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雨の国、晴れの国

作者: 黒月葉織

 雨が降っていた。

 しとしと、決してやむことのない雨が。

当たり前だ。ここは決して晴れることのない場所なのだから。寝ても覚めても雨が止むことがない、雨の国。

 この国の王様は雨がとても好きだという。

 だから雨を降らす。毎日毎日ずっと雨を降らす。僕が生まれたときも雨は降っていた。そして朝起きても、食事をしている時も、寝る時も絶えず雨は降る。

 僕ら国民はその生活に慣れてしまって何も思うことはない。おかげで水という潤いだけには事欠かさない国だ。

 雨が降る、といっても強かったり弱かったり、スプレーのように細かかったり、ただ降っているの一言ですますにはあまりに色がある。

 結局、国中が濡れることに変わりはないのだけれども。

 雨が屋根を、地面を叩く音を聞きながら僕は部屋着から仕事着に着替える。

 今日は外で仕事がある日だ。

 僕の仕事は運び屋。国中に降った雨を隣の国に運ぶ仕事だ。

 僕の住むこの国とは違い、隣は晴れの国だ。僕の国とは対照的に寝ても覚めても雨が降ることなく、美しい青空が見れる国だ。暗くてじめじめしたこの国とは逆で暖かな日差しが雨の代わりに降り注ぐ明るい国。

 しかしその代償に雨が降らない、つまり水がない国でもある。だから僕の住む雨の国から水を買って国に潤いをもたらしている。

 そして仕事で隣の国との境界に行くときだけ、僕は澄み渡る、言葉にとても成しえないような美しい青空を見ることができるのだ。

 運び屋の職に決まったとき、最初はただ運んで渡すだけか。そう思ってた。相手が晴れの国だと聞いてはいたが、なんとも思っていいなかったのだ。

 だからこそ僕はあの青空に心を奪われた。

 初めてみた灰色以外の空は僕にはひどく眩く、心を隅から隅まで照らすようだった。

 雨の降り続ける薄暗い国に住む僕にはあの国は美しくも、輝きが強すぎて、向こうの世界が見える一瞬はつい目をつむってしまう。きっと僕があの国に移住したら、カラカラに干からびてすぐに死んでしまうに違いない。

 しとしと。

 今日もこの国は雨が降る。ざーざーと轟音を立てるような振り方でないのが幸いだな。

 雨に濡れることを嫌う者は部屋から出ることがなく、逆に雨に濡れることに慣れているものは頭上から降り注ぐ水の粒をものともせずに外へと飛び出していく。

 僕は前者の方だ。必要な買い物があるとき、仕事以外では部屋から出たくはない。

 けれども今日は仕事の日だ。

 部屋中に転がる絵の具や筆、キャンパスをぴょんぴょんと避けて部屋の扉まで行く。

 絵は僕の趣味だ。部屋に閉じこもって雨の音を聞きながら白いキャンパスに青い絵の具をはしらせるのが僕の休日の楽しみ。

 国境でしか見られない、あの青をキャンパスの上で再現しようといくつもの絵を描いた。けれども、どんな絵の具を使っても、どんなに色を組み合わせたって、本当の空の色には敵わない。

 それがいつも悔しくて、すぐに僕はキャンパスを壊してしまう。おかげで部屋にはキャンパスの残骸が溢れている。

 この国で生計を立てる者達の一部には絵や音楽といった芸術的なものを売り出している人も少なくはない。僕が絵を描いてるときいて見に来た人が是非とも僕の空の絵を買い取りたいと言ってくれたこともある。

