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6 運命の人

「いやー、よくやった!」

「……ありがとうございます」

  

 通常任務に戻ったロドリゴは、詐欺師を捕まえたことを騎士団長に誉められていた。


「約束通り階級を上げてやるからな!」

「……はい」

「はは、そんな目で見るなよ。男には色々あるものだ」


 ロドリゴは軽蔑した目で騎士団長を見ていた。なぜなら……あの詐欺師に騙された騎士というのはまさかの騎士団長だったからだ。


「あんた、騎士だったの? ただの貴族だと言っていたじゃない。くそ、騙しやがって」

「……君には言われたくないな」

「この嘘つき野郎。騎士だとわかっていたら、カモにしなかった」


 女は悔しそうに騎士団長を睨みつけていた。


「はは、あまり男を舐めない方がいい」

「騙される方が悪いんだよ!」

「さっさと牢屋に連れて行け」


 その会話を聞いて目を丸くしたのはロドリゴだ。まさか……騎士団長がこの女に?


「上司の秘密は墓場まで持っていくものだ。それが出世できる秘訣だよ」

「……はぁ」


 ハッハッハと笑っている騎士団長に、ロドリゴははぁとため息をついた。どうやらこの任務は、団長の『私怨』によるものが大きかったらしい。


 騎士団長は現在は独身だ。団長は剣の腕はピカイチだし、おおらかないい人だが……大の女好きだった。


 確か、数年前に離縁していたはずだ。今回の件で離縁の理由を垣間見た気もするが……今は独身なので女に手を出そうとしたのはギリギリセーフだと、ロドリゴは無理矢理納得することにした。


