過去の回想:甘さと壊れた愛
五年前、大学のキャンパス。桜の花びらが舞う春の日、詩織と美玲は並木道を歩いていた。詩織の黒髪が風に揺れ、美玲の金髪が陽光に輝く。二人は手を繋ぎ、笑い合った。
「美玲、今日の講義、寝てたでしょ? ノート貸してあげるから、キスして。」
詩織が笑うと、美玲は頬を赤らめ、詩織の唇に軽く触れた。
「詩織のバカ…愛してるよ。」
夜、二人のアパート。狭いベッドで抱き合い、肌を重ねた。詩織の指が美玲の背中を滑り、美玲の吐息が詩織の耳をくすぐる。優しい愛だった。だが、亀裂は静かに忍び寄った。
「美玲、あの女友達と何話してたの? 私の知らないこと、嫌いよ。」
詩織の声に、美玲の目が曇る。
「詩織、私だって…お前のメール、誰と送り合ってるか気になる!」
嫉妬が口論を生み、口論が傷を刻んだ。詩織は美玲を縛りつけ、美玲は詩織を疑った。愛は重すぎ、性癖は抑えきれなかった。詩織のサディズム――美玲を支配したい衝動。美玲のマゾヒズム――詩織に屈したい願望。甘いキスは、いつしか爪痕と叫びに変わった。
別れは突然だった。美玲の部屋で、詩織が冷たく告げる。
「もう、終わりよ。美玲、私たち、壊れてる。」
美玲の涙が床に落ち、詩織は背を向けた。あの夜、二人の愛は砕けた―はずだった。