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謀り

 会食を終えて、父母も兄も自らの部屋に戻って行った。一人になったエリスは自室に戻って寝台の上へ横になる。

「ついに、やったわ」

 末妹のルーディリートを出し抜いて、ソフィアの地位、兄の正室の座を手に入れた。嬉しさが込み上げて来る。

「みなが私をソフィアに推してくれた」

 戴冠式の後、ソフィアの指名を渋っていた兄に、一族の有力者たちは彼女を推薦した。それは普段から協力を取り付ける努力を重ねて来たのが功を奏したとも言える。努力が結実した達成感も彼女にはあった。

「後はお兄様が素直になってくれれば……」

 愛しい兄の姿を想像すると同時に、凄味を帯びた彼の視線も思い出す。殺意を思わせる鋭い眼光が彼女の精神を抉った。

「いや……、いやあ!」

 恐怖。あの時に感じた恐怖がエリスを襲う。

「お嬢様、如何(いかが)な……!」

 ウィルオードが悲鳴を聞きつけて駆け込んで来た。寝台の上で震える彼女を見て、絶句する。

「薬が切れたか」

 冷静に観察して彼はそう結論付けた。テーブルに歩み寄ると水をグラスに注ぐ。おもむろに彼は懐から錠剤を取り出した。

「お嬢様、何も怖がる必要はありません。さあ水と共に心が落ち着く薬を飲みましょう」

 言いつつ彼はエリスに薬を飲ませる。小刻みに震える彼女はちっぽけな存在にしか見えない。だがしばらくすると落ち着きを取り戻し、自信に満ちた表情になる。

「ウィルオード、手間をかけさせたわね」

「いえ、何程のこともございません」

 普段の態度に戻ったエリスに、彼は恭しく頭を垂れた。

「お疲れでしょう、本日は薬が効いている間にお休みになられませい」

「そうね、そうするわ」

 エリスは高揚している気分ではあったが、先程の恐怖心が襲って来ることを考慮して就寝しようと決めた。ウィルオードが出て行くのと入れ違いにティナたちが入って来る。

「それではお休みのご用意を致します」

 侍女たちがエリスを着替えさせて、寝台を整えて行った。彼女は寝台の上に突っ伏すと、大きく息を吐き出す。

「お兄様、今夜は来て下さらないのね」

 新婚初夜だというのに、別々の部屋で就寝するのでは今までと大差ない。取り留めのない事柄が心中を過る内に、彼女は眠りに落ちていた。

「お兄様!」

 愛しい人の背中に向かって呼びかける。追い付こうとするが、何故か距離が縮まらない。

「お待ち下さい」

 手を伸ばす。もう少しで触れる、その刹那に兄が振り返った。

「ひぃ……」

 彼女は思わず悲鳴を漏らす。兄の視線は彼女を射竦めるように鋭い。

「いや……、いや……」

 無意識に首を横に振っていた。

「いやあぁ!」

「お嬢様!」

 叫ぶ彼女を、侍女のティナが押さえる。エリスは両腕を振り回すが、肩を押さえられては身を捩るだけしか出来なかった。

「水と、ウィルオード様が用意した薬を」

 ティナが命じると金髪の若い侍女が恐る恐るグラスを差し出す。

「私が押さえている間に飲ませなさい」

「は、はい」

 エリスは暴れるのをやめて、小刻みに震えていた。ティナが彼女の上体を起こし、若い侍女が薬を口内へ含ませる。

「これで落ち着くはずです」

 水を飲ませてから横にする。小刻みに続いていた震えが治まり、瞳に生気が戻って来た。

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