「で、君は誰に十万ゴールドを支払ったんだ?」

「え?」

「詐欺師とはたまたま遭遇したのだろう? 最初に怪しいと思っていた人物は、別人だったと言っていたではないか」

「……」


 百万ゴールドは自分で補填したのでバレていないが、十万ゴールドは使った時点で経費として申請してしまった。


「男には色々あるんです」


 あえて騎士団長と同じ言葉を使うと、くくくと笑い出した。


「いいだろう。これは経費として落としておく」

「……ありがとうございます」

「では、普段の任務に戻ってくれ」

「はっ」


 ロドリゴはそれからも、以前と同じような生活を続けた。


 唯一変わったことと言えば、街中で暗いブラウンの髪の女性を見ると目で追ってしまうことくらいだ。


 あの件で女嫌いが直るかと思ったが、ロドリゴはやはり女性が苦手なままだった。


 結局、ロドリゴの運命の人はマリナだけだったようだ。もう二度と逢えないけれど。


 もし逢えたら、勝手に誤解して酷いことを言ったことを謝りたかったが……それも叶わないだろう。


♢♢♢


「……ロロ様」


 あの詐欺師の事件から、一年経過した頃……懐かしい呼び方をされてロドリゴは驚いた。


「マリナ……っ!」


 ずっと逢いたくて、逢えなかったマリナがロドリゴの前に立っていた。


「大変遅くなりました」

「え?」

「毎日頑張ったのですけれど、一年かかってしまって。これ、お返しします」


 マリナはロドリゴの手の上に封筒をのせた。


「これは……?」

「お借りしていたお金です」


 ロドリゴが封筒を開けると、そこには札束が入っていた。綺麗に封されたお金ではなく、折り目があったり少し汚れた札ばかりだ。


 きっと働いて毎日少しずつ貯めたのだろう。それを思うと、ロドリゴの胸がきゅっと締め付けられた。


「百万ゴールド貯められたら、逢いに行こうと決めていました」

「どうして……俺が騎士だとわかったんだ?」

「お身体が逞しいですから、きっと騎士なのだと思っていました。それに……ロロ様の美しいお顔は目立つので調べたらすぐにわかりました」


 ロドリゴは、自分の整った顔に初めて感謝した。


「ロロ様のおかげで、父は元気になりました」

「そう……か」

「ありがとうございました」


 ふわりと笑ったマリナを、ロドリゴは抱き締めた。


「君のことを誤解してたんだ。すまない……酷いことを言った。許せないと思うが……謝らせてくれ。本当に申し訳なかった」


 ロドリゴは声を詰まらせながら、必死に謝った。


「いいえ。ロロ様はお優しいです。私を救ってくださいました」

「何もしていない」

「あの時、絶望していたんです。でも身体も売らずに……父親を救えました。あなたのおかげです」


 ロドリゴは、マリナに全てを打ち明けることにした。もう嘘をつきたくなかったからだ。


「ロマンス詐欺っ!? わ、私がですか!」

「……ああ。マリナがその詐欺師だと思っていた」


 マリナは驚いて、大きな声を出した。


「本当にすまない」

「私……ロロ様がファーストキスだったんですよ。それがロマンス詐欺師だなんてあんまりです」

「そ、そうか。その……いや、すまない」


 ロドリゴは、マリナのファーストキスが自分だったという事実を知って嬉しさが込み上げてきた。ついニヤけてしまいそうになるので、慌てて顔を引き締める。


「お、俺もだ」

「え?」

「俺も君がファーストキスだった」

「本当ですか?」


 マリナは信じられないような顔をしているため、ロドリゴは自分が過去に色々あって女嫌いだったことを話した。


「でもマリナと過ごす時間は、すごく穏やかで温かくて……幸せだったんだ」

「私もあなたと過ごした時間は幸せでした。でも、あんな……お金のことばかり言ったから……嫌われたんだと思っていました。貧しい自分が嫌で仕方なかった。あんなこと言わなければ良かったって……ずっと後悔してました」


 マリナはポロポロと涙をこぼした。ロドリゴはその涙を指でそっと拭い、優しく抱き締めた。


「マリナ、もう二度と離れたくない」

「私もです」

「結婚しよう」

「はい」


 二人はそのままゆっくりと口付けを交わした。






「女嫌いで有名なロドリゴが結婚するらしいぞ」

「美形なのに、女っ気がなかったあいつが?」

「ああ、どんな美人が迫っても無視だったのにな。ロドリゴは生涯独身だと思ってたぜ」


 騎士団の中では、ロドリゴの結婚話でもちきりだった。


「なんでも、あいつが目がぱっちりした清楚で可愛い系の女性に惚れたらしい」

「それって、だいぶ前に捕まったロマンス詐欺師の女と特徴が似てないか?」

「まさか……その相手って!」

「いやーまさかな。一生牢から出られないはずだぞ」

「わからないぞ。あの女嫌いを恋に落とすなんて、百戦錬磨のロマンス詐欺師レベルでないと無理かもよ」


 あははははは……なんてある事ない事を噂されていたが、本当はお互い恋愛初心者の初々しいカップルだった。





「ロロ様、お話ししたいことがあります」

「なんだ?」

「私、マリナじゃないんです」

「……は?」


 突然の告白に、ロドリゴは開いた口が塞がらなかった。


「本名はエステル•マシアスです。一応男爵家の娘です」

「全然……名前が違うじゃないか。しかも……貴族だったのか」

「はい、すみません。お父様の病気が治ったおかげで、我が家も徐々に持ち直してきています。もう普通の生活には困っていません」


 へへへと笑いながら謝るマリナ、いや……エステルを見てロドリゴは『女ってやっぱり恐ろしい』と驚愕するのだった。


「あの時、本名を名乗る勇気はなくて」

「それもそう……だよな。ちなみに隠していることはそれだけか?」

「嘘ではないですけど……言っていないことはあります」

「な、なんだ」


 名前が違う以上に驚くことなどもうないと思うのだが……聞くのが少し怖い。


「私、今年十八歳になりました」

「じゅう……はち……」

「はい」


 グロース帝国の成人年齢は男女ともに十八歳だ。ロドリゴがエステルと出逢ったのは、去年。つまりは十七歳……未成年だ。


「危ない……出逢った時は、未成年だったのか!」


 ロドリゴは心臓がバクバクと早くなった。大人が未成年に手を出すのは犯罪だ。特例として認められているのは、両親が了承して正式な婚約をしている場合のみである。


「すみません」

「ほ、他に黙っていることは?」

「ありません」

「……なら、いい」


 名前が違おうが、年齢が若かろうが、ロドリゴは驚きはすれど、別れる理由にはならなかった。


「エステル、愛してる」

「本当の名前を呼んでもらえるの嬉しいです。ずっと……呼んでもらいたかったから」


 エステルは、ぐすぐすと泣き出した。ロドリゴは目を細めて微笑み、何度も何度も名前を呼んだ。


「じゃあたくさん呼ぼう。エステル、好きだ」

「はい、私もロロ様が好きです」

「エステル、俺のことは敬称はなしで呼んでくれないか?」

「ロロ……好きです」


 そのままお互い見つめ合い、照れくさそうに笑い合った。


「エステル、愛してるよ」

「私もロロを愛しています」


 それから二人は数えきれないほど、甘い口付けを繰り返した。



 どうやら女嫌いの騎士が惚れたのは、ロマンス詐欺師を捕まえるための任務で出逢った一人の少女だったようです。





END




最後までお読みいただきありがとうございました。

少しでも面白いと思っていただければ、ブックマークや評価していただけると嬉しいです。


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