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火種

平日毎朝8時に更新。

   〈火種〉


「許せませんわ」

 二階のテラスから青い薔薇が咲き乱れる奥庭を見下ろしながら、金髪の彼女はその小さな拳を握り締めた。視線の先には、愛しい兄と仲睦まじく話す銀髪の少女がいる。

「どうして、あの()なの?」

 共に過ごした時間で言えば、彼女の方が長かった。それにあらゆる点で彼女が(まさ)っているのは周囲の評価からも明らかだ。

「次のソフィアは、お兄様の妻に相応しいのはルーディリート、お前ではありませんことよ」

 憎しみの炎を宿す瞳で彼女は、兄と歓談するルーディリートを睨み付ける。思い返せば、彼女が二の次にされるようになったのは末妹が彼女たち兄姉に紹介されてからだ。

「お前さえ、いなければ」

 憎しみと嫉妬が混じる情念の炎に、彼女は取り込まれようとしていた。

「お嬢様」

 後ろから呼びかけられて、彼女は振り返る。金髪の男性が恭しく頭を下げていた。黒の衣裳は男性の正装で、彼は常にこの姿だ。

「ウィルオード、何用かしら?」

「御母上様がお呼びでございます」

 彼女は未だに奥庭で歓談を続けている兄妹を一瞥してから、忌々しそうに部屋へ戻る。

「御母様のお呼びでは仕方ありませんわね」

 彼女の母カミナーニャは長の妻の一人で、優秀な術士でもある。母の用件は新しい術を試すのに、その補助を彼女に頼むことだろうと予測して、耐魔用の服を着用した。

「ウィルオード、案内して頂戴」

「はい、こちらでございます」

 彼女は奥庭の出来事を忘れようと、足早に母の許へ向かう。

 城の奥には魔術実験に用いる部屋が幾つかあった。ウィルオードはその中の一つに彼女を案内する。

「こちらでございます」

「ご苦労」

 彼女は尊大に答えるが、これは母からの指示で尊大に振る舞っているだけである。

「よく来たわねエリス。さあ、こちらへ」

 婉然と微笑むのは彼女の母カミナーニャだ。母は長の側室ではあるが、その魔法能力で一族を支えている。当然ながら娘のエリスにも能力の一端を担わせようとしているのだ。

「ウィルオードや、部屋でお茶の準備をしておくれ」

「畏まりました」

 深々と頭を下げてから、彼は立ち去った。

「それでは、始めようかのぅ」

 カミナーニャによる魔術実験は小一時間ほど行われた。

since 2020


誤字の訂正をしました(20200323)

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