 きっとこれは売れる、こんなにも美しい青だ、絶対に欲しがる人はいるだろう。

 運び屋以外の収入を考えたことはなかったが、僕にとって納得いく作品ではないからとその時は断ってしまった。

 もしも、僕が納得いくものを描けたときに来てくれ。

 思わずそう言ってしまったけれど、少し図々しかっただろうか。

 今日こそ、今日の仕事の後にこそ納得いくものを描こう、いいや描けるはずだ。

 なんたって、今日は晴れの国の空を見ることができる日だ。

 少しうきうきとしながら僕はフードを被って家を出る。

 歩きなれた道を通って、隣の国専用の貯水槽に向かう。そこには今日の配達分の水がいくつもの大きな箱に入って、運搬用の荷台につまれていた。この荷台を国境まで持っていくのが僕の請け負っている仕事。といっても、僕の力では持っていくのは不可能なので実際に引っ張るのは荷運びに慣れた、力の強い動物に引っ張らせるのだけれども。

 同僚たちと出発の準備をし、配達する荷物の個数を確認してから国境へとのろのろと歩く。雨のせいで視界は明瞭ではないが行きなれた道。迷うわけがない。

 進みながら考えるのは青い空のことだ。

 しっかりと目にあの色を焼き付けて、今度こそ再現してみせる。

 雨よけがわりのフードを深く被り、向こうに広がるに青に思いをはせる。

 そうこうしていうちに、国境へとたどり着いた。関所の門番に水の配達だと告げて、門をあけてもらう。

 ゆっくりと開く石の扉。

 扉の隙間から優しい光が雨の国へと漏れ出す。

 眩しいなあ。

 がこんと扉が固定される音が響く。僕の目の前に晴れの国への道が開く。

 最初に見るのは、青だ。僕の国では決してみることのできない晴れの空。

「配達ご苦労様です」

 扉の向こうに立っていた、晴れの国住民である少女が僕に話しかける。仕事中なのに関わらず青空に気をとられていた僕は、慌てて受領サインをもらうための紙を鞄から取り出した。そしてそれを少女に受け渡す。と同時に僕も少女から紙を受け取り、晴れの国からの荷物受け取りのサインを記す。

 雨の国では農作物が育たない。僕らが生きるのに大切な食べ物たちは全て晴れの国からの輸入品だ。

 雨は潤いをもたらしても僕らに必要な食物を育てることはできない。日差しの差さないこの国では植物たちは十分な光を浴びれないからだ。だから僕たちは水と引き換えに隣国の美味しい農作物を受け取る。

 少女から受け取った紙が僕の湿った手で少し歪む。

 お互いに国境線すれすれに立ち向かい合ってサインを書く。これもいつものことだ。

 その一方で、その間同僚たちは晴れの国の受取人に水の箱を引き渡していた。

 僕がサインを終えて、顔をあげると同時に少女も顔をあげて僕を見ていた。

 僕が無言で紙を渡すと少女も同じように僕に差し出してくる。僕の白い肌と違い小麦色の肌の指が紙を受け取る際にほんの少しだけ触れた。

「扉が開くといつもあなた、空を見ているでしょう」

「えと、まあ、こっちじゃ見ることはできないから」

 これで終わり、そう思っていたから少女から不意打ちで話かけられて思わずしどもどる。つい視線が空を彷徨う。

 見られてたかと、少し恥ずかしくなる。僕が水の配達に行くと、いつもこの少女が決まって受取人だ。だから余計に恥ずかしい。

「いっそ、こっちに住めばいいのに」

「僕も君も簡単に移住はできないのは知っているだろう」

 僕らの国のルールは一部において非常に厳格だ。それはできないことは彼女も知っているだろう。

「それもそうね、ううん。たぶんあなたは雨の国に住んでいて正解よ」

 そう言って少女ははにかんだ。

 何度も少女の微笑みを見てきたというのに、今日はいつもとは何かが違う。

 君は一体何を思っているんだ。

「それじゃ、今までありがとう」

「え、あ、うん」

 少女が身を翻す。ふわりと少女の白いワンピースと風と共にやさしく揺れる。

 僕とは違う、黄金に輝く髪が風になびいて揺れる。陽の光にさらされるといっそう綺麗で美しい。僕とは全く違う。

 光る少女の髪。少女のにこやかな笑顔。

 いつも彼女は最後に笑いかけてくれる。こんな不器用で湿っぽい人間に笑いかけてくれるなんて人が好過ぎると僕は密かに思っていた。

 それなのに何故だろう。

 何度も君の笑顔は見てきたというのに、今日は君の背中がやけに遠く見えた。




 今日も晴れやかな青が頭上に広がる。

果てなく広がる群青は私たちを見守るかのよう。

 いつだって空は蒼い。私の知る限り一度も陰を見せたことはない。かつての私は空には雲っていうふわふわな綿みたいなものが浮かぶ時もあるらしいと聞いてびっくりしたものだ。その形は水のように自由自在で、様々な表情も見せてくれると言う。

