1 帰りたくない
初投稿です
思うんだ。自分は、あの場所に帰ってもいいのだろうか、と。
4月の初め、ちょうど入学式シーズン。俺は地元の高校に入学するため、実家に帰ってきた。
佐藤太陽は静岡のど田舎に生まれた別に目立った特技もない普通の子だった。
けど俺は…あの子達を傷つけて、泣かせて、謝りもしないで東京に逃げた弱いやつで、本当は帰りたくなんてなかったんだ。
だけど家族にそろそろ帰ってこいと言われて、今までだって心配かけているのにこれ以上家族に迷惑をかけたくなかった。
だから、嫌々な気持ちを抑え、戻ってきた。
電車に乗る前、買ったおにぎりを食べて、お茶を飲む。
こっちには便利な店なんて全くないから、しばらくこのコンビニおにぎりとはお別れだな。
なんて考えながら、窓の外を見た。
そろそろ終点、大きく深呼吸をして気持ちを切り替える。
「大丈夫、大丈夫…よし。」
俺は自分に言い聞かせるように呟く。これはお父さんに教えてもらった、「自分に正直になる魔法」
これを言うだけで、本当の気持ちを教えてくれる…らしい。
「さて、行くか。」
電車を降りると、駅員さんがいなかった。そういえばここ、無人駅だったなと思い出す。
切符を箱に入れて駅を出ると、懐かしいような、そうでないような景色が目にいっぱい広がる。
…どうか、あの子達に会いませんように。
こんな小さな村で無理な話だとわかっていつつも少しだけ、少しだけ願ってしまった。
「おーい太陽、こっちだ。」
田んぼの向こうで大きく手を振る秋斗兄さん。
母さんが迎えにきてくれると聞いていたんだけれど、
予定が変わったようだ。
母さんからメールが届いていたのに俺が気づかなかったらしい。
「太陽久しぶり!!元気だったか?お前痩せたな!ちゃんと食ってたのか!?」
まだ結構遠くにいたのに走って抱きついてきた。秋斗兄さん、全然変わってないな。昔のまんまでかくなったみたいだ。…いやほんとにでかいな。4つ歳年上なだけなのに。俺もこんなでかくなるのか…。
「ちゃんと食べてたよ、普通の男子よりは少なかったみたいだけど。」
「そうか?太陽が元気でよかった。ささ、帰ろう。」
「うん、って秋斗兄さん、車は?」
うちから駅は確か車でくる距離。なのに近くにそれらしきものは止まっていない。
…何で来たんだ。
「兄さん車の免許まだ取ってないから!運転しちゃだめなんだって、ほらママチャリ。後ろ乗って!」
…は?
「どうした太陽。まさか俺の後ろには座りたくないとか!?反抗期!」
「いや違うから、え、ママチャリできたの?帰りもこれ?俺自転車の後ろとか乗ったことないんだけど。」
まさかママチャリで来るとは思わなかった、と思わずため息が出る。
「だいじょーぶ、安全運転で行くからさ!」
そんなこと言われてもこれはちょっと怖い。
「…わかった、よ。まじで安全運転でお願い。」
そう言ってママチャリの後ろにまたいで恐る恐る乗ってみる。
ギシッと音がして、これ壊れないかと不安になったが帰る方法はこれしかないんだ。仕方がない。
「よし、しっかり捕まってろよ。じゃあ、秋斗兄さんが太陽を家まで送ります!行くぞ!!」
「おーってそんな気合い入れなくても…ちょ、ちょちょ、待て待て待て待て安全運転どこ行ったーーーーーーー!!!!!!!」
そうだった。秋斗兄さんは言葉通りの実行なんてしない、テンション任せのぶっ飛んだ人だった。
「チッ誰だよ、こんな大声出してる奴は。」
「?なんか今すごい声がしたような。」
「え、あれってまさか、まさかね。」
「…この声、もしかして。」
俺はこの叫び声がめちゃくちゃ沢山の人に聞かれてるのを知らなかった。
そしてその中には、会いたくないと願ったあの子達もいるなんて、思いもしなかった。
文章から何から初心者ですが、地道に頑張ってみようと思います。