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第11話 :「俺の大切な友達、星野美月が猫に転生した件」

 俺は《黒曜石の短剣》をしっかりと握り、疾風のごとく駆け抜ける。


 最前線のゴブリンの首筋を斬り裂いた。反応する暇も与えず、致命の一撃が喉を貫く。

 血を噴きながら倒れるゴブリンを横目に、俺は次の敵へ。

 二体目の腹部に短剣を突き刺し、体重を預けて抜き――


 そのまま側転気味に一回転して三体目へ。腰の高さから滑るように剣を走らせ、喉元を断ち切った。


「三体、撃破……!」


 包囲の中へと飛び込む俺の姿に、ついに他のゴブリンたちも気づき、そのうち一体が錆びた片手剣を振り上げて俺に襲いかかってきた。


 俺はすかさずバク転してその攻撃を回避し、背後へ回り込んで脊椎に短剣を叩き込む。

 グシャリ――骨の砕ける音を確かに感じながら、その体を足場に再び跳躍。

 ついに、星野さんの目の前へと飛び出す。


 俺は、彼女とゴブリンの間に立ちはだかり、短剣を構えた。

 彼女は警戒した様子でこちらを睨んでいた。


 まあ、無理もない。


 単なるゴブリンならともかく、俺は戦闘力もあり、しかも骸骨姿の謎の存在だ。そして、あろうことか――


 彼女は俺の呼びかけにも気づいていない様子だった。もしかすると、意識が混濁しているのかもしれない。怪我の影響か?ならば、名乗るしかない。


「星野! 俺だ、藤原瑛太だ!」


 叫ぶように声を張り上げる。


「今はこの通り骸骨だけど、お前だって猫になってんだ、な? だから、わかるだろ?事情の説明はあとだ! 今は――一緒にこのゴブリンの群れを突破しよう!!」


 その声には、焦りと決意が滲んでいた。


 だが――彼女の目はまだ、俺をまっすぐには見ていなかった。


(……間に合え、頼むから)


 俺は剣を構え直し、背後の彼女を守るように足を一歩前へ踏み出した。俺が星野さんに向かって名乗ったその瞬間。


「ギィィッ!」という濁った叫び声とともに、一本の錆びた斧が俺の背後に迫ってきた。


「ッ……!」


 反射的に振り返り、短剣を振り抜く――

 漆黒の弧を描いた刃は、ゴブリンの喉元を正確に切り裂いた。

 数秒の間、敵は何が起こったのかも分からず緑色の泡混じりの血を吐きながら崩れ落ちる。


 だが、すぐに二体のゴブリンが左右から迫ってきた。俺は腰を落とし、骨の関節を軋ませながら回転――


 匕首を投げつけると、その柄が一体のゴブリンの目に命中し、呻きながら後退。

 その隙にもう一体の腰に剣を突き立て、呻き声を残して地に伏せさせた。

 わずか数秒で三体を倒した俺は、星野さんの傍へと後退した。


 ゴブリンたちは俺の強さに警戒し、今は単独で突っ込んでこない。だが――


 倒したのはたった六体。残るはまだ二十七体。しかも、奴らは着実に包囲網を狭めてきている。


 《ゴブリン群体・戦意旺盛 数:27 包囲形成中》


 このままでは持たない……。いくら俺の骨格が軽くても、無限に耐えられるわけじゃない。


 そのとき、目の端に映ったのは、傷つきながらも立ち上がろうとする星野さんの姿。だが、腹部の傷に苦しみ、再び膝をついてしまった。


「っ……! (ヒール)!」


 俺は呪文を叫び、掌に魔法陣を展開。

(具現描写)の効果で詠唱を省略し、そのまま治癒魔法を放つ。

 魔法の光が彼女を包み、出血がゆるやかに止まっていく。


 星野さんは驚いたように目を見開き、自分の身体の痛みが和らいでいくのを感じたようだ。

 まだ完全ではない。だが――

 彼女は二秒ほど俺を見つめ、ふと何かを思い出したように耳をピクつかせた。


「……にゃっ。」


 控えめな声と共に、彼女の瞳が変わる。警戒の色が消え、そこに宿ったのは――安堵。柔らかな声が、俺の脳内へと直接響いた。


「やっと……やっと会えたね、瑛太さん!」


 その瞬間、精神のどこかが――「繋がった」感覚があった。


 ——【条件達成:皆は我のために、我は皆のために】——


 《精神リンク確立:星野 美月》

 《対象の被ダメージを50%軽減 50%は契約主へ転送:軽度の精神疲労に変換》

 《リンク安定化 心の共鳴度:A+》


 俺の足元から聖なる幾何学紋様が広がり、温かな光に包まれた。魂と魂が共鳴し合うような不思議な感覚――彼女との間に確かに繋がりが生まれたのだ。


「……よかった……」


 俺が安堵していると、星野さんも傷が癒えた身体を軽やかに動かし、俺の隣に跳び移ってきた。


(……今のヒール一発じゃ完治しなかった。あのままだったら本当に危なかったな)


「まったく瑛……藤原さん、早く言ってくれればよかったのに……。ほんとに……また会えるなんて……」


 精神の言語で届いた彼女の言葉には、少し震えが混じっていた。同時に、安心した気持ちが、俺の心に直接伝わってくる。


「いや、君が猫になってるなんて、俺には分かんなかったんだよ。鑑定がなきゃ絶対気付かなかったって。」


「藤原さんは骸骨でも、私はすぐ分かったのに……もう、ずるいよ。」


 不満げに言いながらも、星野さんの尾が俺の脚骨に絡んでくる。


「……それ、全然説得力ないよ。」


 俺が苦笑したその時――


 ゴブリンたちが再び動き出した。数、三十近く。

 目に血の色を灯し、まるで「もう逃がさない」と言わんばかりに包囲を狭めてくる。

 だが、今回は――俺たちは、二人だ。


 俺たちはこのピンチを乗り越えてみせる!

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