 一度も晴れ以外の天気を見ることのないこの国で生きるわたしにとって、雲とは縁がない存在だと思っていた。晴れしか天気が存在しないこの国では。

しかし、それも今の職についてからは数日に一度だけ見れるようになったのだ。

 それは運び屋。隣国にこの国で採れた農作物を届ける仕事。

 隣の国は私の国とは真逆で空は常に雲で覆われているという。

 初めて現場に行く日、わたしはウキウキだった。軽いステップを踏み出しながら踊りだしたくなるぐらいには。

 雲って白いって聞いているけれど本当なのかしら。

どんな形をしているのかしら。

 本当にあの青い空に浮いているのかしら、その雲がある国では雲を捕まえる方法とかないのかしら。

 初めて見る雲のことはもちろん、もう一つわたしには楽しみがあった。

その国には雲から水が落ちてくるというのだ。

 一体どういう原理なんだろう。

 初めて人からそれを聞いたときにはこの人は頭おかしいんじゃないかって思ったぐらい。

しかもその空から落ちてくる水が、日課で飲んでいる紅茶に使われている水だなんて聞いたからもっとびっくりしちゃった。

 わたしが飲んでいるこれが隣の国では毎日降ってくるなんて信じられない。

 でも、私たちは隣の国で水がいっぱい採れるおかげで生活できるのだ。

 私の国では空から水が降ってくることは決してない。

 太陽が大地を照らすおかげで植物はすくすくと育ち、私たちが体を動かすためのエネルギー源となる。

 けれど、その植物たちが育つために水は必要不可欠だ。そして、私たちが生きていく上でも水は欠かせない。

 この国の空はとても美しいと思う。

 しかし、美しい空は私たちの心を満たしても、胃を満たすことは決してない。

 だから、私の国では採れた農作物と引き換えに隣の国から水を買うのだ。この国で生きるために大切な水を買い取るのだ。

 そして、わたしの仕事は隣の国へと農作物を運ぶ仕事。

 隣の国では一切農作物が育たず、万年食料不足だという。

 どんなに陽が大地を照らしていても、どんなに水があったとしても、片方だけではダメなのだ。

 晴れの国から空か水の降る雨の国へ生きるための食べ物を。

 雨の国から晴れの国へと生きるための水を。

 互いが互いを支えて生きていく。当然のことながら支え合うためには仲介人も必要だ。その仲介人の一人として私が選ばれたのは誇らしく思っている。

そして、今日はその仕事の日。

 わたしが担当するのは隣国へと繋がる門へと野菜がたっぷり詰まれた大きな箱を持っていくこと。

 太陽の光のエネルギーを使って動く自動の荷車を使うから非力な私でも簡単に運べてしまう。これさえあれば、どんなに荷があろうと長距離をいともたやすく運べてしまうのだから素晴らしい発明品だと思う。あ、でも一応最大荷重は決まっている。あまり載せると重すぎて動かくなるから気を付けろ、という話はこの職に着いたときに最初に教えてもらったことだ。

