4.食い違い
「・・・なるほど。つまり、フースケ様は、イオ・・・その方から送られてきた手紙を頼りにこの世界に来られたと・・・」
エルフに向かってここまでの経緯を説明すると、エルフは、イオリという言葉を言い淀みながらも、説明を理解したようだった。
「は、はい。それで、俺のミスとは言え、リリース日の前日であるこの世界に俺がログイン出来たことには何か意味があるんじゃないかと・・それにしても、随分イオリの名前に警戒しているようですけど、そんなにまずい名前なんですか?」
「そ、それはっ・・・!」
俺に言うか言うまいか自身の中で葛藤したエルフは、大きく深呼吸をした後、その重たい口をゆっくりと開けた。
「そ、その、イ、イオ・・・」
「だ、大丈夫ですよ。無理に言わなくても」
「あ、ありがとうございます。その名前は、上手く言葉に表せないのですが、私達の奥深くに刻まれている言葉でして。皆が不審に思いながらも、決して開くことの出来ない闇と言いますか・・・」
いまいちつかみ所の無いエルフの説明に頭を悩ませる。
「社員さんの間でも、イオリの存在は噂になってたってことですか?」
「社員・・・?」
エルフの説明を自分なりに解釈して伝えるが、エルフは俺よりも大きな?マークを脳天に浮べたようだった。そして、何かに気づいたように、大きく目を見開いてこちらを見た。
「な、何か分かりましたか・・・?」
「い、いえっ・・・その、間違っていたら、申し訳無いのですが。フースケ様は何か勘違いをしておりませんか?」
「勘違い?」
「ええ。今、私を見て、社員と・・・」
「? ええ。だって、あなたの言う通り、この世界に普通のユーザーはログイン出来ないのですよね?ということは、あなたはここで最終調整をしている社員さんなのかと・・・」
「・・・はあ。なるほど。なぜここまで主張がかみ合わないのかようやく理解できました」
「?」
一人納得したエルフは、困り顔のまま、ため息をついた。なぜそんな表情をしているのか見当もつかないでいる俺にエルフは、自身の服の裾を両手で持ち上げ、右足を引きながら頭を下げた。
その仕草はまるで、社交パーティの挨拶のように優雅だった。
「改めまして。挨拶が遅れました。私、この世界『Unravel』でガイドエルフを務めます。カタリナ・ハイネローゼと申します。私は、社員では無く、この世界に生きる者。NPCでございます」