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背君

 城門には馬車が三台並んでいる。先頭はエリスとランティウス、ファルティマーナの馬車、中央はそれぞれの侍女たち、最後尾には荷物を乗せる。

「それでは、行ってらっしゃいませ」

 ウィルオード他、多くの者の見送りを受けて馬車は走り出した。今回の目的地はエリスも知らない土地だ。

「人数を制限したのは、小さな里に大人数で押し掛けては対応できないからです」

 ファルティマーナが馬車の中で目的地の概略を説明し始めた。そこは彼女の出身地で、普段は隔離されている隠し里らしい。

「それに、往来の道のりが危険を伴うこともありますから」

 彼らの一族が居住する地下空間は外敵の侵入もなく、危険な生物も存在しない。一族全体は奉仕と謝礼で生活が成り立っているので、悪事に手を染める必要もなかった。だから危険を伴うと言われても理解の外にある。

「それとランティウス、遅くなりましたが伝えなければならない事柄があります」

 ファルティマーナの口調が変わる。エリスはいよいよあの件を伝える時が来たと身構えた。

「私の里で療養していたルーディリートですが、先日亡くなりました」

「な……?」

 兄は絶句したまま固まる。

「手厚い看護を行いましたが、あの()は力尽き、今はソニアに弔いを任せています」

「母上、何故、今になって伝えますか?」

 兄の声は震えていた。

「あなたが城内にいる時間が少ないからですよ」

 チクリと彼の行動を牽制する。

「ですから、エリスと仲良くなさい。それがあなたの責務です」

 ファルティマーナは言い終えると、エリスと雑談を始めた。ランティウスは項垂れたまま顔を押さえている。相当に応えたようだ。

「そろそろですわね」

 ファルティマーナの言葉を裏付けるように、馬車は停止した。

「ソフィアルテ様、仰せの通り境界石の手前で停めました」

「ご苦労様、それでは馬車同士を繋いで下さい」

 御者の男性に指示を出す。このような出来事そのものが初めてで、エリスは黙って事態の推移を見守るしかない。

 三台の馬車の連結が終わる頃、数十人の男たちが馬車を取り囲んでいた。

「長老の命により、お迎えに上がりました」

「ご苦労様、それでは宜しく先導して下さい」

「畏まりました」

 御者台に、迎えの男たちの一人が座る。更に馬車全体を守るように男たちが配置する。

「ランティウス、私は最後尾の馬車に乗っていますので、お前はくれぐれもエリスと仲良くなさい」

「分かりました、母上」

 ランティウスの声は不機嫌だが、それでも幾分かマシだった。彼女が扉を閉めて暫くすると、馬車はゆっくりと動き始める。澄んだ鈴の音が響く。

 エリスは途中で目眩を感じた。兄は一言も発することなく窓の外を見ている。不意に兄が言葉を発した。

「止めよ、あそこのご婦人に話を聞きたい」

 馬車は静かに停車する。兄は扉を開けると下車した。

「そこのご婦人。つかぬ事を伺うが、この辺りでソニアと言う女性を見掛けなかったか?」

「……知りません」

 兄の問い掛けに、潰れたような女性の声が聞こえて来る。

「申し訳ありません、風邪をひいておりまして……」

「ああ、そうか。それはまた難儀な事だな」

 気遣う兄は気付いていないのか、エリスは馬車から二人を見下ろす。頭巾を被り、(こうべ)を垂れている女性は末妹に間違いない。だがその横に立っている幼女は何者なのか、エリスには分からなかった。そもそもファルティマーナは末妹が亡くなったと言っていたはずだ。疑念が深まる。

「藪を突いて蛇を出してはなりません。慎重に探りを入れなければ」

 迂闊に目の前の女性の正体を明かすよりも、まずはファルティマーナに問い質して真偽を確かめるのが先決だ。もしかすると、単なる偶然かもしれないのだから。

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