第3話 戦闘、そして逃亡
快晴の空の下、その爽やかさとは対照的にハヤトは深く考えていた。
一歩踏み出したものの、その勇気が無駄になるのは避けたい。
故に、必死に頭を働かせる。
見たところ敵は4人。
手前にいるのは両手剣の男と槍を持った男。そして、奥には短剣を持った男とローブを羽織って杖を持った男。おそらく魔法使いだろう。
ジョブシステムはないといえども、スキルの振り方でその能力は大きく左右する。
まずは、この魔法使いを倒すべきだろう。回復魔法はさすがに厄介だ。
と、そこまで考えると、男のうちの一人がハヤトの存在に気づいたようで、訝しげに眺めてくる。
「おい、お前は誰だ? 今俺たちは忙しいんだ。邪魔するのはおすすめしないぜ」
「PKですか? 本当なら俺が邪魔するのもおかしな話だとは思いますが、今回はこの少女を見逃してあげてくれませんか?」
すると、男たちの表情に現れたのは、自分たちがこの場を支配しているという優越感。
「はぁ? 見逃す? 先に俺たちにぶつかってきたのはこいつなんだぜ」
「‥‥‥でもっ、確かに先にぶつかってしまったのは私ですが、その‥‥‥許してくれませんか?」
少女は少し声を震わせてそう言った。
とはいえ、ハヤトにとってはこうなったきっかけなど、些事なことだった。
「なんか、雰囲気的に男たちのほうが悪そうだし」と心の中で思いつつ、この会話の最中も敵への勝ち筋をひたすらに組み立てていく。
「で、さっきからボーっと突っ立てるそこのお前はどうすんだよ? 今逃げるなら見逃してやってもいいぜ」
相手の嘲笑に向けて頭を横に小さく振って、
「いや、勝手だがその少女を助けると決めたんだ。だからここを離れることはできない」
これを宣戦布告と捉えた男たちがノロノロと臨戦態勢に入る。
――否、入る前に、
ドンッ。
後ろにいた魔法使い風の男が大きく音を立てて、後ろへ倒れる。
その眉間には小型ナイフ。瞬く間に男はゲームオーバーとなり、ガラス片のように散っていく。これでこのゲームから退場となる。
ハヤトが打った速すぎる先手に残された男3人は狼狽気味に、一歩後退する。
しかし、そこでハヤトは止まらない。
先ほどのナイフの投擲と同時に距離を詰め、疾風の勢いで手前の両手剣の男の目前に迫る。
やや遅れて反応した男が正面に構えた武器がはじかれる。
武器は2メートルほど離れた岩に突き刺さった。
そのままその男に平手打ちを喰らわせると、次は焦って近づいてきていた槍使いの男に回し蹴りを一発。
これで1人を撃破。もう2人は立て直すまでにもう少し時間がかかる。
その隙に、残りの短剣使いを撃破して少女を連れて逃げる、というのがハヤトのプランだ。
しかし、このタイミングで異変を察知する。
(‥‥‥足音? 敵の増援か? 敵は4人だけではなかったのか)
内心悪態をつきつつ、ハヤトはプランを修正。
まだ腰の小型ナイフは残っている。
それを、短剣使いへ投擲。
そのナイフを弾き、攻撃に備える短剣使い。
だが、狙いはまさにその時間を作ることだ。
ハヤトはその隙に全速力で少女の手を取って、森の奥へ走っていく。
少女の顔は少し微笑んでいるようにも見えた。