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第1章:微妙な空気

東京のオフィスビル。

午後6時を過ぎ、フロアは静まり返っていた。

蛍光灯の白い光が、デスクの書類を冷たく照らす。

キーボードの軽い音と、時計の針の刻みが、静寂を埋める。

詩織は、モニターを見つめていた。

29歳、黒髪ロング、スレンダーな肢体。

白いシャツとタイトスカートの姿は、堂々とした自信を漂わせる。

だが、その瞳には、どこか冷たい影が宿っていた。


美玲の席。

28歳、金髪ロング、グラマラスな曲線を抑えたブラウスとパンツ。

彼女は、書類の山に埋もれ、疲れた顔でキーボードを叩く。

ため息が、小さく漏れる。

二人は、あの日以来、口を利いていなかった。


詩織の冷酷なレイプの果ての号泣。

あの夜が、二人の絆を切り裂いた。

詩織は、堂々と振る舞う。

同僚と笑い、クライアントと堂々交渉する。

だが、美玲の前では、憮然とした態度を崩さない。

許せない。

過去に囚われた玲奈の裏切りを。

美玲は、よそよそしい。

詩織の視線を感じるたび、目を逸らす。

「謝りたい。」

心の中で、何度も繰り返す。

だが、詩織の冷たい瞳が、言葉を封じる。

二人は、別々のクライアントを担当。

仕事上、会話の必要はない。

だが、オフィスの空気は、微妙な緊張に満ちていた。

その週、美玲がミスを犯した。

クライアント向け提案書のデータに、重大な誤記載。

上司の怒声が、会議室に響いた。

「美玲君、こんな初歩的なミスはありえない!」


連日、深夜までの修正作業。

美玲の目は、赤く腫れ、疲労で顔が青白い。

書類の山に、埋もれる。

詩織は、横目で美玲を見る。

心が、ざわつく。

胸の奥で、何かが疼く。

二人は、いつも一緒だった。

付き合っていた頃、別れた後も。キャットファイトさえ、二人で乗り越えるための戦いだった。

愛し、憎み、支え合ってきた。

詩織の我慢が、限界を超えた。

突然、立ち上がる。

美玲のデスクに近づき、書類を手に取る。

「新しい提案書、こっちに回して!」

詩織の声が、フロアに響く。

彼女は、美玲の隣の席に座る。

美玲の瞳が、驚きで揺れる。

「あ、詩織……?」

声が、震える。

あの日以来、突き放してきた詩織が、助けに来た。

「早く!」

詩織が、急かす。

その声に、美玲の目に涙が浮かぶ。

「詩織、なんで……?」

「泣いてる暇ないよ。」

詩織の声は、少し柔らかい。

「二人で、乗り越えるよ。」

彼女の瞳に、うっすら涙が光る。

「ありがとう……。」

美玲は、書類を渡す。

涙が、頬を伝う。

二人は、モニターに向かい、提案書を修正し始める。

キーボードの音が、

響き合う。蛍光灯の下、二人の影が、重なる。

あの夜の傷は、まだ癒えない。

だが、この瞬間、絆が再び芽生える。


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