06 奇妙な建造物
それからも、ヘビに注意しながら探索を続け、やっとのことで、木が生えていない、小さな広場のように開けた場に出た。
類照は、唖然として立ち尽くした。
しっかりと埋め直したはずの、長方形の木箱が、地面に出ており、縦置きされていた。また、その木箱を台座にするような格好で、土偶が、そこに立っていたのである。
いったい、どんな力が働いて、土偶と木箱は、穴から、地面の上に戻されたのか――。
が、そのことついて、いくら考えても、答えは出そうになかった。
わかるのは、なんにせよ、このような形で、ふたたび出現したのだから、絶対に、なんらかの意味がある、ということだった。
類照は、土偶のその、宇宙人じみた顔に目を落とす。
見ていれば見ているほど、なんとなく、土偶は、ただの物体というより、人間と同様、意思を持った存在であるかのような印象を抱かされる。
とすると、土偶の顔の向き、つまり、その視線の先には、ひょっとしたら、何かがあるのではないだろうか――?
類照は、その直感に従い、自分にかかる重力を制御し、勢いよく上空にジャンプした。木々の樹冠の高さで、ぴたっと静止する。そうして、土偶が、見つめていた方向に、目を向けた。
すると、どうだろう。
霧が立ち込めているところが確認できる。
あれは――。
そう。
深田の内面世界、『幻惑の森』において、依織の霊体が幽閉されている、いばらの檻の一帯と、よく似た光景だ。
そのことを考えると、あの霧の中に、きっと、この内面世界の謎を解く手がかりが隠されているはずだと、確信めいたものが芽生える。
類照は、自分の両腕、両脚に、翼のイメージを重ねると、そこに向かって、水平移動を始めた。
まもなく、その霧の中に突っ込み、速度を落として着地する。
濃霧を透かして、目の前に、奇妙なものが見える。
何かの建造物だ。
木造のバラック小屋みたいな、これまた、一見して、人為的な創造物とわかるものだ。その上、観音開きの扉の部分も見受けられる。
中に入れるのだろうか――?
類照は、深く考えず、扉へと右手を伸ばしたが、しかし、すぐさま、その手を引っ込めた。
危険だ――!
この先は、まさに、未知の『領域』だ――!
本能からの警告の声が、頭骨の内側全体に、反響しているような境地だった。
と、その時、右方向から、足音が聞こえてきて、びくりとする。規則正しい足音だ。なんとなく、人間のそれを感じさせられる。
数秒後、濃霧の向こうに、うっすらと姿を現したのは、二足歩行の生き物――、というより、予想通り、人間のようだった。体格からすると、明らかに子供だと判断できる。
暗い色のロングコートみたいな衣類を羽織り、フードを目深にかぶっているような出で立ちだ。
これは、今日に至るまでの、霊体外科医としてのキャリアで、積み重ねてきた知識や経験では、到底、対処不能な状況である。
そのせいか、類照は、もはや、自分自身の今の心理状態すらわからない気分だった。
頭の中で、幾つもの疑問が、ぐるぐると渦巻いている。
どういう事情で、こんな場所に、人間が現れるのだろうか――?
ひょっとして、近づいてくる者は、どこかの霊体外科医の霊体なのか――?
そうだとしても、子供の霊体外科医というのは、どう考えても奇っ怪な話では――?
次の刹那、類照は、金縛りから解かれたように、勢いよく飛びすさった。
ここにいては、いけない。
その当たり前のことを、遅まきながら悟ったのである。
相手に背を向けるのは、怖い気がしたが、全速力で逃げ出した。
霧の中を抜けたところで、一度、振り返り、相手が追ってきていないことを確認する。
それから、類照は、自分の身にかかる重力を制御し、勢いよくジャンプした。どこまでも高く舞い上がる。