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5.カタリナ

 今、目の前の女性が発した言葉についていけずに、俺の脳は数秒間、機械のようにフリーズした。


「あ、あの・・・だ、大丈夫・・・ですか?」


 そんな俺を心配するように上目遣いでのぞき込んできたのは、自分をNPCと名乗るエルフ、カタリナだった。

 ノンプレイヤーキャラクター、通称NPCとはその名の通り、プレイヤーが操作しないキャラクターのことであり、決まった行動をとることしか出来ない存在である。

 しかし、今NPCと名乗ったこの女性は、自分の意思で行動し、どこからどう見ても人間としか思えない振る舞いをしていた。それどころか、自我さえも持っているようだった。


「え、えっと・・・つまり、君はNPCで、この世界で生きている住人ってことですか?」


「はい。その通りでございます。すみません。自己紹介が遅れまして。この情報はユーザー様にも解禁されている情報ですので、すっかり知っておられるものとばかり・・・」


「自我を持つNPCか・・・この世界のNPCは・・・」


「は、はい。私と同じように、この世界に住むNPCは皆、自我を持ち今もこの世界で生活しております。もちろん、モンスターや一部の種族など、自我を持たないNPCも存在しておりますが・・・」


「そ、それは、発売前から噂になるわけだ」


 大学やバイト先などで、よく耳にするゲームタイトルだとは思っていたが、まさかそんな要素を持っているとは。NPCという存在に驚きつつも、納得する。


「あ、あの・・・それで、話を戻してもよろしいでしょうか?」


「は、はい。すみません。なにぶんこの世界の事前知識ゼロでログインしてきたものでして・・・。えっと、つまり、NPC達の自我の中にイオリの名前があるということですか?」


「いえ、正しくは、私達ガイドエルフと、ごく一部の者の中・・・というところでしょうか」


「・・・えっと、さっき聞き流しちゃったけど、そのガイドエルフというのは、普通のエルフとは違う存在なのですか?」


「あ、はい。説明が遅れてすみません。ガイドエルフというのは、案内役。つまり、プレイヤー様にこの世界についての概要を説明する存在というところでしょうか。正確には、明日から・・・ですが」


「なるほど。でもなんで、ガイドエルフだけが、イオリを知っているんですか?」


「それは・・・おそらく、自覚の問題だと思います」


「自覚・・・?」


「はい。私達ガイドエルフ以外のこの世界のNPCは自分がNPCであるという自覚を持っていないのです」


「そ、それじゃあ・・・つまり」


「はい。この世界の存在、そして自身の存在に疑問を持つこと無く、当たり前に存在しているものとして生活を送っているのです」


 そこまで聞いて、俺は初めてイオリの手紙に書かれていた言葉の意味を理解した。

『ボクの作ったもう一つの世界』あれは、ただゲームを作ったということでは無く、電脳空間に、もう一つの世界を実際に作ったという意味だったという事に。


「以前の私のように」


「え? もしかして、あなたも・・・?」


「はい。私自身もガイドエルフに選ばれる前は、この世界で普通に生活していました」


「・・・そんな・・・」


 何と声をかければ良いか分からずに、俺は言葉を詰まらせた。そんな俺の姿を見て、カタリナは小さく吹き出した。


「ふふっ。そんなに気にしないで下さいっ!私自身、あまり気にしていませんから」


「で、でも・・・」


「フースケ様自身でお考えになってみて下さい。もし、フースケ様自身の住む世界が作られた存在だと言われたら、どう思いますか?」


「さ、さすがに想像つかないけど・・・そうだな。まあ、今自分が存在していることは事実だし、今更言われてもって感じですかね・・・」


「ええ。それと同じです。私自身が自分を認識していれば、その過程などどうだって良いのです」


「・・・カタリナさんは・・・強いですね」


 お世辞では無く心からそう思った。もし自分に置き換えたらとてもそこまで自分の存在を肯定出来る自信は無かったからだ。


「ええ。そういった人材がガイドエルフに選ばれていますので。私からしてみれば、違いなんて、人間に作られた存在か、自然によって作られたかぐらいしか違いはありませんっ」


 そう笑顔で話す彼女はどこからどう見ても人間にしか見えなかった。

 そんな彼女を見て俺も気持ちを固める。


「・・・ん?この手は何でしょうか?」


 彼女の目の前に差し出した右手をカタリナは不思議そうに眺めて言った。


「改めて、よろしくの握手。俺も、難しいことは考えない。ただ、目の前にいるヒトと友達になりたい。そう思ったから」


 語尾に向かうに従い、徐々に恥ずかしさを感じて勢いが弱まる俺の右手の彼女の右手が合わさる。


「フースケ様・・・はいっ!改めて、よろしくお願いしますっ」


 こうして、俺にこの世界で初めての『友人』が誕生したのだった。

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