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火種

平日毎朝8時に更新。

「お兄様……」

 撫でられたことを思い出して、自然と口元が綻ぶ。上機嫌で彼女は自室へ戻った。

「お嬢様、探しましたぞ」

 戻るなり、ウィルオードが近づいて来た。

「御母上様がお呼びです。正装にてお越し下され」

「正装で?」

 それは今までにない呼ばれ方だった。ウィルオードが出て行くと、入れ違いに侍女たちが入って来る。エリスは正装の白い衣裳を(まと)い、母の(もと)へ急いだ。

「エリスや、これより長に目通りする。粗相のないよう、気をつけなされ」

「はい、御母様」

 母娘は長の執務室へ向けて歩みを進める。城内ですれ違う一族の者たちは廊下の隅へ避けて一行に進路を譲った。

「カミナーニャでございます」

 部屋の前で呼びかけると、音もなく扉が開いた。母娘は静々と室内へ進む。部屋の奥では長がその玉座に腰掛けて待っていた。

「よく来た、二人とも。まずは顔をよく見せてくれ」

 やや離れた位置で頭を下げた二人に長はそう呼びかける。まずは母が前へ進んで顔を上げた。エリスもその後に続く。

「うむ、呼んだのは他でもない。一族の繁栄に必要なことを頼みたいのだ」

 長は大きく頷きながらエリスの顔を見つめた。正装ではスカーフを巻かないので、その美しい金髪も長は()でているようだ。

「ソフィアより進言があってな、エリスには巫女ではなく術士としての修業を積ませよと」

 エリスは驚きのあまり目を見開いた。一族の慣習では、長の正妻は巫女とされ、術士では側室にしかなれない。長の命令はエリスを正妻候補から外すという意味を含むものだった。

「長よ、我が娘に何か落ち度がありましたか?」

 すぐさまカミナーニャが長の足元に(すが)り付く。対して長の口調は柔らかい。

「勘違いするでない。エリスは次のソフィアの最有力候補だ。であるからこそ、巫女のような限定的な力の行使ではなく、術士としてその能力を遺憾なく発揮して欲しいと思うのだ」

 長は一族の慣習を破るつもりのようだった。

「それを聞いて安心しました。我が娘は御覧の通りでございます。必ず次代のソフィアとして一族を支えます」

「うむ、頼むぞ」

 長の視線は柔らかな光を帯びてエリスを見詰めている。

「御父様、わたくしは術士として修業を積み、必ずお兄様を支えて一族を繁栄させます」

 エリスの決意表明を受けて、長は相好を崩す。

「それでこそ我が娘だ。立派な術士になるのだぞ」

 こうしてエリスは巫女ではなく、術士としての修業を開始した。

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