06 人生は上り坂
勉学は、順調だった。やっていて面白いという感覚。それが何より大事だった。
一週間ほど前までは、意味不明な呪文のようにしか見えなかった数式を、今では、事もなく解き明かしていく自分がいる。
人生は上り坂であり、そこを順調に上っているという実感が湧き上がってくる。
すると、脳内で快楽物質が放出され、集中力も思考力も、ますます研ぎ澄まされる。まるで、手段を選ばないボディビルダーが、薬物を利用して、めきめきと筋肉を肥大化させていくように、類照の学力は、うなぎ登りに伸びていった。
その結果、類照は、霊体外科医を目指せる学科では、私立で最難関といわれる、枢聖院大学の霊体学部霊体医療学科に合格、入学したのだった――。
そして、同じ霊体医療学科の室野依織との、運命的な出会いが訪れた。
依織のことを想い続けた日々。
それに何より、依織を自分のものにした、あの忘れられない夜。
だが、未だに、わだかまっている疑念がある。
今日も、霊体医療研究センターの地下の小部屋で、あの深田泰亜が言っていた。
『依織ちゃんが、本当に好きなのは、おれであって、おまえじゃない――』
これまでに、深田から、何度も聞かされた言葉だ。
悔しいが、笑い飛ばしたくても、あながち、狂人のたわごととして、無視することもできなかった。
なにしろ、依織は、比留間院長の許可を得ることもせず、深田の内面世界に飛び込み、危険を承知の上で、自ら施術を決行したのだ。
単純な善意による行動ではあるまい。
では――、その動機は、なんだったというのか――?
正直、今は、それ以上のことを考えるのが、怖い思いだった。
と、そこで、あの深田が、もう一点、妙なことを口にしたのを思い出す。
『東部センターに、胡散臭い霊体外科医は、いないか?』
その言葉を反芻しているうちに、ある想念が鎌首をもたげてきた。
そう――。
皆川理瀬那が、再三、類照に訴えていた内容のことである。
ひょっとしたら、深田は、何かを知っているのではないだろうか――?
この日、類照は、就寝前のウイスキーを呷ることなく、ベッドに潜り込んだ。
なぜか、その頃になると、思い当たったことについて、明日は、絶対に調べてみようという決意を抱いていた。
アルコールが体から抜け、その上、不思議な焦燥感が、胸の内に渦巻いていたせいもあり、なかなか寝付けなかった。