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背君

 部屋に戻るとウィルオードは別室に下がり、入れ替わりにモリーが入って来る。

「ソフィア様、お帰りなさいませ」

 上機嫌の主を前にして、モリーも微笑みながら問いかけた。

「何か喜ばしいことがございましたか?」

「ええ、ルーディリートが病死したらしいの」

 末妹の死を嬉しそうに話す主に、モリーは困惑する。

「ルーディリート様は、ソフィア様の妹御では……?」

「そうよ。けれどお兄様を(たぶら)かす魔女よ」

 エリスはキッパリと言い切った。

「その魔女が亡くなったのですから、これで一族も安泰ですわ。お兄様の地上行きも治まるでしょう」

 時間を見つけては地上に赴く兄を、エリスは心配していた。何故なら、地上は命に関わる危険な場所だからだ。つい一年前にも、彼女たちの警護を担うはずだった人物が地上で落命している。

「それに、世継ぎも必要ですわ」

 言いつつエリスは頬を赤らめた。世継ぎを望もうにも、兄は指一本、彼女に触れていない。言葉すら交わさないのだから、そういう行為に至るはずもなかった。

「長様は、ソフィア様を大切になさる思いがあるのでしょうか?」

「お兄様は、まだルーディリートが忘れられないだけですわ。きっとわたくしがその凍てついたお心を解かしてみせますわ」

 自信に満ちた表情でエリスは断言する。

「仰る通りです。私めの失言でございました。お赦し下さい」

「あなたは素直な良い()です。気に病むことはないわ」

 深々と頭を下げて謝るモリーに、エリスは寛大に接する。

「ソフィアルテ様からお兄様に伝えるまでは他言無用よ」

「畏まりました」

 エリスは残っていた業務を片付けて、気分の良いまま就寝した。

 翌日、朝食を終えてエリスはモリーを呼ぶ

「ルーディリートの部屋に行きます。準備なさい」

「はい、それでは父を呼びましょうか?」

「いいえ、あなたと二人で行くわ。確か、ルーディリートの侍女たちはそのままのはず」

 城内の侍女の采配は直接の(あるじ)に指揮権があるが、最終的な人事権はソフィアの職能だ。ルーディリートが亡くなったとなれば、仕える主のいない侍女たちの行く末を手配するのが彼女の務めだ。

「今回を機に、人員配置の再考をしてみましょう」

 自らの考えを肯定的に捉えて、彼女は部屋を出た。城内は普段と変わりなく、一族の者たちはそれぞれに割り当てられた仕事を行っている。

 ソフィアの務めは長の補佐だが、兄が不在の時は代行として一族を指揮する必要もあった。現状はソフィアルテの助けもあって何とか一族の秩序は保たれている。

「ここね」

 末妹の部屋は城内の外れにある。巫女部屋もそうだが、ソフィアルテは敢えて彼女の部屋を不便な場所にしている節があった。

 モリーが通用口の扉を開けて、中へ呼びかける。

「ソフィア様の表敬です」

 急に慌ただしい音がして、奥の扉が開く。三人の女性が表の廊下へ出て来た。

「ソフィア様の表敬、ありがとうございます。主のルーディリートは不在でございますが、如何なるご用件でしょうか?」

「城内の見回りよ。中へ案内なさい」

「はい、畏まりました」

 侍女たちは手分けして動く。二人が室内に戻り、一人はエリスを表口に案内した。表口の扉が内側から開けられ彼女を迎え入れる。

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