第2話 :「女神への愚痴がバレて、二度目の罰ゲームが始まったんだが?」
「……クソ女神様ァァァァァァァ!!」
ふざけすぎだろ!? 煽る気満々じゃねえか!!
あなたって俺に何か恨みでもあるんですか!?
この挑発、あまりにも悪質すぎるぞ!?
俺の中にあった女神のイメージ、今ので半分以上崩れたからな!?
もうちょっと神様っぽく真面目に喋ってくれよ!!
……俺がどれだけ怒ってるか、わかってんのか!?
この俺に「逃げてもいい」とか言いやがって……俺はな、RPGは常に最高難度で挑む派なんだよ!!!今までどんな地獄みたいなダンジョンでも根性でクリアしてきた!
この俺にとって、「逃げる」ってのは最大級の侮辱なんだよ!!
くそっ……これ、俺が3日3晩徹夜で描いた精密イラストをクラスのバカにビリビリに破られたときより……何倍もムカつく!!
……いいか女神ルナリア、もしダンジョンをクリアしてお前に再会したら——平手打ちかます覚悟しとけよ!!!
誰が舐められてんだよ、コラァ!!
最難関ダンジョンだろうが、なんだろうが、この瑛太様が完☆全☆攻略してやるわ!!!
それに……ご褒美? いらねえよそんなもん!
どうせ俺は、このまま進化して人型に近い魔物になってやる!
お前の恩恵なんか、頼らなくてもいいんだよ!!
――ふう。怒り、発散完了。
さて、まずは冷静に自分のステータスを確認しようか。
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《名前:藤原 瑛太》
種族:スケルトン族(Skeleton)
スキルリスト:
◆Sランク:「(皆は我のために、我は皆のために・森羅万象)」
◆Aランク:(超運UP – A)
◆Bランク:(純粋なる信仰)、(神聖魔法・ヒール)、(高速情報分析)、(具現描写)
◆Cランク:(記憶力強化)、(反応速度UP)、(敏捷性UP)、(回復力UP)
◆Dランク:(剣術)
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「おお……こうやってリストで見られるの、便利すぎる。ランク分けも分かりやすいな。」
……なんて、ほんの一瞬ホッとしたその時。
ズゥゥゥン……!!!
部屋全体が揺れた。壁が動き、床が割れる。
その裂け目の向こうから、腐ったような何かの悲鳴が聞こえてくる。
急に、俺の体が不思議な白い光に包まれた。
「——瑛太君?」
……ゾクリと背筋が凍った。
「今さぁ……ちょっと失礼なこと考えてなかった? これはダメよ~、だって私は君に、すっごーく期待してるんだから♡だからね、時々、君が私の世界の様子を覗いているわよ〜随分とお茶目さんみたいだから、ちょ~っとだけ……お仕置きタイム入れようかなぁ♪」
えっ、ちょ、待って!?
ちょっと女神様!? え、えーと、あのさっきのはただの冗談でして……ほんとですって!? ね!?
でも、俺の必死な言い訳なんて……女神様は聞く耳持たず。
ゴゴゴゴゴ……ッ!!!
《高難度試練 起動──迷宮システムへ最高権限による介入を確認》
《第一階層:生存試練 発動》
《制限時間:5時間。すべて第一階層の魔物がこの部屋に解き放たれます。10秒以内に脱出しなければ、部屋は封鎖され、5時間生存を強制されます。》
……ちょ、ま……えぇぇぇぇぇええ!?!?
女神様、ガチでやる気だああああああ!!!!
「試練!? ま、待ってくれ! 俺まだスキルの確認も終わってないんだって! お願いです、女神様ーー!」
俺は半ば転がるように、迷宮通路へと猛ダッシュ!
けど……骸骨の脚って、意外と脆い。数歩走ったところで、膝の骨がボロッと外れた。それでも止まってなんかいられない!
このままじゃ数百の魔物と5時間、密室で生き地獄パーティー開催だ!
俺の心、まだそんな覚悟できてねぇよ!!
「くっそぉ……ルナリア、絶対に忘れねえぞっ!!」
「ふふっ、どうやらまだお利口になってない子が一人いるみたいね。昔はもっと素直で信心深かったくせに……まさか本物の神に向かってそんな態度を取るなんて。……しょうがないわねぇ、天罰を与えて、《神》という存在に敬意を覚えさせてあげる♡」
《部屋外部に変化を検知──初級試練が【罠試練】へと変化》
《罠難度:S級》
「い、いやあああああああ待ってぇええええええ!!!