 がたがたと音を鳴らしながらも荷車のハンドルを私はきる。

 隣国に近づくにつれて建物は少なくなる。

 私一人で全ての荷物を移動させられるわけでないから、私以外の運び屋は一緒だ。けれど、あまりお喋りな人たちではないから、わたしとは対照的に物静かだ。

まあ、私はもう少しは落ち着きをみせろって昔かわ言われているんだけれどね。

がたがた。

 道は面白みがないぐらいに平坦だ。何度も往復している道なこともあり、土は荷車のタイヤによって固く踏みしめられている。

 変わらない景色とぽかぽかな日差し、規則的にゆれる荷車。

 やばい、このままだと寝る。

 寝ながらの運転は規則違反だ。大事な積み荷のせた荷車を横転させかねない。

 本当にやばいやばい、と眠気と格闘する私の目の前には大きな壁が現れた。

 これは国境。晴れと雨の境。

 隣国と私の国の区切りを明確にするための壁。そして、私たち運び屋が目指すのはその壁の一部をくり抜いたようにある一つの門。

 私たち運び屋、それからこの門の警備の者だけが近づける特別な場所。

「こんにちは」

 そう言いながらわたしは警備の人に声をかける。向こうもやってくる私たちにとっくに気づいていて、はるばるお疲れ様と言ってくれた。

 さてさて、ここからが大変だ。

なんせ渡すものはいっぱい。受け取るものもいっぱい。

 渡すものが全部そろっていることを確認してから、大きな箱を門の前に持っていく。

 まあ、それは私よりも力のある人たちに任せるとして。

私は鞄から今回の品の一覧のリスト、それか受け取りの承諾サインをもらうための紙を取り出した。

 湿った風が取り出した紙を、それから私の長い髪を揺らす。

 国境の門は大きく開いていた。

今、この瞬間だけ私は雨の国を、晴れのない国を見ることができる。

 この職についてから何度も私はその光景を目に映してきた。

 水が絶え間なく降り注いでいる。

 まるで巨大なジョウロで国の上から水をやっているかのように。止まることもなく、ぽたぽたと落ち続ける。

 灰色の雲に覆われた止むことのない雨に晒されてる国。

晴れの国の乾いた空気と、湿り気のある空気が入り混じって肌がなんだかむずむずとする。

 サインをしてもらうため、私は紙をもって国境のラインのぎりぎりに立つ。

 そして、一歩離れたところに立つ少年に話しかけた。

「配達ご苦労様です」

 私の言葉にあっというように慌てて視線を私の頭上から、私の顔へと移す。それから慌てたように鞄から紙を何枚か取り出した。

 黒いコートを着た、雨の国での運び屋である少年は私が運び屋を初めてからいつもこの門で会う。

 少し切った方がいいんじゃないかしらと思うような長めの黒い前髪はぴたりと額に張り付いて、気にならないのかしらと、つい思ってしまう。

 暗めの髪色は雨の国の人たちの特徴だ。

 私の国では基本的に金髪で、太陽の光を受けるとキラキラと光るのだ。

「はい、今回の受領書はこれね」

 私が少年にはいとサインをもらうための用紙をわたすと引き換えに、今度は私が少年から私がサインを書くための用紙を受け取る。

受け取った紙は柔らかくて、少し湿っぽい。だから、少しペンを走らせにくい。

 今日の日付。それから私の名前。数枚の紙に同じ文字を書き連ねていく。

「これでよしっと、はい」

 最後に全部書いたかなと確認をしてから、私は同じようにサインをしている少年を見た。記載を終えたのはほぼ同時だったらしい。少年も紙を片手にこちらを見ていた。

互いの名を書いた紙を再び交換する。その際に少しだけ、少年の指と私の指が触れた。白くて冷たい骨ばった少年の手と、わたしの日に焼けた褐色の肌。こういうとことも雨の国との住人と私たちでは色が違う。

