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第21話 :「もう罠はない!ここからは普通の迷宮攻略だ!」

 俺は周囲をぐるりと見回した。東側の通路にはあまり残骸が残っておらず、敵意の波動も感じられない。


 星野は西側から侵入して、戦闘の末に東側に追い詰められたはず。ならば、残された進路は──北だ。俺たちは、逆光に浮かぶ巨大な石の扉へと向かった。


 扉の前の空気は、さっきよりも冷たく、北へ進むにつれて魔力の濃度も高まっていくようだった。扉には複雑な紋様が彫り込まれており、明らかに何らかの封印装置のように見えた。


 数歩進んだところで、低く唸るような咆哮が聞こえた。視線を向けると──そこにいたのは、犬のような姿をした三体の魔物。


 瘤のような塊が頭部に浮き出ており、目は血走り、口からは血混じりの唾液が滴っている。


 《Eランク:ハイエナ・デーモン。動物系魔物。同ランク帯では高い機動力を誇り、速度で相手を圧倒するタイプ。三~五体で群れを成して襲う傾向あり》


「気をつけろ、星野。あいつらはお前と同じランクの魔物だが、ゴブリンよりは明らかに手強い」


 星野はすぐに身体を低く構え、両耳をピンと立てた。白い毛並みがわずかに逆立ち、全身に緊張が走っているのが分かる。


「二人いるからこそ、恐れる必要はない。星野、もし可能なら……お前のスキルの詳細を教えてくれないか?戦術を組む時に、把握しておいた方がいい」


「了解です!戦いながら説明しますね!藤原さん、そっちに近づいてる敵は、あなたに任せます!」


 俺は《黒曜石の短剣》を逆手に構え、最も接近してきたハイエナ・デーモンに向かって、胸元で刃を立てて迎撃体勢を取る。


 次の瞬間、三体の魔物が一斉に跳びかかってきた。先頭の一体が高く跳び上がる。


 俺は体を捻って回避し、骨の手でその後ろ首を掴んで地面に叩きつける。


 すかさず右手の短剣を喉元に突き立て──しかし、簡単には刺さらなかった。刃はほんの少しだけしかめり込まず、逆にその尾で薙ぎ払われ、俺は一歩後退する。


「星野! 一体がそっちに行った!」


「受けてみなさい、《アイスクロー》!」


 俺の横から襲いかかった二体目に対し、星野は既に跳び上がっていた。猫の爪先から氷の刃が閃き、見事に相手の前脚を切り裂く。


「藤原さん、私はこうして、氷属性の魔法を(爪撃)や(咬撃)と組み合わせて使えます!これが元素魔法スキルの力ですよっ!──《アイステイル》!」


 彼女のしなやかな尾に白い氷が纏い、そのまま身を翻して尾で魔物を強打。吹き飛ばされた魔物は石柱に激突し、その場で痙攣して動かなくなる。


 ──なるほど。あの柔らかそうな尻尾に、そんな威力があったとは。氷の属性が強化をかけてるんだな。


 残る一体が星野の背後から襲いかかろうとしたその時、俺は咄嗟に地面の石片を拾って、それをそいつの頭に投げつけた。


 カンッと音を立てて命中──


 ……って、おい、なんで本当に引っかかってんだよ!?


「藤原さん、これは私のスキルの効果です!(自信が輝く)で私の魅力を上げると、魔物のヘイトが格段に上がりにくくになりました。つまり、すぐに攻撃を諦めてくれるってことです。人間に対する魅力の効果は、また後で説明しますね。」


 ……なるほど、そういうことか。お前……それ、めっちゃ便利だな。この世界、本当に面白いな。この世界のシステム、きっと女神(ルナリア)様が設計したんだろうな。


 俺は迫ってきたハイエナ・デーモンの牙を短剣で受け止めた。


 が、力が強い。強すぎる。押し負けそうになりながら、後方にじりじりと引きずられる。


 その隙に、一体目のやつが俺に追い打ちをかけようと距離を詰めてくる。俺は心の中で星野に指示を飛ばし、彼女も即座に魔法を構える。


「(ファイアースピア)!」


 火の槍が発射され、三体目の魔物の腹部を貫く。咆哮を上げてのたうつが、倒れない。むしろ逆に怒りが増して突進してくる。


「くっそ、火が弱点のはずだろ!?なんでまだ動けるんだよ……!」


 ──こうなったら、抵抗を諦めて後方へ跳ねた。


 その瞬間、俺たちの間に保たれていた微妙なバランスが崩れ、奴が一気に突進してくる。だがそれは俺にとって、むしろ好機だった。短剣を思いきり噛みしめたその顎を支点に、俺は勢いよく前転──そのまま奴の背中に乗りかかった!


 まさに間一髪、もう一匹のハイエナ・デーモンの挟撃から逃れた瞬間だった。


 俺は短剣を手放し、しっかりとその背に腰を据えると、すぐ星野に指示を飛ばす。星野は俺の判断を信じて、すぐに対応してくれた。


「(ブリザード・ストライク)!」


 広範囲を覆う氷の嵐が襲いかかり、俺と残っていた二匹のハイエナ・デーモンを包み込んだ。強烈な冷気が奴らの体を凍てつかせ、その動きが明らかに鈍っていく。


 ──俺はと言えば、氷属性の耐性のおかげで、ほとんどダメージは受けていなかった。


 俺は両の拳を強く握りしめ、全力で奴の頭に叩きつける!


 呻き声とともにその顎が開き、口から短剣が飛び出した。俺は素早くそれを掴み取り、振りかぶる。


 そして──

「……っりゃああああ!!」


 渾身の力を込めて、その短剣を奴の眼球に向かって突き刺した。鮮血が眼窩から吹き出し、ハイエナ・デーモンが苦しみにのたうち回る。


 俺はさらに畳みかけるように、短剣を頭部に何度も突き立て、もはや動かなくなるまでその命を刈り取った。


 星野も集中した魔法攻撃で、もう一匹をすでに仕留めていた。


 最後に残った一匹は、まだ氷の影響でぼんやりとしていたため、星野が魔石を吸収する特性を確認するために、同時にトドメを刺すことにした。


 ──戦闘が終わったあと、俺たちは死体の山の中で肩で息をしながら立っていた。


「……今の藤原さん、私より戦えてたかもしれません。」


 星野が、どこか複雑でありながらも嬉しそうな笑みを浮かべて呟いた。


「買いかぶりすぎだよ。俺なんて魔法もないし、技術と勢いでなんとかしてるだけだよ。星野はちゃんと二体も倒してるじゃん。」


 俺は苦笑しながら返し、続けた。


「ちょうど魔物の死体もあるし、魔石がどうなってるか確認してみよう。」


「はい、早く確認してみましょう……私、本当に魔石食べちゃっているのでしょうか?」


 星野はそう呟いて、先に石門の方へと歩き出した。長くて美しい銀の尻尾が地面をふわりと撫で、歩くたびに揺れている。その背中はどこか誇らしげで、まるで浮き上がりそうなほど軽やかだった。気分がいいのか、足取りも弾んでいるように見えた。


 俺は魔物の死体を調べる。やはり、星野が倒した個体には魔石が残っていなかった。対して、俺と共に倒した個体には、魔石がちゃんと残っている。


 ──これで確定だ。星野は、倒した魔物から自動的に魔石を吸収しているらしい。


 俺はその場に残っていた魔石を取り出す。少しくすんだその輝きは、俺たちの幾度の戦いを経て、新たな意味を宿しているようにも思えた。


 俺は首を振り、気を取り直して先を行く星野に追いつき、新たな発見を伝えた。


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