
その瞬間、車体が凹み、背中と胸に鋭い激痛が走った。
バスはついに山のふもとに激突して止まり、動かなくなった。
俺の意識は朦朧としていて、何がどうなっているのか、まともに把握できない。
さっきの岩は星野さんを直撃しなかったが、それでも彼女は頭部から血を流し、口元にも血が滲んでいた。
俺の腕の中で、意識を失って静かに倒れていた。
「……けほっ……ふじわらくん……」
隣で、鷹山さんのかすかな声が聞こえた。体を動かすことすらできず、彼女も重傷らしい。
「しゃべんな……」
俺は息を切らしながら言った。土と血で霞んだ視界の中で、「……まだ……俺は……」
震える手を伸ばして、彼女を安心させようとした。
だが――視界が、暗くなっていく。
隣の森本さんも、静かに寄りかかったまま動かない。
谷底には破損した金属の音が響くだけで……誰一人、声を返さなかった。
――もう……クラスのみんな……ダメだったのかもしれない。
俺の腕は、まだ彼女たちを抱いていた。
もう力は入らなかったけど……それでも、離したくなかった。
守りたかった。最後まで。
もう……あの大学を見ることもできないし、
もう誰かとゲームの話で言い合うこともできない。
もう……残りの人生を楽しめない。
でも――後悔なんてしていない。
もう一度選べるとしても、俺はきっと、同じように彼女たちを守る。
そして――
砕けたガラスと残骸の中、俺の意識は、静かに、虚無へと沈んでいった。
――その時だった。
幻聴かと思うほど淡く、それでいて確かな、誰かの囁きが、耳元で響いた。
「なるほど……あなた、RPGが好きなのね? ふふ……なら、きっと私の世界も気に入るでしょう。情報を集めて敵を倒す……それが、あなたのプレイスタイル。だったら、情報収集に最も適したスキルを――あなたへの旅立ちの贈り物といたしましょう。」
「それに……最後の最後まで、《特別な存在》を守ろうとするか。《大切な人》のために行動できるその姿……とても素敵でしたよ。特別に、もう少しだけご褒美をあげましょう。どうか……私の期待を裏切らないで。《最悪の迷宮》で、せいぜいあがきなさい。……たとえ世界を救わなくても――あなたが最後に辿り着くなら、それで十分ですから。」
《確認完了。最高権限により介入開始。ルナリアが転生処理を引き継ぎます。》
《スキル(森羅万象)を習得しました。》
《転生対象を確認中……》
《対象:藤原瑛太 情報照合開始》
《ルナリアが肉体特性を選定中……(不死者)》
《転生形態:(不死者)……(スケルトン族)として転生、成功。》
《(女神様とても優しい説明書)のインストールを開始、完了しました。》
《同時に(モンスター初心者パック:ステータス欄、言語理解、インベントリ、初心者装備)のインストールを開始、完了しました。》
《対象の能力をスキルとして出力中……(高速記憶)……(絵画)……(高速分析)……》
《ルナリアがインストール工程に介入。スキル(森羅万象)の性能を最適化および個別調整。進化完了。(森羅万象)はS級スキル(皆は我のために、我は皆のために)へと進化しました。》
《インストール完了。ルナリアが全スキルの最適化を開始……》
《スキルを習得――完了。スキルは(皆は我のために、我は皆のために)により統括されます。》
《すべてのインストール処理が終了しました……スキル(皆は我のために、我は皆のために)は、主の覚醒まで休眠に入ります……異常を検知》
《未知のエネルギーを確認……》
《転生中に肉体を通じて偶発的に吸収されたエネルギーであると確認。ルナリアが介入、該当エネルギーは魂の深層部に封印されました。》
《スキル(Unknown)を習得。ルナリアにより情報は秘匿されました。》
《主の意識の覚醒を待機し、休止状態に入ります。》
「さて……これで瑛太君の準備は整ったわね。ふふ、でもこの子のスキル……ほとんどが《誰かとの絆》があってこそ真価を発揮するものなのよね。困ったわねぇ。」
「え?定期観察のときに瑛太君は結構嫌われてたなのに……?でも今回の《選定された転生者》の中には、彼と《深い絆》を持つ者が、思ったより多かったのよ。さすがは私が選んだ《最も特異な魂》、藤原瑛太君。ふふ……じゃあ、彼と絆値の最も高い三人を、特別に彼の近くへ転生させてあげましょう。」
「あなたたちの絆さえあれば……《全員が迷宮の中にいる》と気づけば、きっと諦めることなんてしない。少なくとも、生き残ってもがいて、そして再び出会うでしょうから。瑛太君の仲間たち特にサービスをスキルが最適化しょうか。他の人……面倒くさいからシステムをお願いしましょう。」
「残りの者たちは……予定通り王国の聖堂に転生させておきましょう。どうか、今度こそ世界を救えるといいわね。救えないのなら……仕方ないなのでまた最初からやり直し。もし世界がそのまま滅びるのなら、それはあの世界人間たちの――《自業自得》というだけの話よ。」
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