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第100話 :「《勇者編》安寧と栄華に背を向け、真実という名の光を目指す」

 私と真白さんたちは議論を重ねた末に、一応の結論を出しました。そのうえで、他の同級生の皆さんに「聖国へ行きませんか」と提案したのですが……ほとんどの方は拒否、もしくは強い迷いを示されたのです。


 皆さんはただ雑談していただけではなく、どうやら連邦に関する情報も集めていたようで、その中には聖国についての印象も含まれていました。けれど、その印象はほとんどが悪いものばかりでした。


「望月、今回はやめておいた方がいいだろ。聖国って、宗教の干渉がすごく強い国だって聞いたし、俺たちには絶対合わないって」


「そうそう。それに聖国ってものすごく排他的らしいじゃん。実際に連邦の人で行ったことある人もいるみたいだけど、『まるで獣扱いされた』って言ってたよ? 近づくだけで避けられるんだって」


「それに一番大事なのは……私たち、もう連邦の議員の方々と話し合ってきたんだよ。援助金は十金貨に減るけど、その負担はヒューマン族の補助金からじゃなく、政府支出に切り替えるって。だから不満はないはず」


「私のスキルで物価調査もしましたけど、十金貨って円にすると五十万円くらいですよね。でもこっちは日本の半分くらいの物価だから、実質毎月百万円分の支援を一年間受けられるのと同じなんです。……むしろ、連邦にいた方が暮らしやすいのでは?」


 皆さんは次々と不安や情報を口にされました。もし計算が正しいのなら、一金貨は五万円ということになります。……それなら、私、もしかして何千万円相当の戦利品を簡単に人に譲ってしまったのでしょうか?


 以前の私なら、そんな人を見たら「きっと大金持ちが名誉目当てでわざと気前よく振る舞っているんだ」と思ったでしょう。でも客観的に見たら……あれ、私もまったく同じことをしてしまっているのではないでしょうか!


 ……だめです、考えが脱線してしまいました。


「それで、皆さんは本当に聖国へ行くおつもりはないのですか? あの……その、連邦の(自由信仰)についてはどうお考えなのでしょうか?」


 私はそっと問いかけてみました。けれど、皆さんは特に危機感を覚えていないご様子で、こう答えられたのです。


「望月はちょっと大げさじゃないか? だって、女神様を信じない人がいても、連邦は五百年以上も存続してるんだぞ。それって女神様も黙認してるってことじゃないの?」


「そうそう。教義なんて私たちには分からないけど、だからって他人の信仰を否定するのはおかしいでしょ?」


「日本だって、キリスト教とか仏教とか神道とかいろいろ信じてる人がいるよね? 別に邪教じゃなければ問題ないんじゃないかな。私の友達だってクリスチャンだけど、普通に神社でお参りするし」


 ……皆さんの間にはまるで危機感がありませんでした。きっとあの宴会のせいなのでしょう。豪華な衣装に身を包み、偉い方々に囲まれて談笑し、格別なご馳走やお酒を振る舞われて――。それに加えて、連邦の価値観が日本に近いこともあり、皆さんはつい気を緩めてしまったのだと思います。


 私は胸の奥でひとつため息をつきました。


 ほんの数日前、皆さんは「現実を見なければならない」と学んだばかりだったのに……。けれど、実際には王国に残ったクラスの男子の皆さんと同じように、少し褒められただけで理性を手放してしまっているのです。


 これでは、とてもじゃありませんが男子のことを批判する資格なんてありません――そんなふうに、私は苦く思わずにはいられませんでした。


 ……でも、こんなことを正直に口にしてしまったら、きっとみんな――特に女の子たちから嫌われてしまうと思うのです。


 そうなったら、どんなに大事なことを伝えようとしても、嫌われた相手の言葉なんて聞き入れてはもらえませんものね。


 女の子同士の関係って、本当に繊細で丁寧に築いていかないと崩れてしまうのですから……。だから私は、重く響く言葉ではなく、みんなが一番受け入れやすいような言い方を選びました。


「……それでは、みなさんはここに留まりたいと考えていらっしゃるのですね。少なくとも、聖国を見に行くことは望まれないのですか?」


 そう問いかけた瞬間、みんなは少し複雑そうなお顔をされました。そして代表の子が、そっと私に答えてくれました。


「澪、もし本当にできるなら私たちも行ってみたいよ。でも、今の私たちには自分を守る力なんて全然ないんだ。何かあったら澪や護衛の人に頼るしかないし……数日間そんな状態で過ごすのは、すごく不安なんだよ。」


 ――あ……。そうでした。


 みんなの多くは戦闘職ではありません。だから魔法や剣術を学ぶといっても普通の人と同じで、長い時間と生まれ持った才能が必要なのです。すぐに戦えるようにはなれません。


「……でも、澪はすごく不安を感じてるんだよ。みんなのリーダーとして、安全を第一に考えてるから……。」


 真白さんが、私の落ち込んだ顔に気づいてくれて、代わりにそう伝えてくださいました。すると、思いがけない人が一歩前に出ました。


「……あの、鈴木さん。もしよければ私も一緒に行っていいですか? 戦闘ではあまり役に立てないかもしれません。でも、道具を工夫して使えばみんなの役に立てると思います。……それに、澪さんがやりたいことなら、私も応援したいんです。いいですか?」


 ――佐倉さん。胸がぎゅっと熱くなりました。女の子は普通、仲の良い子と一緒に行動するものです。私と佐倉さんは仲が悪いわけではありませんが、特別親しいというほどでもありませんでした。


 それでも、こうして私の意思を尊重して、一緒に行きたいとまで言ってくださるなんて……。

 ……やっぱり、反省してくださっている方もいらっしゃるのですね。


 その気持ちが嬉しくて、そして新しい支えが増えたことが心強くて、自然と笑みがこぼれてしまいました。


 その後、もう一度みんなで話し合い、結論が出ました。


 ――聖国に向かうのは、私と真白さん、梨花さん、エミリアさん、そして佐倉さん。


 五人で聖国を視察し、情報を持ち帰って共有し、そのうえで連邦に留まるか聖国に移るかを、みんなで改めて決めることに。


 ……こうして決まった途端、不安よりも少しだけ期待が大きくなった気がしました。


「だから、私……絶対に頑張ります」


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