第33章:カラスとの攻防(2)
・・・皆さんもそうだとは思うのだが、
ぼくは、この『カラス』という生き物が大嫌いだ。
鳴き声も不気味だし、
まっ黒な体色、しぐさ、性質や習性にいたるまで、
どれひとつ取ってみても、カラスには悪いが、人間に好かれる要素など、まったく見当たらない。
家にある、歴史の図鑑には、
室町時代の「応仁の乱」の項で、戦乱で荒れ果てた寺社の屋根にカラスが群がる様子が描かれており・・・
それを、すげがさをかぶった旅の僧が、杖をつきながら見上げている、という構図がある。
こんな古い時代より、まるで「死の使い」のようにカラスは、わが国に広くはびこり、存在していた。
よく、TVやYouTubeなどでは、
公園の水道の蛇口をくちばしでひねって水を飲んだり、羽を洗って水浴びに興じる、頭のいいカラスの、
なんともほほえましい映像を観る機会も多いが・・・
そんなものは、全体のうちの、ごくごく一部。
カラスの凶暴性・残虐さ・エゲつなさという、実に野蛮で凶悪な側面を忘れてはいけない。
車を運転される方は、
とくに田舎道をゆく場合、道路で轢かれたタヌキや野犬などのあわれな死骸に、
カラスの群れが、寄ってたかって肉をついばむ光景を目にされたことがおありだろう。
雑食が基本のカラスは、当然、動物の肉も好んで食べる。
小動物が生きて動いている状態のまま、くちばしでつついて、そのまま食するといった、おぞましいケースすらある。
そして、
車が接近しても、ギリギリのタイミングまでよけない。
ハトやスズメとは、ここが違う。
彼らは、車の挙動や走行ライン、自分と車との距離感、運転者の心理状態などを、あらかじめ熟知しており、
憎たらしいほどの「余裕」を見せてくる。
名作アニメ、『あしたのジョー』で、世界チャンピオン、ホセ・メンドーサが、挑戦者に見せた、
あの「見切り」ってヤツだ。
つまり、敵のパンチを、ギリギリの間合いで外し、すぐに反撃に出られるように、必要最小限の距離でよける高等テクニックのことだ。
・・・カラスも、この防御技術を会得している。
それも、もれなく、ひとつの例外もなく「全員が」、だ。
ぼく個人としては、
運悪く車に轢かれた、あわれな運命の動物に、まるで追いうちでもかけるかのように、ハイエナやハゲタカのごとく、遠慮なく死肉に群がるカラスどもを、
残らず車で跳ね飛ばし、蹴散らしてやりたい衝動に、毎回、駆られてしまう。
・・・もちろん、連中も、そんなドライバーの心理など、とっくに先刻承知である。
エサをついばむ自分らに向けて、殺意をいだいてハンドルさばきを変えて突っこむ車体の、わずかな挙動の変化も見逃すことはない。
非常に目もいいので、
「はん!」といった調子で、眉ひとつ動かさず、
余裕の笑みすら浮かべて、
あわてて飛び去ることもなく、
トットットって感じで、軽くスキップしながら、いともたやすく、ギリギリのタイミングで、襲いかかる車をかわしてゆく。
人間の「力量」を見極める才能も、カラスはすごい。
弱い妊婦さんや、かよわい子供さんなんかには、情け容赦なく牙をむく。
お年寄りや、身障者の方なんか、イッパツである。
そのくせ、
ぼくみたいな、ガッシリしたビルダー体型の、
いかにも強そうな人間には、まったく手を出してこない。
襲うのは、前述の弱者の皆さんや、おとなしそうなサラリーマンである。
ましてや、
戦う武器のない、茶太郎ちゃんたち、うさぎ族にとって、カラスどもは・・・。




