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2 詐欺師の手口

「ち、父親が重たい病気なのですが、薬が買えなくて。お恥ずかしながら我が家は貧乏なのです」


 涙を浮かべながらそう訴える少女を見て、ロドリゴは『こいつが詐欺師ではないか』とピンときた。ローブと暗さでよく見えないが、顔を確認したい。


「……顔を見せなさい」

「は、はい」


 その少女が震えながらローブを取ると、女嫌いのロドリゴでも儚げで清楚な少女だと判断できた。


 二十代とは思えないが、資料には化粧が上手くまるで少女のような見た目だと書いてあった。


『この女が詐欺師に違いない』


 そう確信したロドリゴは、ニヤリと口角を上げた。すぐに捕まえようと思ったが……まだ証拠がない。


 騎士団長からは証拠を見つけ、詐欺師を捕まえて連れて来いと言われていた。


 そして『女に惚れた振りをしろ』とも釘を刺された。詐欺師は男を騙して金を取るので、最初から冷たく酷い態度をとってしまうと逃げられてしまう。


 女嫌いのロドリゴとしては、その芝居が一番辛いが……これも出世のためだ。


「お、お、お好みではないですか。だめ……ですか?」

「いや、いくらだ」

「えっ! 買ってくださるのですか」

「……ああ」


 少女はほっとしたように、ふわりと微笑んだ。ロドリゴは『なかなかの名演技ではないか』と感心していた。


「じゅ……十万ゴールドで」

「十万?」


 意外に大した額でないので、拍子抜けした。決して安くはないが、少女が一晩と引き換えにするには安いだろう。


 数億ゴールドの被害だと聞いていたが……どういうことなのだろうか。


「だ、だめでしょうか? それで父の薬が買えるので」


 そういえば、弟が病気設定だったなとロドリゴは思い出した。なるほど……さすがにやり手のロマンス詐欺師だ。最初は少額で、だんだんと金額を釣り上げていくのだろう。きっと、こいつはそういう作戦なのだ。


 それならばわざと引っかかってやろうではないか。


「わかった。支払おう」

「ありがとうございます」


 そのままロドリゴは、少女と共に近くのホテルに向かった。一晩買うと言った以上、行かないのもおかしいと思ったからだ。


 ロドリゴは大の女嫌いなので、そういう経験が全くない。知識としては知っているが、今まで女に触れたいとも触れられたいとも思えなかった。


 詐欺師は決して身体を許さないと資料に書いてあった。それを知っているからこそ、ロドリゴは何も考えずにホテルに来たのだ。


 しかし……ここからどうやって切り抜けるのかと、ロドリゴは首を捻った。


 ホテルの部屋に入ると、少女は所在なさげにしていた。


「いつもこんなことをしているのか?」

「は……初めてです」

「そうなのか」


 騎士たちが、男はみんな初めての女が好きだと話しているのを聞いたことがある。やはり、この女は嘘が上手い。


「名前はなんだ」

「私はマリナと申します。あの、あなた様はなんとお呼びすればよろしいですか」


 どうせ偽名だろうと思いながらも、一応頭にインプットした。流石に自分も本名を晒すわけにはいかない。咄嗟に、幼い頃母親から呼ばれていた愛称を伝えてしまった。


「……俺はロロだ」

「ロロ様」


 久しぶりに呼ばれる愛称は、なんだかくすぐったいような気がして落ち着かない。


「その……私なんかでは満足していただけないかもしれませんが、一生懸命頑張りますので」


 マリナと名乗った女は、真っ赤に頬を染めながら服を脱ぎ始めた。


「ちょっと待て」

「あの、恥ずかしいので電気を消していただけると嬉しいです」


 下着姿になったマリナがぎゅっと抱きついてきた。ふにっとした胸の感触が不愉快で、ロドリゴは眉を顰めた。


 ロドリゴは身体を離すためにマリナの肩に触れると、カタカタと震えていることがわかった。


 演技だとわかっていても、自分が脅しているようでいい気分ではない。


「……もういい」

「え?」


 マリナの肩に毛布をかけ、ロドリゴは財布から十万ゴールドを取ってマリナの手に握らせた。


「あの……」

「金がいるんだろう? これで薬を買え」

「でも私、まだ何もしておりません」

「……しなくていい。金はやるから、自分を安く売るようなこと二度とするんじゃない」


 ロドリゴがそう言うと、マリナはポロポロと泣き出して深く頭を下げた。


「ありがとうございます。本当は怖くて……怖くて仕方なかったんです」

「……」

「このご恩は決して忘れません」

「大袈裟だな」

「あの、何かさせていただけませんか。ただで恵んでいただくのは申し訳ないので、なにかあなた様の役に立てることはありませんか?」


 ほら、罠にかかった。ロドリゴが騙しやすい男だと判断すれば、また会うために約束を取り付ける。これはまさしく詐欺師の手口だ。


 ロドリゴは潜入捜査をするために、偽の住居を用意してもらっていた。


「じゃあ、部屋の掃除をしてくれないか?」

「そんなことでよろしいのですか?」

「ああ、頼む。男の一人暮らしだから汚れてるんだ」

「はい!」


 マリナがとびきりの笑顔を見せたので、ロドリゴはグッと唇を噛んだ。女が苦手なロドリゴでさえ、この笑顔には騙されそうになる。女好きなら、イチコロだろう。


 ロマンス詐欺とは恐ろしいものだ、とロドリゴは思っていた。


 マリナに偽の住所を教えて、明日来るように伝え、そのまますぐにホテルを出た。


「初日に見つけられたのは、幸運だったな」


 あとはあの女の正体を探り、捕まえて騎士団長に突き出せばいいだけだ。


 しかし、ロドリゴはマリナが自分の知っている女とは全く違うなと思っていた。マリナは媚びるように自分を見てこない。それは珍しい体験だった。


「……女と普通に話せたのは初めてだ」


 きっと女と話せたのは、これが任務だからなのだろう。


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