強奪
葬儀より三日が過ぎて、ソフィアは上機嫌で過ごしていた。
「長が妾の部屋に通って来るのが、これ程とは」
長は連日、彼女の部屋に訪れ、アベルを剣術の稽古に連れ出していた。剣術の稽古を終えると戻って来て食事を共にする。そのような日常生活に慣れて来た頃、情報収集を任せている巫女が報告に訪れた。
「報告が遅くなりましたことを、最初に詫びます」
「構いません。正確性が必要な情報であれば許容します。ですが可及的速やかに報告するよう、今後は勤しむように」
「寛大なる処置に感謝致します」
ソフィアは彼女からの報告を受けると、その顔面から血の気が失せた。
「分かりました。引き続き監視なさい」
報告された内容を確認しようと彼女は腰を上げた。
「モリー、共に来なさい」
「はい、畏まりました」
控室に声を掛けると、即座にモリーが支度を整えて出て来る。彼女を伴ってソフィアは部屋を出た。目的地はすぐそこだ。
「ファルティマーナ様、エリスです」
「どうぞ、お入り下さい」
彼女が声を掛けると、すぐに扉が開き招き入れられる。ソフィアルテ付きの侍女が応対に出て来た。室内に用意されていた椅子へ流れるように案内される。
「少しお待ち下さい。主は接客中でございます」
侍女は鄭重に頭を下げて、彼女の前にお茶と茶菓子を置いて行った。
「ソフィアルテ様にお客様とは、珍しいこともありますね」
モリーの何気ない一言が、ソフィアに行動を起こさせる。
「誰が来ているか、確かめましょう」
奥の間に続く扉に二人は近づいた。ソフィアが耳を当て、モリーは周囲を警戒する。
「……母上、もう一度、伺います。ソフィアの指輪を誰に授けたのですか?」
「貴方も承知の通り、ソフィアは一人しかおりません」
会話の内容から察するに、長が訪れているようだ。しかし、何か不穏な雰囲気である。
「そのソフィアが、……エリスが指輪を受け継いでいないのは何故ですか?」
「貴方の心に聞いてご覧なさい。あの指輪は長の心に反応して継承されるものです」
ソフィアは会話内容から、すぐに察しがついた。彼女が尋ねたい事柄について二人は話しているのだ。
「私はエリスをソフィアとして認めています」
「それで答えは出ておりますわね」
押し問答が続く。ソフィアは扉から離れると椅子に戻った。
「後日、出直すと伝えて来て頂戴」
「え? は、はい直ちに」
モリーは驚いたものの、速やかに主の命令を遂行する。戻って来た彼女を伴って自部屋に帰投した。
「一人にさせて」
ソフィアの表情は強張り、尋常ではない様子だったが、モリーは一礼して退出する。
「どういうことなの?」
長の話や報告された情報を総合的に判断して、彼女は自分自身がソフィアとして不適格と言われているように感じていた。
彼女も初めて知ったのだが、ソフィアには代々受け継がれる指輪があるらしい。それは先代のソフィアと、当代の長の双方が適任と認めた者にのみ継承される魔道具とされていた。先程の長の話から察するに、先代であるソフィアルテは、その指輪を誰か他の者に継承させたらしい。そして、報告にあった話は葬儀の前日に訪れていたルーディリートに、ソフィアルテから何かが渡されていたという内容だった。
「妾はソフィアなのに、ソフィアの証を持たぬと……?」
目の前が真っ暗になり、目眩が襲う。
「あの娘に、今更ソフィアの地位を渡せと?」
長が不在の間、ずっと一族を支え、孤独感を耐え抜いて来た努力を否定されたようで、彼女は気が狂いそうになった。
「何の努力もせず、隠れ回っていたあの娘に、妾は劣るのかえ?」
幾つもの自問自答を重ねて、彼女は懊悩する。自尊心を傷つけられ、妹を、ソフィアルテを、そして表面的にだけ彼女に優しい素振りを見せる長を憎んだ。
「もう、誰も信じぬ」
奥歯を噛み締める。彼女の味方は一門のウィルオードとモリーらぐらいしかいないと迷妄する。




