第12話 :「俺と美月の初陣、予想外の好連携」
《(森羅万象)正式起動、リンク対象確認:星野美月》
《対象への戦闘支援開始、視覚情報および戦術指示を共有中》
俺の意識が震え、空気が張り詰める。幽かな白光が星野さんとの間に瞬き、次の瞬間――
「うわっ、な、なにこれ!? 画面にいっぱいマークが……!」
「大丈夫、それ俺のスキルだから。慌てなくていい、これは初めて他の人に使うけど、君に見えてるマークは、ゴブリンの弱点を示してるんだ」
「……なるほど、そういうことですね!これは便利だ、弱点を全部覚える必要がなくなりました」
「だろう!?それじゃ、行くぞ。俺が指示を出すから、君はそれに従って動け!ちゃんとやれば――Sランク評価の勝利が取れる。」
俺は目を閉じ、(森羅万象)の力で脳内に戦場の立体模型を描き出す。
三十体のゴブリンが半円を描きつつ接近。両翼は高速型、中央には副頭目らしき大型個体――
星野と視覚共有開始。こちらから戦術を伝達する。彼女の意識に直接、戦術が伝わる。(森羅万象)が即座に反映し、彼女の画面に戦術アイコンと指示ラインが表示された。
「……うん、分かりました。藤原さんの指揮、信じて動きます!」
「……よし、行こう。俺たちの、初めての共闘だ」
これはただの戦いじゃない。迷宮という絶望の中で、信頼という名の絆で――俺たちは、生き延びる。
「左側、三番目のゴブリンだ。星野、あいつは任せた!」
「はい、これで道を開きます!(アイスクロウ)」
星野はしなやかに跳び上がり、爪に氷の気配を纏わせて魔法を発動。銀白色の爪痕が、一直線にゴブリンの喉元を切り裂いた。
氷属性のクローアタック……美しいのに、鋭く冷たい殺意を秘めた一撃だった。
俺は一歩、二歩と前へ踏み込み、短剣を反転して握り直すと――
狙いを定めて一閃。ゴブリンの膝裏を斬り裂き、膝を崩させた瞬間、顎へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ッらぁっ!」
吹き飛んだゴブリンを、星野さんが空中で足場にして更に跳躍。そのまま後方の敵陣へ飛び込むと、空中で叫んだ。
「(ストーム)!」
風の魔法が空間を切り裂き、左翼のゴブリンたちをまとめて吹き飛ばす。
風圧と魔力が渦を巻き、敵陣の陣形が一気に崩壊した。
「よし、今だ!」
俺は全速で彼女の元に駆け寄る。陣形が崩れたおかげで、妨害を受けることなく再び合流できた。
「左側の罠ゾーンへ誘導する。そこが決戦の場だ」
「了解です、藤原さん。援護は任せてください!」
左側とは、さっき俺が通ってきた罠だらけの通路。罠の情報も把握済み。あそこなら、一気に数を削れる。ゴブリンたちは脳筋で助かった。俺たちの逃走を「追い詰めた」と勘違いし、全員で突っ込んできたのだ。
そして、罠通路に足を踏み入れた瞬間――
「グシャッ!」
両側の壁から巨大な斧が飛び出し、ゴブリンをまとめて切り裂いた。
三体のゴブリンが悲鳴を上げる暇もなく倒れる。
なぜ俺たちは罠を回避できたのか?それは――
(森羅万象)で視覚を共有していたおかげで、星野さんの視界にも微かに赤く光る罠の存在が見えていたからだ。
「よし、ここからは俺のターンだ!」
ゴブリンたちは罠に驚き一瞬ひるむが、それで済む相手ではない。
だが、後退すれば後退で新たな罠が待っているこの通路では、選択肢は前進しかない。
俺たちはもう逃げない。ここで決着をつける。
俺は魔力を集中し、魔法を発動する「素振り」をした後、直前でキャンセル。その瞬間――
「ビュンッ!」
数本の長槍が俺を狙って飛んできた。
が、俺はしゃがみ込み、全てを回避。だが、その後ろにいたゴブリンたちは――
「ギャアアッ!!」
味方の槍が彼らの盾を貫き、そのまま身体まで串刺しにされた。
「ひゃっ……今の魔法、撃ってたら私も危なかったでしょうか……」
星野さんが苦笑混じりに言う。
「だから、ちゃんと教えたろ?」
しゃがみ込んだ俺は、すぐさま前進し、目の前のゴブリンの胸に短剣を突き刺す。
「ッ……!」
一撃で心臓を貫通。敵はその場で崩れ落ちた。その瞬間、星野さんが俺の背を踏み台にして跳躍――
俺は即座に彼女の足を掴んで抱きかかえ、身体を伏せる。
天井が開き、石が大量に降ってきたのだ。
まさかの投石罠。ゴブリンたちは驚き、必死に防御姿勢を取る。死体を盾に使う者もいたが――
「カタン……!」
重さで沈んだ床が、新たなギミックを起動。
「ギィィィイイン!!」
壁から二列の丸鋸が飛び出し、ゴブリンたちを容赦なく切断。
中途半端に防御していた者も含め、複数のゴブリンが悲鳴と共に絶命した。
俺と星野さんは伏せていたため被害なし。敵の数は既に三分の一以下に減っていた。
「っはぁ……やっぱり、罠って怖いです……」
星野さんがぽつりと呟く。
通路は一本道だが、曲がり角が多く、進むごとに新たな罠がある。経験と観察がなければ、この空間はまさに地獄。
ゴブリンたちにとってはまさに「罠地獄」。最初は30体近くいた敵も、すでに10体以上がやられた。残り、17体。
罠は、もうほとんど使い切った。
ここからは――
「正面から、叩き潰すのみだな」
俺は短剣を持ち直し、再び立ち上がった。