プロローグ
東京の夜、ネオンの光がビルのガラスに映る。広告代理店のオフィス、午後11時。フロアは静まり返り、蛍光灯の薄い光が書類の山を照らす。詩織はデスクに座り、黒いロングヘアを指でかき上げる。タイトなスーツが汗で肌に張り付き、鋭い瞳がモニターのデザイン案を睨む。彼女の息は、苛立ちと別の何か――抑えきれない熱で震えていた。
「詩織、まだ残ってるの? クライアント、明日のプレゼンでうるさいよ。」
背後から声。美玲だ。金髪のロングヘアを揺らし、赤いシースルートップスとミニスカートで挑発的な笑みを浮かべる。香水の甘い匂いが詩織の鼻を掠め、彼女の心臓が一瞬跳ねる。美玲の視線は、詩織の首筋を這うように滑る。
「美玲、あなたの案が遅れたから私がカバーしてるの。感謝してよね。」
詩織の声は冷ややかだ。だが、指先がキーボードで震える。美玲はデスクに肘をつき、詩織の肩に指を滑らせる。わざとだ。
「ふーん? 私の案、クライアントの女と話してたみたいじゃん。詩織、また寝取る気?」
美玲の言葉に、詩織の目が鋭くなる。かつての恋人。大学時代、二人は誰もが羨むカップルだった。手を繋ぎ、夜の公園でキスを交わし、互いの部屋で甘い愛を囁いた。だが、詩織の独占欲――美玲の友人との交流を制限し、彼女のSNSを監視した――と、美玲の執着――詩織のメールを盗み見、嫉妬で喧嘩を仕掛けた――が愛を壊した。あの頃の優しい愛は、憎しみと欲望の炎に焼かれた。
「寝取る? あなたみたいな安っぽい女、誰も欲しがらないわ。」
詩織が立ち上がり、美玲の顎を指で持ち上げる。美玲は目を細め、詩織の手を払う。
「安っぽい? じゃあ、証明してよ。詩織、私を…潰してみなよ。」
美玲の笑みは挑戦的だ。詩織の胸に、嫉妬と執着の炎が灯る。二人の視線が絡み合い、会議室のドアが静かに閉まる。キャットファイトのリングが、今、幕を開ける。