プロローグ サービス開始前日
時は2050年。
ただVRMMOをプレイし続けるだけの日々。
高校生であり、プロゲーマーでもある益田隼人は、今日も自室からゲームにログインし、金を稼ぐ。
最初は、妹の入院費を稼ぐためにダメもとで始めたゲームだったが、隼人とVRMMOの相性は驚くほどよく、今では普通の高校生がアルバイトで得るよりも高い収入を得ていると自覚している。
視界に映るのは、4体のゴブリン。隼人は使い慣れた片手剣で目の前のゴブリンを斬っていく。
そして、残るは1体。
斬りかかろうというタイミングで、攻撃をはずしてしまう。
普段なら苦戦するなどありえない相手だが、今日はどうも攻撃がおぼつかない。
内心ため息をつきつつも、今日はしょうがないと思ってしまう。
というのも、明日は新作VRMMORPGのサービス開始日だからだ。
これまで、数多くの作品をプレイしてきた隼人をしても、一人のゲーマーとしてこの胸の高鳴りは抑えようがない。
何しろ、『Dawn』というこの新作ゲームはいろいろと新しすぎるのだ。
いや、異常と言ってもいいかもしれない。
このゲームに関して、現在明かされている情報は主に4つ。
1.ログインできる時間が決まっていて、一日3時間しかプレイできない。
2.特殊なAIシステムによって、NPCがほぼプレイヤーと同じように話したり、動いたりする。
3.一度ゲームオーバーになれば、もう一度ログインすることはできない。
そして、
4.最初にゲームクリアしたプレイヤーには賞金10億円が支給される。
この新しすぎるゲームだが、事前予約では過去最大の売り上げだったそうだ。
それは単に賞金10億円に魅入られたからか。あるいは、この競争そのものにゲーマーの血を騒がす何かがあったからか。
結局、この日は何にも集中できず、早々にログアウトして風呂に入って寝ることにした。
そして、翌日。
隼人は専用の機械を身に着け、いよいよ仮想世界へとダイブする。
現実世界の空は、昨日から相変わらずの曇天。ただ一筋の光が、まるで大量の雲に挑むかのように、部屋を力強く照らしていた。