「扉が開くといつもあなた、空を見ているでしょう」

 今までならここでサインをして終わり、それ以上会話することなんてないけれど、今日ぐらいはいいかなと思い、思い切って私は少年に話しかけた。

視界の端で門番がちらりと私を見る気配がした。

 私の言葉にびっくりして少年の視線が足元を見て、左右を見て、少し戸惑っているのが目に見えた。

「えと、まあ、こっちじゃ見ることはできないから」

 少し恥ずかしそうにぼそぼそとした声で少年は話す。雨の音にかき消されないように、私は精一杯耳を澄ませて少年の声を聞き取る。

 まあ、私もいつも雨の国を覗き込んでいるのだから人のことは全く言えないのだけど。

「いっそ、こっちに住めばいいのに」

「僕も君も簡単には移住できないのは知っているだろう」

ほんの冗談のつもりの言葉は少年の淡々とした言葉で切替された。

 まあ、実際私たちは生まれた国で一生過ごすのが当たり前だからその通りなんだけれども。

 でも、きっとそれでいい。

「それもそね、ううん。たぶんあなたは雨の国に住んでいて正解よ」

そう言って私は少年に笑いかけた。

 いつも最後にわたしは少年に笑う。全身真っ黒で表情まで暗かったらなんだかもったいないじゃない。

 空を見ているときだけ輝く瞳をもっと見たいな、なんて思ってるなんて決して言えないから代わりに笑いかけるのだ。

「それじゃあ、今までありがとう」

「え、あ、うん」

 わたしの言葉に少年の表情が一瞬揺らいだ。

 本当にありがとう。

 私が雨の降る世界をいいな、と思うように澄み渡る青が広がるこの世界を羨ましそうに、楽しそうに見てくえ見る人がいるということを教えてくれて。

 わたしにとって晴れは日常だ。

 その当たり前以外が欲しかった、それ以外の変化を望んでいた。

 だから、雨の国を、例え境界線の先に行けないとしても覗くことができるだけで十分に嬉しかったし、楽しかった。

 門の向こうからこぼれてくる、雨粒が地面を叩く音。

 雨粒がはっきり見えるぐらいに大粒な日もあれば、細かくて、音もあまりしなくて降っているのかわかりにくい日もあった。

 その違いさえ愛おしいと思えるぐらいには私は雨の虜になっていたのかもしれない。

いっそのこと住めたら、移住出来たらなんて思うことはあってもそれは決してできない。

 私のこの体はあの国で生きるには適していないから。だからといってこの国でも強靭というわけではない。

 わたしが雨の国を見れるのはこれが最後だ。

ゆっくりと閉まる門の向こう、こちらに背を向けて雨の中へと歩き出す少年の背を見る。

 真っ黒な背中にかかる虹を見る。

 その国は彼にとっては暗く見えるかもしれない。それでも私にとっては虹色に見えるんだよ。

 私は最後の、最期の虹を扉が閉まるまでずっと眺め続けた。

 そう、これが最後。今回が私の最後の運び屋としての仕事。

 この国の住民は寿命が短いのだ。

 あまりにも長い時間、太陽という強い光を浴びすぎて一部の者たちは長くは生きられない。強すぎた光は時には毒となり人を脅かす。

 そうして脅かされた人間の一人が私だ。

 でも、私は見たいものを見れてとかった。望む世界に住めないとしても近くで見れた。その世界に住むものと少しでも会話ができた。

 そして、もう二度とあの雨の世界を、虹を見ることさえ叶わない場所へと行くのだ。

 きいっと音を立てて門は完全に閉まった。雨の音はもう聞こえない。湿った空気は感じられない。

 私は再び陽の差す世界へと戻る。からりとした空気の中へと舞い戻る。

 一度だけ、最後だからと私は門を振り返った。

 私はね。

 虹のかかる君の背中を見るのが好きだったんだよ。


元々はフォロワーとの共通お題での一時間一本勝負で雨の国の話だけを書いていました。

テーマは診断メーカーより

「雨が降っていた」で始まり、

「君の背中がやけに遠く見えた」がどこかに入って、

「その背中が好きだった」で終わる物語でした。

それを晴れの国の話を加えて、さらに色々加筆しました。なのでもはやお題にそってない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シンプルであまり捻りの無い話でしたが、設定の見せ方や表現力の高さのおかげでグイグイ読み進めてしまう物語でした。 細かいとこまで考えてるんだろうなぁと伝わってくる点も好印象。 [気になる点]…
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