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謀り

 有力者たちの応対を続けていたエリスの視界の隅に、広間へ入って来た二人の女性が留まる。

「あれは……」

「如何なさいましたかな?」

「何でもありませんわ」

 彼女は広間の隅にいる女性へ注目を集めないよう誤魔化した。銀髪の女性は白の衣裳に身を包み、平素の野暮ったさは消え失せ、可憐な雰囲気を醸している。仮に彼女と並んだ場合、美しさの競演でエリスは遅れを取る可能性が高かった。

 銀髪の女性と共に来ていたもう一人の女性は退出して行く。エリスは銀髪の女性、末妹のルーディリートを自らの近くへ呼び寄せようと考えたが、銅鑼の音で断念させられた。

「長の登壇である!」

 若い男性の声に従って、長が登壇した。

「これより戴冠式を開催する。新しき長であるランティウスと、立会人であるソフィアよ、こちらへ」

 長の開始宣言を受けて、黒の正装を着用したランティウスと、白の正装を着用したソフィアが入って来る。エリスから見て向かって左に長、右にソフィアが佇み、兄はその二人の中間へ片膝をついた。

「我はここに長の力を継ぐ者としてランティウスを指名し、継承式を執行した」

 「わたくしは立会人として、継承式が滞りなく執り行われたことを証明します」

 長とソフィアの宣言に、一族の有力者たちは大きく頷く。長は自らの頭上に戴いていた冠を外して、ランティウスに歩み寄った。

「ランティウスよ、一族を導くにあたり、その身を捧げるか?」

「はい、我が身は一族の礎として、この力のあらん限りを尽くします」

 兄が(こうべ)を垂れると、その頭上へ長は冠を被せた。

「いざ立て! ここに我らは新たなる長の誕生を宣言する」

 ランティウスが立ち上がると、広間内に拍手が鳴り響く。エリスも微笑んで拍手を送った。壇上の兄は普段以上に凛々しく見え、彼女の胸を締め付ける。

「それでは新しい長によるソフィア選定を行う。同伴者は壁際へ退き、我こそと思う者は残れ」

 司会を務める若い男性の指示に応じて、同伴者として訪れていた者達が壁際へ立ち退いた。残った女性たちはエリスを先頭の中央にして、隊伍を組む。

「それでは、新しい伴侶を選定して下さい」

 求めに応じて、ランティウスは壇上から降りると、立ち並んだ女性たちを順番に見て行く。これもほとんど形式だけで、必ず一度は全員の前を通り、二周目で意中の相手を指名するのが慣例だった。

 エリスの前を兄が通り過ぎる。彼は着飾った彼女と目を合わせようともしないままに歩を進めた。一周目を回り終えて、彼は最後尾から逆流するように戻り始める。壁際の同伴者たちも固唾を飲んで見守っており、広間はランティウスの足音だけが支配する。

 彼女の目の前に再び兄が来た。期待感でエリスの胸は高鳴る。だが、兄は再び通り過ぎた。

「長よ、選定は?」

 司会の若い男性は困惑したように問い掛けた。通常なら、ここで決まるはずだがランティウスは眉根を寄せ腕組みしている。

「もう一度、確認させてくれ」

「長のお心のままに」

 ランティウスは三度目の正直とばかりに入念にそれぞれの顔を確認している。エリスには誰を探しているのか察しが付いた。それと共にウィルオードが仕掛けた事柄が成功したのも確信する。

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