01 高み
自宅マンションに帰宅してシャワーを浴びた後、類照は、ワインをグラスになみなみと注いだ。以前は、休みの前の日にしか酒を飲まなかった。霊体としての活動に、影響が出る感じがしたからだ。
しかし、この部屋に、依織が帰ってこなくなってから、毎日、食事をする時は、もちろん、就寝前にも飲酒をする習慣が付いた。
リビングダイニングは、小ざっぱりとしていたが、使うものには金をかけていた。
シアター気分を味わえるような、大型のテレビに、高音質のオーディオコンポ、レザーのソファーなど。
類照は、ワイングラスを片手に、床から天井までのガラス窓の前に立った。
高層マンションの十七階から見下ろす夜景は、いつ見ても飽きないくらい美しい。
だが、今や、この都心においても、虫食いのように、スラム街が増え続けているらしい。もしかすると、あと数年もしたら、ここからの眺めも、幾分、殺伐としたものに変わり始めるのかもしれない。
そういえば、と思い出す。
先ほど、深田の内面世界で、依織の口走った言葉が、耳の奥底に蘇る。
『もしも、外の世界で、今の生活から滑り落ちたら、あたし、どうなっちゃうんだろう――』
滑り落ちたら、という表現からして、たぶん、この自宅マンションの高度を、強く意識した発言だと受け取れた。
依織の発言としては、少々、違和感を覚えたし、それに、結婚を約束したカップルの二人が、両方とも霊体外科医だというのに、いったい、どんなヘマをやらかせば、転落という憂き目に遭うのかと言ってやりたい思いだ。
自分は、この高みに、どっしりと足を付けて立っている。
あとは、依織が、この隣に戻ってきてくれさえすれば、二人は、いつまでだって、貧困や凶悪犯罪などとは無縁の、この場所から、宝石をちりばめたような夜景を眺めていられる。
そうして、どちらが、より、馬鹿げた夢を抱いているか、競い合うように、将来について語り合うのだ。




