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エピソード4:Sunday/ネクストステップ③

 予想していなかったわけではない。

 ただ、県内外から多くの人が訪れる場所なのだから……うっかり知り合いに会うはずなどないさ、と、高をくくっていただけのことだ。


 驚いて言葉が行方不明になっている政宗(蓮)の代わりに事実を確認すべく、心愛がぎこちなく振り向いて……。

「島田先輩……!! ど、どうしてここにいるんですか!?」

「え? どうしてって友達と遊びに来たんだけど……」

 彼――勝利の存在を認識して悲鳴に似た声をあげる心愛へ、彼は当然と言わんばかりの口調で返答した。そして、しどろもどろになっている2人を交互に見つめ、目を丸くする。

「それにしても珍しい組み合わせだね。名杙先生はいないの?」

「へっ!? お、お兄様は、名杙先生お兄様は……えっと、お兄様はいるけど、今はいないの!!」

「ど、どういうこと? 政宗さん、どういうことですか?」

 混乱しすぎて支離滅裂なことを口走る心愛へ顔をしかめる勝利は、説明を求めて政宗(蓮)の方へ視線を向けた。うっかり目があったのでそらしたくなるけれど、今は政宗なのでそういうわけにもいかない。


 ――あと、その姿でみっともないことはしないでくれ。人が多い水族館では誰が見ているか分からない。『仙台支局』のメンツに関わる。


 ――君は俺に対してあれだけの啖呵を切ってみせたのだから……不甲斐ない姿を晒して、失望させないでくれ。


 数十分前に聞いた統治の言葉が、鮮明に思い出される。

 そう、ここでは自分が『政宗らしく』振る舞う必要がある。その覚悟は出来ていると言い返してきたばかりだ。ここでしどろもどろになって有耶無耶にするわけにはいかない。なぜなら、『勝利の思う佐藤政宗』は、きっと、『そんな人物ではない』のだから。

 正直なところ、政宗と勝利が話をしているところをしっかり見た覚えはない。ただ、彼は政宗を盲信しているところがある。と、いうことは……。

 政宗(蓮)は静かに立ち上がると、勝利へ向けて「えっとね」と口を開いて前に出た。そして、自身を心配そうに見上げる心愛へ、すれ違いざまに一言。

「……もしも僕がやりすぎていたら、止めてください」

「っ!?」

 すぐに察した心愛が小さく頷いた様子を横目で見やり、政宗(蓮)は勝利の前に立った。そして。

「実は俺たち……ちょっと仕事でここにいるんだ」

「え!? そうなんですか!? 水族館からも依頼を受けているなんて流石ですね!!」

「ありがとう。統治は今、仕事に必要な道具を取りに行ってて……今から俺たちも手伝いに行くところ。だから、そろそろ行くね。勝利君や友達が水族館を楽しめるように、ちょっと頑張ってくるよ」

「分かりました!! お気をつけて!!」

 そう言って敬礼……しそうな勢いで見送ってくれる勝利に軽く手を振りつつ、政宗(蓮)は「行こうか、心愛ちゃん」と声をかける。我に返った心愛が「は、はいっ!!」と返事をして、彼の後に続いた。

 もう振り向かない。1秒でも早くこの場から立ち去るのみ。

 二人して無言のまま、足早に移動しながら……ペンギンがいる水槽の前を抜けたところで、大股の心愛が追いついた。そんな彼女に、政宗(蓮)が疲れた表情で評価を尋ねる。

「僕……ちゃんと出来てましたか?」

 どこか不安げな眼差し。そんな彼の不安を吹き飛ばすべく、心愛は大きく頭を縦に動かす。

「は、はいっ!! 大丈夫すぎて心愛が驚くくらいでした。なんか最後にそれらしいこと言って納得させるところとか……佐藤支局長だなって思いましたよ」

「良かった……」

 再び前を見た彼が、あからさまに安堵した様子で息を吐いた。その横顔に蓮らしい雰囲気を感じつつ、「それにしても」と口を開く。

「咄嗟だったとはいえ、あんなこと言って大丈夫ですか? 水族館で仕事だなんて……」

「実はあながち嘘でもないんです。『仙台支局』は実績として、この水族館からの仕事を定期的に受注しているので」

「えっ!? そうなんですか!?」

 彼の言葉に心愛は目を見開いた。この情報は、片倉華蓮として書類整理をしていた時に気付いたこと。意外な施設からの依頼だと思って、何となく覚えていたことだ。まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったけれど。