ごめんなさいッ!! 俺が悪かったッス!! 調子に乗ってましたッ!!
どうか慈悲をッ! あなた様が本当に存在するって、今この身で理解しましたッ!!
どうかどうか、俺の無知をお許しください、女神様あああああ!!」
——くっ、もうこうなったら完全降伏しかねぇ。
だが男ってのは、引くべき時に引ける勇気も必要だ!
素直に自分のバカさを認めて謝るくらい、何でもねぇさ!
つーかそもそも、俺はルナリア様に会った記憶ないんだから、一回くらいは許してくれてもいいだろ!?
「まぁ、言ってることにも一理あるわね。私も君が気づかないうちに転生させちゃったし……今回は特別に許してあげる。でも〜、君もそろそろ『女神、女神』って呼ぶのやめたら?人間、人間ってずっと呼ばれてたら……誰だってイヤでしょ?だから、瑛太君だけには特別に許可してあげるわ。私のことは『ルナリア様』って呼びなさい。そうすれば、今回の無礼は水に流してあげるわよ?」
「は、はいっ! ルナリア様……これでよろしいでしょうか!?以前は特に信仰とかありませんでしたが、これからは生涯をかけて、ルナリア様だけを崇めさせていただきます!!どうか、この罪深き骸骨をお許しください!!」
「ふふっ、いい子ね、瑛太君。とっても素直でよろしい♪じゃあ、許してあげる。感謝しなさいね~♡」
《罠難度が【S級】から【B級】へ変更されました》
《罠の内容:数はS級だが、罠は不死者に対して致命傷ではなく、重大ダメージに変更されました》
「……って、えええ!? 待ってください! 許してくれたんじゃなかったんですか!?」
「うん、許したよ? だから今は普通に第一層の迷宮を攻略できるように戻してあげたの。ただね? さっきの無礼に対する《ちょーっとした罰》として、罠の《数》だけちょっぴり増やしたの♪ま、今後は二度と同じ過ちをしないようにね?私はね——《同じ失敗を繰り返す愚か者》が、大嫌いなの♡」
ゾクッ……! な、なんだこの圧……!
ここはやはり罰を受けてしましょう。な、なんでだ……先から、俺、言葉に出してねぇのに……
まるでルナリア様が、俺の考えてたこと全部見透かしてるみたいじゃねぇか……!?
「BINGO、BINGO~♪さっすが自称・高難度RPGの猛者、瑛太君。察しがいいじゃない。普段はそこまで深く見ないけどね?でも今回はさすがに『私に恨みがある』とか言われちゃったから〜、ちょ~っとだけ、君の心の中を覗かせてもらったの♪」
うわあああああああああ、やっぱり読まれてたあああああ!!
——だが俺は、何とか十秒以内に部屋から脱出。
こうして、やっと迷宮の通路へと足を踏み入れた。
「……ふぅ……ま、マジで死ぬかと思った……とにかく、ありがとうございます。ルナリア様のご加護で……こうしてもう一度、生きるチャンスをいただけた……この骸骨の体でも、俺……絶対に生き延びてみせます……!」
俺は息を整えながら、ルナリア様に心からの感謝を捧げた。
「うんうん、素晴らしい心意気ね。この転生者たちの中で、私は君がいちばん期待できると思ってるの。だから、頑張ってダンジョンを突破しなさい。ちゃんとクリアすれば——ご褒美は必ず与えるわ♡」
「はいっ……命がけで、絶対にダンジョンを突破してみせます!その時のご褒美は感謝して、頂戴いたします ……って、ちょっと待て。今、【この転生者たちの中で】って言いましたよね……?まさか……あの事故現場にいた他の人たちも……?」
「それは、ノーコメント♡あまりネタバレしすぎると、君に有利すぎるでしょ?だからまずは、生き延びて、ダンジョンの奥を目指しなさい。きっと、後悔はさせないわ。じゃあ、私は忙しいのでこの辺で——」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!? ルナリア様!?」
「これだけ君に教えましょう。このダンジョンに入らなければ、きみの大切な人たちは危険に晒されるでしょう。彼女たちだけでは、この迷宮を突破することはできません。せいぜい、精々頑張りなさい。」
……呼びかけに応じる声は、もうなかった。俺の身体を包んでいた発光も、すっと消えていった。