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骨肉

「母の葬儀をせねばならぬな」

 ソフィアは溜息をつく。

「長は戻って来るであろうか?」

「ご案じ召されますな」

 ウィルオードは姉の状態を見て、ソフィアの方へ向き直る。

「人を呼びます故、ソフィア様は泣いていて下され」

「病死にするしかあるまい」

 彼女は深呼吸して心を落ち着けると、努めて慌てたような声を出す。

「御母様! 如何なされましたか、御母様!」

「何事ですか、ソフィア様!」

 白々しいと彼女は思いつつも続けるしかない。

「ウィルオード、御母様が突然、倒れたのです。すぐに、すぐに医師を!」

「誰か、誰か!」

 ウィルオードは控室に走り去った。

「御母様、しっかりなさって、御母様!」

「ソフィア様、お退がり下さい」

 医師が到着して、診察を始める。既に氷は溶けているので、心臓発作で倒れたようにしか見えない。医師は首を横に振ってソフィアに向いた。

「残念ですが、既に手遅れです」

「そんな……」

 ソフィアは驚きと悲しみを混ぜたような表情を浮かべる。

「ソフィア様!」

 侍女のモリーが駆け付けた。ソフィアはその彼女に取り縋る。

「カミナーニャ様が?」

 モリーは状況を聞かされて唖然となった。

「長に帰って来て頂く言葉を、御母様に考えて頂こうと思いましたのに」

 ソフィアの絞り出すような声に、侍女たちは何も言えない。ウィルオードが侍女たちを指揮して、カミナーニャの遺体を床から、寝台へと運ばせた。

「母と二人きりにさせて欲しい」

 慌ただしく動いていた一同に、ソフィアはそう告げた。全員が心中を慮って退出して行く。ウィルオードが最後に扉を閉め、室内にはカミナーニャの遺体とソフィアのみが残された。

「く……」

 堪えていた感情が溢れる。

「くく……、あは、あはは」

 ソフィアは湧き上がる笑いを抑えられなかった。

「もっと早くにこうしておけば良かったのかしら?」

 末妹、ラリアなど彼女の望みを妨害して来た人物たちを排除するのに、回りくどい方法を採用して来たのがバカバカしく思えた。

(わらわ)と長の子、アベルの邪魔立てをする者は、決して許さぬ。そうでしょう、御母様?」

 物言わぬ(むくろ)となった母親を一瞥して、彼女は再び哄笑する。

「正論に言葉も返せないぐらいかしら?」

 一頻(ひとしき)り笑って、突っ伏した。

「わたくしを、一人にしないで……」

 涙が溢れる。ずっと孤独だった。母親による過酷な魔法訓練や、同年代の話し相手がいなかった少女時代。ソフィアになってからも大好きな長と共に過ごした時間は少なく、子育てと一族の調停に追われる日々で、心身が疲弊していた。

「わたくしはただ、幸せになりたいだけですのに……」

 長の正妻になれば幸せになれると信じていた。それは父母の仲睦まじい姿を見ていたから、それが当たり前の日常と思い込んでいたのだ。

「それもこれも、帰って来ないお兄様が悪いのですわ。次に帰って来たら、もうどこへも行かせませんの」

 想像した将来に笑みが零れる。彼女は目尻を拭いて、表情を引き締めた。

「モリー、ウィルオード。御母様を頼みます」

 呼び掛けると父娘二人が揃って入って来る。

「ソフィア様、どちらに?」

「長を呼び戻します。火急の用件ですから、戻って来るはずです」

「それでは、お供致します」

 申し出たモリーに、ソフィアは冷たい眼差しを向けた。

「あなたのその気遣いが、誤解を招くと知りなさい。妾一人で充分です」

 モリーは言われた言葉を理解できなかった。ただ愕然として立ち(すく)む。

「ソフィア様にはお考えがあるのだ。我々は役目を果たすのみで良い」

「は、はい!」

 ウィルオードとモリーを室内に残して、ソフィアは長の部屋に向かう。

「長が戻って来たら、二度と地上へは行かせません。妾の横で、アベルの成長を見守って頂くのですわ」

 愛しい長と親子三人で過ごす将来を夢見て、彼女は笑っていた。

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