「勿論、本物の佐藤支局長達にも報告はしますけど、つじつまは合わせやすいと思います」

「す、凄いですね……あの一瞬でそこまで計算していたなんて……」

「相手が彼だから上手くいったと思います。例えば……相手が森君だったら、もうちょっとツッコミがあったかもしれませんし」

「それは……確かに」

「とにかく、今は一旦外に出ましょう。彼の話だと、他にも心愛さんや佐藤支局長を知っている人がいるかもしれません」

 政宗(蓮)の言葉に頷いた心愛は、足早に2階から1階まで階段を下ってきた。そして、受付にいた男性スタッフに一度外へ出たいことを告げて、再入場に必要な手続きを取る。

 人の流れに逆らうように外へ出ると、待ち構えていた統治が「こっちだ」と先立って歩き出した。

「お兄様、どこへ行くの?」

「裏の公園へ移動する。ついてきてくれ」

 手短に目的地を告げた統治の背中を追いかけながら……心愛は一人、右手を強く握りしめる。

 この手で、自分発案の方法で、この問題を解決するために。


 水族館の裏側に整備された公園は、広い芝生が整備され、開放感のある空間が広がっていた。

 日曜日の午前中、朝の散歩には遅い時間ということもあり、声が聞こえる範囲に人はいない。歩道の一角に設置されたベンチに座っていたユカと蓮(政宗)が、3人の姿に気付いて立ち上がった。

「心愛、どこが緩んでいるのか教えてくれないか?」

「わ、分かった。えぇっと……」

 統治の言葉に首肯した心愛は、まばたきをして視える世界を切り替えた。そして、政宗(蓮)から伸びる『因縁』をたどり、蓮と政宗の間に立つ。

「ここ、この辺が、特に……」

「……なるほど。いつの間にかこんなに緩みが……」

 同じく『縁』の状態を確認した統治が、納得したように呟いた。ちなみにユカ自身も視界を切り替えて同じところを視ているが、2人が認識している『緩み』は何となく分かるものの、あくまでも感覚的にしか理解できない。だから、そこに干渉して引き剥がしてみせる自信はないのが正直なところだ。

 これが、2人との間にある圧倒的な実力差。努力だけではどうしようもない、感覚的な問題。

 勿論、羨ましいとは思う。けれど、統治も心愛もこの『実力差』があるからこそ、ユカが知らない葛藤を抱えていることもまた事実だ。だから今回は……彼らに任せて、素直に見守っていようと思う。

 ここで心愛は蓮(政宗)を見やり、「もしかして」と口を開く。

「佐藤支局長、昨日、りっぴーに会いましたか?」

「え? あ、うん。石巻に用事があって、そこで会ったよ」

「そうですか。だったら……今はお兄様もこの場にいるし、出来ると思う」

 心愛の言葉に統治は頷いた後、政宗と蓮にベンチへ座るよう指示を出した。そして、心愛を2人の前に立たせる。

「やり方は分かるか?」

「とりあえず、緩みの間に手を入れて……じゃあ、名波君側の『因縁』を掴んでみる。それでゆっくり動かしてみる」

「分かった。必要だと判断すれば、俺が佐藤側の『因縁』を掴む」

 統治の言葉に頷いた心愛は、呼吸を整えて……精神を集中させる。


 9月、『因縁』に支障をきたした勝利を、里穂と心愛、そして桂樹が力を合わせて助け出すことが出来た。

 心愛があの時やったことは、『因縁』を握っただけだ。勿論、気合や思いは込めたけれど、たったあれだけ(・・・・)で自我を見失った人を救い出すことが出来る、自分の中にある潜在能力が底知れないことを実感した出来事でもある。

 名杙直系ではない2人の『因縁』、どちらかに干渉すれば、きっと強い(心愛の)方に引っ張られて、解けるはずだ。昨日、蓮(政宗)が里穂と会ったことで既に干渉を受けているので、今ならば成功する可能性が高い。

