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強奪

 ソフィアは暗闇の中を走っていた。

 より正確に記すならば、幌もない座席のみの二輪馬車に揺られている。路面の起伏が直に伝わるほど大きく揺れて喋ることもできない。車体は馬車だが、曳いているのは人だ。巫女の中でも足の速い二人が、先導役と馬代わりで疾走していた。

 車を先導して走る別の巫女が左手を上げた。車は速度を緩め、それと共に振動も小さくなる。城を出てより一刻ほど走り、木立が途切れて川が見えて来た。

「ソフィア様、この先にルーディリート様がおります」

「そう、妹が……」

 車は川辺に到着すると、そこで停車した。ソフィアは車から降りて、先導していた巫女と共に橋を渡り川沿いを歩く。やがて川辺に人影が見えて来た。

「あれは妹ではないわね」

 視線の先では栗毛の女性が川で水汲みしている様子だった。こちらの存在には全く気付いていないようで、何の警戒心もない。

「お前、ソニアですわね?」

 ソフィアが声を掛けると彼女は驚いたように身を震わせた。

「お前がここにいるということは、妹もおりますのね」

 まるで闇の中から突如として彼女が現れた状況に、末妹の侍女は対応できていない。ソフィアの瞳は金色に輝いていた。

(わらわ)に従いなさい」

 ソフィアの命令を受けて、ソニアの瞳は虚ろになる。

「ここには、何をしに来ましたの?」

「水汲みに来ました」

 ソフィアの問い掛けに、ソニアは正直に答える。

「本来の目的は?」

「カミナーニャ様の葬儀に、ルーディリート様と共に花を手向けに伺います」

「その他には?」

「その他には、何もありません。誰にも気付かれない内に、城から退去して家に戻ります」

 問答にソフィアは偽りはないと感じた。

「よく分かりましたわ。お前はこれからも、妾に定期的に連絡を寄越しなさい」

「はい、畏まりました、エリス様」

 (こうべ)を垂れるソニアに、ソフィアは満足顔で頷く。

「では水汲みをして戻りなさい。妾と会った、今のやり取りは他言無用ぞ」

「はい、畏まりました」

 深々と頭を下げたソニアを置いて、彼女たちはその場を後にする。

「ソフィア様、ルーディリート様はあちらの馬車でお休みです」

 巫女が川の更に奥を示すと、そこには一台の馬車が停められていた。

「捨て置きなさい。妾が見つけては城に連行するしかありません。そうなれば長はあの者を側室に迎えようとするでしょう」

 ソフィアは苦々しい思いで吐露する。

「誰も側室には迎えぬと、誓ったばかりなのじゃ」

「畏まりました。それでは不穏な動きを起こさないか監視しておきます」

「ええ、それとあの侍女には連絡できるよう繋いでおきなさい」

 指示を与えて、乗って来た車のところまで戻る。

「さて、城に戻りましょう」

 同じ道のりを彼女たちは同じ時間で戻った。土埃を全身に被ったソフィアは、そのまま浴場に向かう。

「ソフィア様、このような時間に如何(いかが)なされましたか?」

 浴場の入り口で管理者の女性に呼び止められた。

「落ち着かなくて、浴場でこの思いを洗い流そうと……」

「長様が入浴中です」

 管理者の言葉にソフィアは瞬時固まったが、すぐに口元に笑みを浮かべた。

「構わぬ。妾はソフィア、長とは一心同体じゃ」

「畏まりました」

 管理者はソフィアを脱衣所へ通した。すぐさま控えていた侍女たちが彼女の衣服を脱がせる。ソフィアは一糸纏わぬ姿で浴場に入った。

「誰だ?」

 浴槽で(くつろ)いでいた長が思わぬ侵入者に警戒した声を掛ける。

「エリスですわ、お兄様」

「お前か」

 互いの裸を見るのはアベルを身籠もる頃以来だった。

「こうしてお兄様と肌を見せ合うのは久方ぶりです。照れてしまいますわ」

「では、私は出ようか」

 浴槽から立ち上がりかけた彼に、エリスは抱き着いた。

「もう、どこにも行かせません。わたくしを一人にしないで下さい」

「お前らしくもないな」

 長はソフィアと共に浴槽に浸かる。彼女は長の右肩に身体を預けて夢見心地になる。

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