表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/50

謀り

   〈謀り〉


 戴冠式を控えて城内は慌ただしくなっていた。その喧騒を離れた一室に一組の男女が訪れている。

「これをあの子が?」

 氷で覆われ床と壁、更に天井からは人ほどの大きさもある氷柱(つらら)が下がっている。

「全て、お嬢様お一人の力です」

 数歩離れた位置で男性が(こうべ)を垂れた。

「あれから、十日以上も経ったというのに」

 女性の口元に笑みが広がる。娘の実力を推し量って喜びが隠せない。

「ウィルオード、あの月の娘は?」

「お嬢様の足元にも及びません。次のソフィア様に相応しいのは、実力から見てもお嬢様以外は考えられません」

 彼が集めた情報を分析した結果だ。

「それでも万が一の事態も考えられる。あの子の望み通り、抜かりなく手筈を整えなさい」

「畏まりました、姉上」

 ウィルオードは大仰に頭を下げた。氷漬けの部屋を後にして姉弟は自室に戻って来る。

「お帰りなさいませ奥方様。お嬢様がお目覚めです」

「ウィルオード、後は任せたぞえ」

 出迎えた侍女と共にカミナーニャは奥へ引っ込んだ。後事を託されたウィルオードはエリスの部屋に向かう。

「お嬢様、お目覚めでしょうか?」

「ウィルオード? いいわ入りなさい」

「失礼致します」

 彼が室内に入ると、彼女は着替えの途中だった。下がろうとした彼を、エリスが止める。

「お待ちなさい。すぐに話がしたいの」

「はい」

 彼はなるべくエリスの姿を見ないで済むように、壁際で視線を逸らしたまま佇む。

「ウィルオード、わたくしには魅力がありませんか?」

「お嬢様の魅力は、城内の誰しも憧れております」

「世辞はいらないわ。お兄様があの小娘に靡いたのは、わたくしに魅力がないからでしょう?」

「そのようなことはございません」

 会話を続ける二人を余所に、エリスの身支度を整えた侍女たちは立ち去る。ウィルオードが視線を彼女に戻すと、そこには美しい華があった。

「お嬢様のお美しさは、私めには眩し過ぎます」

「それでは何故?」

 エリスは奥歯を噛み締めた。

「何故、お兄様はわたくしに振り向いて下さらないの?」

 その一点が彼女は悔しかった。拳を握り締め、肩を震わせる。その彼女に、ウィルオードは言葉を選びながら声を掛けた。

「お嬢様、僭越ながら申し上げます。若君は照れ隠しをなさっておられるのではないでしょうか?」

「ウィルオード、下手な慰めは不要よ」

 エリスは平素の毅然とした態度に戻った。

「これは失礼しました」

 ウィルオードは頭を下げる。

「それではお嬢様、これより長の元へ向かいます」

「分かりましたわ」

 従者と共に廊下へ出ると、母が待っていた。母娘は黙ったまま城内を進む。行き先は長の執務室。

 誰に会うこともなく執務室に到着する。長は執務室の机の前に腰掛けていた。

「カミナーニャとエリス、お召しにより参上致しました」

「おお、よく参った。こちらに掛けよ」

 長は立ち上がり、執務室の隅にある長椅子へ母娘を案内した。低いテーブルを挟んで対面に長が腰掛ける。侍女たちが進み出て卓上へお茶と菓子類を並べると、流れるように退出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