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第1章

 ・・・2010年10月。


 秋が日ごとに深まってゆき・・・しだいに山の紅葉も見ごろになってきた頃。


 ぼくは、栃木県真岡市とちぎけんもおかしの、『井頭いがしら公園』を、ひとり、ぶらぶらと散歩していた。


 ぼくの名は、『栗原茂雄』。


 ・・・もちろん、本名だ。


 2023年3月の現在、しがない、ただのしょぼくれた「オヤジ警備員」である。


 子供はおろか、恋人も配偶者もいない。


 その当時ぼくは、ひとりの風俗嬢に入れあげていた。


 小説『たからものⅡ』のヒロイン、中岡葉子さん(= 峯岸美代子さん)のモデルになった、ひとりの女性だ。


 もう別れてしまったが・・・


 名を、「洋子」という。


 これも、実は本名。


 残念ながら、苗字だけは明かせない。


 ぼくには、かつて、洋子に会うはるか以前に、死ぬほど愛した女性がいた。


 名は、『美絵子みえこ』。


 実は、こちらも本名。


 オリジナル小説・・・処女作『たからもの』のヒロイン、峯岸美絵子さんのモデルになった人物である。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 ぼくはその日、井頭公園の野球場の側道を歩きながら、キツツキが、ブナだかナラだかの大木たいぼくの幹をつつく音を、ときおりベンチに座りながら聞くともなく聞いていた。


 そしてぼんやりとしながら、球場のグラウンドの向こう側の側道に設置してあるベンチで、肩を組み合いながら仲良くだべる若いカップルを眺めながら、ぶつぶつと独り言をこぼす。


 「・・・ったく、洋子ちゃんにはうんざりするよ。ロシア語の新しい辞書を買ったぐらいで大騒ぎしやがって。そのくらいの出費、俺がしたっていいじゃないか。」


 実はこのとき、ぼくと洋子は、ケンカ状態で、しばらく会っていなかった。


 上記のぼくのセリフにもあるように、ぼくがロシア語の辞書を購入したと、風俗店で会ったときに彼女に報告すると、彼女は烈火のごとく怒り、こういったのだ。


 「・・・ねえ、しげちゃん。やたら外国語を勉強するのはいいけど、そんなロシア語の本なんか買う余裕があるんなら、もっとあたしに会いに来てよ! あたし・・・ずっとしげちゃんが店に入るお金、半分とか全額、負担してきてやったじゃない・・・。」


 ああ、そうだよ、洋子ちゃん。


 たしかにその通りだ。


 でもねぇ、ほかに何のとりえもない情けないぼくが、たったひとつだけ自慢できるものは・・・この「語学」しかないんだよ。


 人に負けないものは・・・たったこれだけなんだ。


 美絵子ちゃんはもういないし、さびしいぼくが、君と出会ってからというもの・・・ほかの女性との恋愛・付き合いを全部犠牲にして捨ててしまって、君だけにまっすぐ入れ込んできたというのに・・・君って人は、いつになっても、ぼくと店外で、1秒だってデートすらしてくれなかったじゃないか・・・。ぼくは、君なら、あの美絵子ちゃんにも匹敵する、魅力ある新しい、素晴らしい恋人だと認めて、ずっと誠実に、君だけを見つめてきたのに・・・。

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