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ゼロの怪物  作者: 四季 畑
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やっぱり一章完結分まで書いてから投稿したいと思います。

 魔導兵団。

 シレニア王国を守護する、勇敢な魔導師たちが集う組織。

 大きく4つの部隊に分けられ、それぞれの部隊は国の中で五指に入る実力者たち、部隊長の地位を与えられた魔導師によって統括されている。

 東の領土を守る、『冥土の幽園』に率いられし第一部隊。

 西の領土を守る、『炎冠』に率いられし第二部隊。

 南の領土を守る、『魔曲の奏者』に率いられし第三部隊。

 北の領土を守る、『落天』に率いられし第四部隊。

 彼らの能力と国への忠義に疑う余地はなく、それ故に民による信頼は厚い。

 何故なら、今代の部隊長たちが任命されてから今日に至るまで、国への侵攻を許したことは1度もないのだから。




 

 ついにこの日がやってきてしまった……。

 シレニア魔法学園。多くの優秀な魔導師を生み出した、シレニア王国唯一の魔導師教育機関。そして僕のこれからの運命を決める舞台になる場所。その試験日が。

 ルシアさんによるスパルタ授業を乗り越えた僕は、滅茶苦茶疲弊していた。目には隈ができるほど寝不足だし、手はペンを握りすぎて今もプルプル震えている。

 ルシアさんの授業は鍛練以上に容赦がなかった。

 そんな師匠の激励のお言葉がこちら。


 「もし試験に落ちたのなら仕方ない。この私が直々に手を下してやる」


 ……どう考えても脅迫です。本当にありがとうございました。

 どうやったらあんな微笑のまま肝の冷えることを言えるんだろう。そっちをご教授願いたい。まあ使う機会も度胸もないだろうけどさ。

 そもそもなんで試験に落ちたら死刑って流れになってるの?師匠としての面子が丸潰れだから?冗談じゃないよ。


 「まったく……」


 つい溜め息をつきながら気持ちを切り替えて目の前のことを考えるようにすると、あることに気が付いて立ち止まった。

 そう言えば、学園ってどっちだっけ?確か今いる道を、ってここどこ?

 気付けば知らない場所にいた。見慣れない建物や通り過ぎていく雑踏をキョロキョロと見渡していると、想定していなかった事態に焦燥感が芽生え始める。


 「まさか、迷った……?」


 試験勉強の合間に道順を確認して、なんなら実際に行ってみたのに?眠気とか色々考え事をしてたせいで、いつの間にか間違った道に入っちゃった!?

 

 「ど、どうしよう……」

 

 狼狽えても仕方ない。この雑踏の中から大人に声をかけるしかない。まだ時間に余裕はあるはずだけれど、グズグズしてたら遅刻してしまう。

 落第どころか試験すら受けられませんでしたじゃ、確実にルシアさんに殺される。……こんな命懸けな受験生なんて僕くらいだろうなぁ。

 

 「なあ、そこの黒髪」

 「へっ!?」


 話かけようとしたら、背後から逆に声をかけられた。

 肩を跳ねさせると、相手もびっくりしたようで「うおっ」って声が漏れる。


 「悪いな急に。驚かせるつもりはなかった」

 「こ、こちらこそスミマセン」


 振り返って声の主の姿を見る。短い茶髪に随分と背の高い男の人だ。それでいて人好きな笑みを浮かべているし。子供に懐かれそうな、頼りがいのあるお兄さんって感じの雰囲気があった。


 「それで僕に何か用でしょうか?」

 「間違ってたら悪いが、もしかしてお前も学園の受験者じゃないか?」

 「は、はい。……ってお前も?」

 「ああ。俺もお前と同じ受験者、ルード・グロースだ。よろしくな」


 なんと、年上だと思ったらまさかの同い年だった。慌てて僕も名乗ると、「いい名前だな」って笑いかけてくれた。これが俗に言う陽キャなのだろうか。


 「それで、ルードさん……」

 「おいおい。俺たちタメだろ?貴族でもないんだから敬語なんて止めてくれよ。他の奴にも舐められるぞ?」

 「……分かった。それでルード、なんで僕が受験者って分かったの?」

 「この時間帯に俺と同じくらいの奴が王都で迷子みたいにしてる。それだけで、な」


 ああそうか。少し考えれば分かることだった。


 「俺も今から学園行くんだ。案内してやるから一緒に行こうぜ」

 「あ、ありがとう」

 「気にするな。受験者同士仲良くしようぜ」


 そういうことで僕たちは一緒に学園へ向かうことになった。

 ルードは優しいな。ライバルである僕を助けてくれて、放っておけば少しは受かるハードルが低くなるのに。いや、それも彼の人柄の良さによって出来ることなのか。尊敬するなぁ。


