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02 新緑の森

 

 類照(るいてる)は、机に載っている、一枚のディスクケースを手に取った。そのジャケットに印刷されているのは、『新緑の森』の風景だ。中から、ディスクを取り出す。机の上の装置に、それをセットした。

 

 麻酔科医の白井(しらい)縁斗(えんと)と、看護師の坂上(さかがみ)蘭音(らんね)の二人が、全身麻酔の準備に取りかかる。

 まず、患者側の椅子の背もたれを、ゆっくりと倒した。

 その後、脈拍や血圧、呼吸などの状態をモニタリングするための機器を、患者の体に取り付けていく。

 続いて、患者の左腕に、点滴の針を刺した。その点滴から、鎮静作用を持つ麻酔薬を注入するのである。

 

 そして、霊体医療の現場では、なんといっても必要不可欠な機器があった。ステンレスの台には、ヘルメット型をした銀色の機器が、二つ載っている。

 その二つは、やや造りが違った。

 一方は、患者用で、映像視聴用のゴーグルと一体となったものだ。

 もう一方の、右側頭部の部分に、ボタンのある造りのほうが、施術の担当医用だった。

 類照は、そちらを手にし、黒い革張りの肘掛(ひじか)け椅子に戻った。

 

 現代の魔術社会において、体外離脱は、極めて特異な魔術という位置づけだ。

 第一に、自力では、ほぼ不可能という点がある。

 だが、昔から、研究者たちの間では、大脳の右半球の『角回(かくかい)』という部分に、電気刺激を与えると、体外離脱が起きやすいことが判明していた。その誘導の役割を担うのが、施術の担当医用の、このヘルメット型の機器だった。

 霊体外科医は、その電気刺激を受けている間に、自分の意識状態を意図的に変容し、肉体と霊体の分離を生じさせるのだ。

 

 麻酔科医の白井縁斗が、酸素マスクを、患者の鼻と口を覆うように当てる。

 

 看護師の坂上蘭音が、ステンレスの台から、もう一方の、ヘルメット型をした銀色の機器を手に取った。患者の頭に、その機器を装着させ、映像視聴用のゴーグルをかけさせる。それから、白井縁斗に向かって、目でうなずく。

 

「では、麻酔のお薬を入れていきますね。だんだんと、眠くなっていきますので」

 

 白井縁斗は、患者に、そのことを伝え、自身の前にある、装置のつまみを回し始める。

 

 ここ東部医療センターの霊体医療において、チームのメンバーは、基本的に固定されていた。つまり、患者への施術には、毎回、同じメンバーで臨むのである。

 そして、類照たちのチームは、センター内で、一番、平均年齢が若かった。

 麻酔科医の白井縁斗が、三十六歳。チームリーダーであり、霊体外科医の類照が、二十九歳。看護師の坂上蘭音が、二十七歳だ。

 若さゆえに、経験という点で、不足している部分があるのは、(いな)めない事実だが、それでも、その弱点を補って余りある、優秀なチームだと、類照は自負していた。

 

 坂上蘭音は、赤い蛍光塗料の塗られたテープを持って、片側の端を、患者の左手首に巻き、マジックテープで留めた。また、もう片側の端を、類照の右手首に同様にする。

 この赤いテープは、施術の担当医が、霊体として、自分と患者の肉体を行き来する際の、ちょっとした目印みたいなものだった。


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