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骨肉

   〈骨肉〉


 地下城の一室でソフィアは微笑んでいた。

「長よ、無事の帰還、喜び申し上げます」

 だが迎えられたランティウスの表情は固い。

「アベルの剣の訓練は、いつから始めるつもりだ?」

「アベルは本日で七歳になったばかり、年明けからで良いではありませんか」

 アベルとはソフィアの子で、ランティウスの長男になる。順当に行けば次の長となる子だ。

「前回の帰還の折には、誕生日を迎えてからと聞いたが、記憶違いだったか?」

 彼は溜息交じりに尋ねるが、ソフィアは一向に気にしていない。

「ですから、誕生日を迎えて、その後ですわ」

 暖簾に腕押しと言った風情で、アベルの訓練は後回しにされている。

「お前がそこまで甘いとは思わなかったぞ」

「あなたの子ですから、大切にしているだけですわ」

 微笑みながら言われると、ランティウスも強くは言えなかった。

「年末まで遺跡点検に回っている。連絡は常の通り、私の執務室にいる侍女へ頼む」

「火急の用件はないと思いますので、おケガをなさいませぬよう、気をつけて」

 送り出そうとしたソフィアではあったが、長は部屋の隅にいた金髪の男児を抱え上げた。

「ガイウスのところへ連れて行く」

「母上ー」

 手足をジタバタさせる我が子を、彼は妻が止める間もないままに連れ出した。

「長! お待ち下さい、長!」

 慌ててソフィアが追い掛けるが、長は城内の廊下を飛ぶように去って行ってしまった。

「モリー! 急いで、アベルが」

「長はガイウス様のところと仰せでした。先に向かいますので、ソフィア様は服を整えてお越し下さい」

 モリーは先に行ってしまう。ソフィアは日頃の運動不足で後を追うのもやっとだ。

「こ、ここですわね」

 ガイウスは長の剣術の師で、今も剣術師範として稽古相手になっている手練(てだ)れだ。木刀同士を打ち合わせる乾いた音が響く。モリーが心配そうな視線で見守る先では、長とガイウスが打ち合っていた。

「アベルを連れて行ったのは、これを見せる為?」

 ソフィアが訓練場に入ると、モリーが駆け寄って来る。

「あ、あのような危険な真似、早く止めなければ、若君様が危ないです」

 改めて見ると、長の左腕にはアベルが抱えられていた。長は右腕一本で、対するガイウスは両手で木刀を操っている。彼女たちの目にも留まらぬ速度で二人は打ち合っているが、僅かでも長が失敗すればアベルの身が危ない。

「さ、されど長の集中を乱しては、万が一のこともあろう」

 二人がアタフタしている間に打ち合いは終わった。

「長様、一段と腕を上げましたな。誰か良い稽古相手でも見つけましたか?」

「地上の遺跡点検を回っていると、時折いるのだ」

「はあ、それで」

 軽口を叩きながら長と剣術師範が彼女たちの方へ向かって来る。

「ソフィア様、ご機嫌麗しう」

「ふ、二人は何をなさっていたのですか?」

「アベルに剣の稽古を見せていただけだ。楽しかっただろう、アベル?」

「はい、父上」

 アベルはニコニコと笑っていた。

「アベルもこの通りだ。剣の訓練はガイウスに任せて開始せよ」

 長の命令に、ソフィアは渋々頷く。

「分かりました」

 妻の返事を聞いて、長は息子を彼女の手に返した。

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