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強奪

「もう、どこにも行かないで下さい。アベルを次の長に相応しいよう鍛えて下さい」

「そうだな」

「わたくしは、ずっと寂しかった」

 ソフィアは初めて心情を吐露した。

「お兄様は地上に行ったきり、わたくしを放置して、何をお考えなのか分からず」

「先にも伝えたが、地上の遺跡管理は長の務め。父より受け継いだ私の役割だ」

「それでも、もっと近くに、御父様や御母様のように仲睦まじく……」

 彼女の言葉を長は手を挙げて遮った。

「無理を言うな。私には長の務めがあり、お前にはソフィアの務めがある。それで父のように振る舞えとは、虫が良過ぎるぞ」

「どうすれば、お兄様と一緒にいられたのですか?」

「父のように、ソフィアと二人の側室が理想的だな。その上で、側室として共に地上に赴いていれば長く過ごせただろう」

 長の言い様にソフィアは奥歯を噛み締める。

「ラリアのように、ですか?」

「戴冠式前の遺跡点検では、地上時間で三年近く共に過ごしたな。城では数ヶ月のはずだが」

 長はラリアが生き長らえていたとは漏らすつもりがないようだ。

「それでは、仮にラリアが生きていて、ルーディリートもあの場にいた場合、お兄様は誰を正妻に選びましたの?」

「仮定の話に意味はない。今はお前が正妻なのだから、それで良かろう?」

 取り付く島もないように長は突き放す。それでもソフィアは食い下がった。

「お兄様が帰って来ない間、側室の話が飛び交い、わたくしは針の筵に座らされている心地でした。わたくしは正妻として力不足なのでしょうか?」

「後悔しているのか?」

「後悔はしていません。ただ、側室の話が持ち上がる度、わたくしは辛いのです」

「そうか」

 長は短く答えて黙り込んだ。彼女も敢えて口を閉ざし、真剣な顔付きの彼を見つめる。この表情に彼女は惚れていた。

「ソフィアは、誰がなろうと批判を浴びる。そういう地位だ」

 彼は考えをまとめて話し始める。

「だからこそ、長が最も愛する者をソフィアに選ぶ。側室はソフィアと長を補佐する立場で、長が剣技に優れる時は魔法に()けた者を、魔法に優れる時は剣技に長けた者を選ぶ」

「では、お兄様はわたくしが不要だったのですか?」

 剣術師範の娘で、同年代では随一の実力者だったラリアに思いを馳せる。

「残念だが、私はどちらも中途半端でな、エリスの助けも、ラリアの助けも必要だった」

 淡々と彼は話す。

「剣技に優れていた父上は、我が母とお前の母の二人に魔法の掩護(えんご)を任せていた」

「待って、お兄様。長とソフィアは同時に地上へ出られないのでは?」

「ああ当然だ。だから、父上の正妻はフォリーナだった」

 初めて聞く話だ。

「我が母は側室から、ソフィアの地位を引き継いだだけのこと」

 ソフィアはそれで母のカミナーニャが、ファルティマーナを敵視していた理由を理解した。同じ側室と思っていたのに、長の愛情で差を付けられたという事実が、母を苦しめていたのかもしれない。しかし、それでは父母の仲睦まじい様子が説明できない。

「我が母は、フォリーナの姉としてソフィアの業務を積極的に補佐し、彼女が病床から離れられなくなると後継のソフィアとして指名された」

 長の話は続く。

「それが死去する半年前のこと。カミナーニャからすれば不当な扱いと思われても仕方ないと思う。だから父は地上の遺跡管理を最小限度に減らして、城への滞在時間を増やした」

 ソフィアは疑問が湧いた。

「御父様は御母様と二人で遺跡管理はなさらなかったの?」

「行ったさ。だがカミナーニャ一人では父の掩護を満足にできず、結果的に実力不足を痛感させただけだった」

 カミナーニャが魔法の威力重視に腐心していた理由も知らされ、ソフィアは愕然とする。

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