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第13話 :「チーム初勝利、とマリアが漏らした想い」

「藤原さん、ここ……本当に危険すぎでしょうか?こんなに罠だらけなのに、あなた一体どうやって無傷で通ってきたんですか??」


 戦いの最中、星野が驚いたように俺に問いかけた。


 無理もない、彼女には簡単な指示しか出してなかったし、状況を全部把握してたのは俺だけだったからな。だから、何でそんな動いているは分からないから、あんなにたくさんの罠があるなんて思っていなかった


「ははっ……星野、それはもちろん……トライ・アンド・エラーってやつさ」


 俺がそう言うと、彼女は何とも言えない表情で一瞬だけ呆れて、それから小さく笑った。ようやく誰かが、俺の苦労を分かってくれた気がした。


 ――そして、その瞬間こそが、俺たちの“勝機”だった。


 すでにゴブリンたちの士気は地に落ちていた。新たな罠を警戒し、恐怖に包まれていた……今ならいける!


「星野!」


「分かっています!(ファイアースピア)、(アイススピア)!」


 彼女が同時に発動した火と氷の槍が、唸りを上げて敵陣に突き刺さる。それと同時に、俺も前へ――!


 俺の短剣が一体のゴブリンの頭部を貫き、その勢いを使って横へ身体をひねる。

 抜刀の反動を活かして、隣のゴブリンの胸元を横一閃!

 火と氷の魔法がさらに数体のゴブリンを貫き、炎が焼き、氷が凍らせる。


 敵の一部がようやく反応し、俺に向かって突撃してきたが――


「(ウォーターボール)……(ライトニングスピア )!」


 星野の援護が飛んでくる。巨大な水球が敵を押し流し、全身を濡らしたゴブリンたちの身体に電撃が走る!


 バチィィィンッ!