 大丈夫。きっと――いや、必ず出来る。

 

 ――心愛ちゃん、『縁』を切るときは躊躇わず、一気にやっちゃってね。そのほうが、互いに感じるストレスも少なくてすむから。切り方は……多分、『因縁』に染み付いてるだろうから、思ったままにやってみればいいと思うよ。


 4月、大切な人からもらったアドバイスがある。

 『縁』を扱う時に躊躇は不要だ。迷うならば扱う前まで。迷って、考えて、躊躇って……それでもやると決めたならば――怖気づかない。


「――いきますっ!!」


 この言葉を合図に、心愛は空間へ右手を伸ばし――確かな意思を持って、それ(・・)を掴んだ。


「離れな……さいよっ!!」


 刹那、ベンチに座っていた蓮と政宗の体が、電流に弾かれたように一度大きく震えた。そして、銘々に倒れないようにバランスを整えつつ……息を、吐く。


「俺……の、体……だよな」

「政宗……!!」


 嬉しそうに呟いた彼の声に、ユカが慌てて近づいた。そして、顔を上げた彼と目を合わせ……目を細める。

「ったく……いい加減、一人で抱え込むのもほどほどにしとってよ?」

「ああ。肝に銘じるよ」

 空笑いで返答した政宗は、隣に座っている蓮へと視線を向けた。彼はふらつく頭を押さえるように手を添えていたが、ゆっくり呼吸を整えて……顔をあげる。

 眼鏡越しに見えたのは、少しだけ、目線が低くなった世界。思わず息が漏れる。

「戻り……ましたね」

 彼の言葉に全員がそれぞれに安堵の息をついた。ユカもやっとトラブルが解決したことに胸をなでおろしつつ、強い意思を持って対処した心愛の姿に、嬉しさがこみ上げる。

「ケッカちゃんも……立ち止まっていられんね」

 そう呟いて見上げた秋空は、どこまでも澄み渡っていた。


「心愛、俺は佐藤と山本を送っていく」

 数分後、政宗と蓮の『縁』に異常がないことを確認した統治が、心愛へ向けてこう言った。

 刹那、心愛が軽く目を見開く。彼ら3人はてっきり、このまま残って一緒に水族館へ行く(ただし別行動)だと思っていたから。

「お兄様……帰るの?」

「ああ。今回のことを報告しなければならないからな。帰りが遅くなるようであれば、俺か母さんに連絡をしてくれ」

「う、うん」

頼んだ(・・・)ぞ」

「っ!! わ、分かってるわよ!! 心愛、もう中学生なんだから!!」

 統治の言葉に、心愛は一瞬言葉を詰まらせて――明確な信頼を示されたことに気付いた瞬間、思わず語気が強くなる。

 そんな彼女の返事を緩めた口元と共に確認した統治は、隣に立つ蓮の方へ視線を向けた。そして。

「名波君、万が一、本調子でないと感じたら、伊達先生に連絡をして指示を仰いでくれ。心愛がいるから大丈夫だとは思うが、水族館は様々な生き物の『縁』があるから、引きずられてしまう可能性があることを覚えておいてほしい」

「分かりました」

「あと、心愛の門限は18時だ。それまでには……」

「分かりました。僕も明日の準備があるので、あまり遅くならないようにします」

 こう言って軽く頭を下げる蓮に、統治もまた、静かに頷いて……。

「佐藤、山本、行くぞ」

 踵を返すと、駐車場の方へ向けて歩き始めた。政宗とユカは慌てて後を追いかけ、足早に立ち去ろうとする統治を中心に左右へ陣取る。

 いつもの高さに戻った政宗が、俯いている統治を見つめ……口角を緩めた。

「統治……いつの間に、あんな立派なお兄ちゃんになったんだ?」

「……さあな」

 緩んだ唇の端から息を吐き、統治はゆっくり頭を振った。

 仙台支局が水族館から仕事を受けた話→https://ncode.syosetu.com/n9925dq/9/

 とても懐かしい外伝です。このエピソード、地味に好きなので……今回、つながりを作ることが出来て良かったっす!!


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