 「シグは王都出身じゃないのか?あんなところで迷うなんて」

 「えーと、王都には6年前から引っ越してきたんだけど、あまり出歩かなかったっていうか……」

 「インドア派ってことか?」

 「まあ、そんなものなのかな」


 本当は魔導兵団の特別部隊としての鍛練とか任務とかが忙しかったんだけど、まあ説明しても信じられそうにないし、誤魔化しておこう。


 「ルードはどこから来たの?」

 「俺は東の方からだな。こう見えて魔物も退治したことがあるんだぜ」

 「なるぼど。じゃあやっぱり試験は自信ある?」

 「どうだろうな。魔法は一応使えたが、これメインでやってきたからな」


 そう言ってルードは腰に差してる剣に手を添えた。

 魔杖剣。魔力を込めれば青白く輝いて切れ味を上げ、さらに魔法の威力も上げる、魔導師の武器だ。

 ルードは主に魔法じゃなくて剣術で魔物と戦ってきたって伝えたいんだと思う。


 「俺はさ、昔は魔導師じゃなくて剣士になりたかったんだ。反対されて断念したけどな」

 「どうして?」

 「知らないのか?10年ぐらい前から他国で有力な魔導師が増えてったんだ。それで周辺の国も魔導師の育成に力を注ぐことになって、段々と戦士や傭兵団が冷遇されていって……。廃業したり、なんなら盗賊に身を落とした奴もいるって話だ」

 「……!」

 「まあ時代の変化とか転機ってことなんだろうな。残念だが、まあしょうがない……って、どうした?難しそうな顔して」

 「……なんでもないよ」

 

 あのときのことを思い出す。故郷の村が襲われて、村の皆が次々と殺されていったときのことを。

 僕が殺したラグノーツ盗賊団も元は傭兵団で、ルードの話のように落ちぶれてしまったのだろうか。

 どんな理由でも僕は彼らを許すつもりはないけれど、なんだかやるせない気分になった。

 そうして色々なことを喋っている間にとうとう学園についた。

 

 「うわぁ……」

 「もう大分集まってるな」


 学園の前には既に受験者たちが大勢集まっていた。会場となる学園はまだ準備をしているのか入り口は閉まっている。

 他の人はそれまでの間に知り合いと会話をしていたり、学習内容の復習をしていたり、なんなら競争相手への睨み合いをしていたりと、それぞれの時間を過ごしていた。


 「それにしても、ちょっと多いね。100人はいるんじゃないの?」

 「一応言っておくが、これでも全員じゃないぞ。数が多いからって、3日にかけて試験を行ってるって話だからな」


 それぞれの試験日に同じくらいの人がいるとすれば、300人以上はいるってことか。僕みたいに及び腰になってる人はいないし、皆堂々としてて、その胆力が羨ましく思う。

 そうして周囲の受験者たちに目を配っていると、一人の女の子を見つけた。

 深紅の長髪を後ろで纏め、優雅に佇む姿は気品ある御令嬢みたいだった。自らの美貌によって、にわかに注目を集めている彼女はちっとも視線に臆していない。

 カッコいいなぁ、とつい見とれていると、僕の視線に気付いたのか赤髪の女の子は僕の方を見ると睨み付けてきた。え、怖!そんなに不快だった!?

 わざわざ声に出して謝罪するのもおかしいと思って、彼女に向かって頭を下げて許して貰うことにした。ごめんなさい!

 そんな滑稽な僕を見ていたルードが横から尋ねてきた。


 「……シグ、お前アイツと知り合いか?」

 「ううん、僕は会ったことないよ。ルードは知ってるの?」

 「そりゃあ、有名人だからな。この中じゃ知らない奴なんてほとんどいないだろ」

 「……?」


 自分の無知を恥じつつもルードから教えて貰う。

 クレア・ヴェルメスタ。それがあの赤髪の子の名前だそうだ。

 どうやら彼女は第2部隊長、『炎冠』の一人娘で、既に魔導兵団と認められていてもおかしくない実力を持っているんだとかなんとか。

 成る程、それで他の人から注目を集めてたんだ。

 納得してルードの話に頷いていると学園の入り口が開き、試験官らしき人が出てきた。


 「ただいまより入場を許可する!受験者たちは列を作り、速やかに会場へ集合せよ!」


 試験官の言葉に従って僕たちも列に並ぶ。


 「ようやくだな。お互い頑張ろうぜ」

 「うん!」


 ルードと二人で激励を送り合う。胸に熱いものを感じながら、僕たちは会場へと進んでいった。

 






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