 一部のゴブリンはその場で痙攣して倒れ、他の者たちも立っているのがやっとという状態に。


 ――十分だ。


 その隙に、俺はさらに前へ。短剣で首筋を斬り裂き、反対の手にはアイテム欄から取り出したサブ武器――スケルトンショートソード 。


 少し不安だったが、切れ味はまだ生きていた。黒い刃が光を受けて一瞬だけ煌めき、ゴブリンの喉を真っ二つにする。


 一方、星野も爪撃で敵を牽制。直接倒しきれなくても、麻痺効果を付与し、動けなくする。

 骨と爪の共鳴が、敵を確実に削っていく。十五、十、五……。

 最終的に、一体のゴブリンだけが逃げようと背を向けた。


 俺はすかさず短剣を投げる。黒い刃が宙を舞い、正確にその後頭部を貫いた。


 ――ドサッ。


 鈍い音が響き、最後の一体も沈黙する。場に広がる静寂。

 俺たちの荒い息遣いと、まだ乾ききらない血の匂いだけが、迷宮に残されていた。

 星野はその場に座り込み、尻尾を丸めて喉を震わせながら言った。


「藤原……さん、ほんとに強いですね。もう、完全にこの世界に馴染んでるみたいですね?」


「俺も、まさかこんなに上手くいくとは思ってなかったよ。でも、作戦が機能して本当に良かった。……適応ってのも、スキルのおかげさ」


 俺も星野の隣に座る。肩の関節が軋み、疲労が骨の髄にまで響いてくる。けど……この勝利は、それだけの価値があった。


 星野は少し震えながら俺を見上げ、その小さな身体を俺の足骨に寄せ、琥珀色の瞳で見つめて――


「藤原さん、あなたって本当に…頼れる人ですね。助けに来てくれて、本当にありがとうございました。私、すごく嬉しかったです。」


 その言葉に、俺は小さく頷き、口元(骨だけど)をゆるめた。もし顔があれば、たぶん今、アホみたいに笑ってると思う。


 こうして俺と――この白猫になった星野美月は、この薄暗く湿った迷宮の最深部で、初めての共同戦線を乗り越えた。俺はそっと手を伸ばし、彼女の頭を撫でる。


「さあ、行こう。俺たちで、この狡猾な迷宮を突破しよう」


 白い毛がふるりと揺れ、星野はちょこんと頷いた。かつては人間だった星野のその仕草は、もう完全に猫そのもの。


 だからこそ――頭を撫でることに、ちょっとだけ大胆になれた。

 そして俺たちの冒険は、まだ始まったばかり。

 磷光と影が交錯するこの迷宮を、俺たちは、共に進んでいく。


 次なる試練へと――


 ————


 《天界のとある場所》


「ふう……無事に合流できたみたいね。本当に、よかったわ」


 静かに息を吐きながら、私は下界の様子を見守っていた。


 これで余計な介入をせずに済むわ。第一層では、あとは彼らが手に入れる宝箱の中身だけを調整しておけばいい。


 女神(ルナリア)様から転生者たちの担当に任命された――この役目は、私にとってとても意味のあるもの。


 何しろ、この世界は今、存亡の危機に瀕しているのだから。もう、数千年もの間、この世界には勇者が生まれていない。


 だからこそ「勇者の資質を持つ者」を異世界から召喚するしかなかった。


 ……本当は、異世界人の力に頼るべきではなかったのよ。過去に何があったのか、私たちは忘れてはいけない。でも、よりにもよって今回の転生者の中に、勇者が二人も存在していたなんて――


 本当に厄介な状況ね。勇者は一人でも世界を混乱に陥れるほどの存在。二人もいれば、何が起こるか分からない。願うしかないわ。どうか、彼らが「人としての良識」と「悪意を見抜く知恵」を持っていることを。


 ……私はあくまで、見守る者。世界に直接干渉することは許されていない。


 そして今回、女神(ルナリア)様が特に目をかけておられるのが――藤原瑛太君。


 彼を観察してきたけれど、今のところ他の転生者たちと比べて、特別目立った才能や異質さは感じられないわ。


 ――ただ、彼の心は強い。

 内に秘めた意志の力だけは、確かに……他とは違っている。

 さすがは女神(ルナリア)様。私には見抜けない「何か」を、すでに見通しておられるのね。


 ……これが、私と「真なる神」である女神(ルナリア)様との違いだった。いつの間にか ……運命って、本当に皮肉ね。


 強がりな剣士・凛ちゃん。そして、自分の「平凡さ」をなかなか受け入れられない、梓ちゃん。

 そのふたりが、第一層の迷宮で出会ったのも、また運命の巡り合わせなのでしょう。

 進捗から見て、彼女たちが先に第二層へ進むことになりそうね。


 でも……


 剣術を恐れながらも、それに頼らざるを得ない凛ちゃんと、精神的な強さがまだ足りない梓ちゃん――


 そのふたりでは、互いに支え合って第二層を越えるのは、難しいかもしれないわ。そして、瑛太君たちも迷宮を進む決意をしたようね。


 ならば、彼らが再会するのも、時間の問題ね。


 藤原瑛太君。


 私には、あなたの才能や可能性を見通すことはできない。

 だけど――だからこそ、祈るしかないの。

 どうか、女神(ルナリア)様の期待に応えて。この迷宮の中で、少しずつ成長して――


 そしていつか、私が愛するこの世界を、あなたの手で救ってほしい。


 ……あなたの旅路が祝福に満ちたものでありますように。


 心より、祈っています。


皆さま、こんにちは。


この作品を気に入っていただけたら、とても嬉しく思います。


さて──皆さまは、この鬼畜な迷宮のデザイン、お好きでしょうか?


RPGゲームが好きな方なら、「この手のトラップは本当にえげつない!」と感じていただけるのではないかと思います。


罠に関する描写は、ひとまず今回で一区切りとなります。


後半では、マリアの視点から、客観的な立場で様々な情報をご提供する予定ですので、どうぞお見逃しなく!


もしこの作品を気に入っていただけましたら、ぜひブックマークにご登録いただけますと嬉しいです!

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